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第二章 ククル奪還編
チャプター5 ククルの過去その2
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目が覚めると自室の草のベッドの上にいた。
かあさんは心配そうな表情でボクの側で見守っていた。
ボクが目を覚ますと安心したように溜息をつき。
「ククル!」
とボクを抱きしめた。
フワフワのシッポをボクの身体にギュッと巻き付けて「良かった」と震える声で呟いた。
「かあさん……」
森での出来事を何て話せばいいか解らなかった。
父さんが人間に連れ去られたなんて、こんな状態の母さんに言ったらどうなってしまうか……。
ボクは俯き考える。
「聞いたわ……」
ボクの考えを見透かしたかのように、かあさんが話し出す。
「聞いたわ、冷凍熊のおじさんから。あなたに森で偶然会って、心配で様子を見に行ったんですって。最近は人間の出入りがある事は知っていたけれど、まさか父さんが……」
かあさんは言葉に詰まり、尻尾を震わせる。
しかし、すぐに不安そうな表情を一変させると
「ククルは何にも心配する事はないのよ。父さんは必ず帰ってくるから、ルククもモココも、それからククルも母さんが命がけで守るから何も心配する事はないのよ」
そう言って穏やかに微笑み、尻尾でボクの頭を優しく撫でると
「疲れたでしょう。少しおやすみ」
そう言って、ボクの部屋から出ていく。
でも、その頃のボクはまだ知らない。
かあさんが相当無理をしていた事を……。
☆☆☆
「ククルにいちゃん、ママおそいね」
「ママのしっぽの毛、ぬけてきたんだよ」
おかあさん大丈夫かなぁ、とモココちゃんとルククくんが心配そうに呟く。
かあさんは、父さんがいなくなってから朝も晩も働きにでた。
村長の家の掃除に、テコの実の採取、それから冷凍熊のおじさんの家の御飯を作って、代わりに魚をもらって帰ってくる事もあった。
『ボクに何か手伝える事はないカイ?』そう何度も聞いたけれど帰ってくる返事はいつも同じだった。『モココとルククの事をお願いね』
父さんほどではないけど、ボクだってテコの実ぐらいなら採取出来る。
でもこの森に豊富にあったはずのテコの実も、人間のせいで日に日に少なくなり、今では限られた数しか採取出来ないよう村長がルールを作った。
かあさんは一日に採取出来る少ないテコの実で僕達3匹を育てる事は難しいと判断したのだろう。
可哀想なほど一日中働き詰めの日々を送っていた。
それは、ある日の出来事だった。かあさんの助けになればと、ルククくんとモココちゃんがお昼寝をして手が空いた隙にテコの実を採取しに行った。
採取制限があるので多く採らないように4個をポケットに忍びこませて、なるべく足音を立てずに洞ハウスに帰ろうとしていた時、テコの木に紙が貼りつけてある事に気づいた。
文字は人間が描く文字で、ボクには何て書いてあるのか見当がつかなかった。
――何だろう?
ボクは好奇心で紙をむしり取ると村長の家に持っていった。
三ツ目ふくろうの村長は、三ツ目でしげしげと眺めるとこう言った。
「モフモフの獣募集~あなたも神獣として第二の人生を送りませんか。神の気まぐれにお付き合い頂ける方は、明朝切り株広場へ~ミカエル様の舎弟サルエルより~尚、お付き合い頂ける獣様にはお好きなお願い事を1つ大天使ミカエル様がお叶えします、奮ってご応募下さい。と書いておるな」
「願い事は何でもいいの!?」
ボクは興奮気味に村長に質問する。
「うーむ、しかしこれが本当の事かは解らないでの。そもそも神獣というものを聞いた事も見た事もない、何やら良からぬ事のような気がする。とにかく上手い話しには必ず裏がある。これは朗報でも何でもないでな、とにかく何でも信用してはならぬぞククル」
村長にはそう反対されて釘を刺されたけど、ボクにはこれしかないと思った。
願い事を何でも叶えてくれるなんてチャンスだ、そう思った。
「村長、ありがとうございました!」
元気にお返事をし、村長の家を後にしようとドアを潜ろうとした所で「そう言えばククル、さっきもお前の母親が……」と村長に声をかけられた。
かあさんがどうかしたんですか? と聞き返す前に村長が「いいや、何でもない」と悲しそうな目をした。
ボクはわだかまりを残しながらも村長の家を後にする。
洞ハウスに着くと母さんが出迎えてくれた。
「ククル、おかえり」
かあさんは何だか少し元気そうに見えた。
やつれてはいたけれど、どこか希望に満ちていた。
「ククル。ククルに良い知らせがあるのよ」
かあさんは諭すように言った。
「明朝、切り株広場へ行くのよ。そうすれば必ず良い事があるの」
――それからもう一つ。絶対に嘘はダメよ。
かあさんの言葉が頭の中でこだまする。
ああ、そうか……。
かあさんは嘘をつかなければいけないぐらいに追い込まれていたんだ。
嘘をつかれた事が悲しいとか、裏切られたとかそんな気持ちにはならなかった。
ただ、ただあの真っすぐな母さんを嘘つきに変えた人間が憎かった。
「うわぁ、本当! 必ずいい事があるの。じゃあ、明日は早起きしなきゃ!」
ボクは大袈裟にジャンプして喜ぶ。
かあさんが嘘をついている事には気づかないフリをしてはしゃぐ。
でも解っていた。
かあさんの悲しそうな瞳で気付いていた。
――ごめんね。ククル。
そういう瞳だった。
でも、大丈夫だよ。
かあさんのお願い事はボクが叶えてくるからね。
☆☆☆
「まぁ、可愛いモフモフちゃんです事。サルエル、グッジョブです☆」
「キュイッ、キュイッ」
「ああ、そうですね。まずは共通言語を付与しましょう。モフモフが喋れるなんて面白いですからね。それ」
「はっ、あ、あなた様はどなた様ですカ!?」
「あははっ、どなた様だなんてミカエル様ですよ」
「ミ、ミカエル様という方なのですネ!?」
頭が混乱していた。
ミカエルさんはとても綺麗な顔立ちをしていた。
人間の顔を綺麗とボクが思うのも変な話だけど直観でそう思った。
「あの、ボクお願い事があって」
「はいお願い事ですね。何でも一つ叶えてあげますよ、約束ですからね」
「あの、ボクの住んでいるテコロルの森で、人間がテコの実というボク達の主食を乱獲してるんです。それで森に住んでる獣達が困っていて、皆を助けてあげて欲しいんです!」
「なるほど、なるほど。お安い御用です。ちょっとお待ち下さいね。転移・テコの森へ!」
ヒュンッと風のような音がしたかと思うと、ミカエルさんはボクの目の前から消えていた。
あまりの出来事に呆気に取られているとミカエルさんの側にいた寡黙そうな男の人が
「心配する事はない。君の願い事を叶えて、すぐに戻ってくるだろう」
そう言って少しだけ微笑んだ。
その不器用そうな笑顔にボクは少し安心した。
その人の言う通り、ミカエルさんはすぐに戻ってきた。
「どうも、戻りましたよククルちゃん」
ミカエルさんはボクにウインクすると
「私のスキル、インフィニティーグロースでテコの実が無限に増殖するようにしてきましたよ。採取されても、1秒で実るようにしてきましたから取り放題ですよ☆」
「ほ、本当ですカ! ありがとうございますミカエル様!」
「そんな様だなんて、ミーちゃんでいいですよ」
そうへらへら笑うミカエルさんは、本当に凄い神様みたいな人だと思った。
これで、皆お腹が減らずにすむ。
これで母さんは2度と嘘をつかないですむ。
それが本当に嬉しかった。
「さて、ククルちゃん。ここからが本題ですがあなたには私達神族のスペシャルな力、スキルを付与します」
「スキルですか?」
スキル、聞いた事がない言葉だった。
「まぁ、魔法みたいなものですかね。誰かが困っている時に、その困っている誰かを助ける力です。モフモフちゃん一匹に対して2つまで付与します。一つは私が適当に面白そうなスキルを見繕いますが、もう一つは出来れば希望に沿ったものを付与しますよ」
「そうなのですか。困っている誰かを助けるっていい響きですネ。じゃあ、一つはこんなスキルがいいですね」
ボクはミカエルさんに耳打ちをする。
「なるほどなるほど、それは面白い。ではまず一つ目ですね。う~ん、そうだなー、モフモフが巨大化したら面白そうですね。ちょっとお待ちくださいね。おーいギガンテスー」
ゴゴゴゴゴ、と地響きがする。
次の瞬間、視界に入ったその巨大な体躯を見てボクは絶句する。
テコの木なんて比じゃないほどの巨体、筋肉で盛り上がった腕は下敷きになったら、ひとたまりもないと思うぐらいに巨大で恐ろしかった。
巨大で真っ赤な一つ目がボクを凝視する。
「うっ」
あまりの恐怖に言葉が詰まる。
「ダメですよ。ギガンテスそんなに凝視したら。見るだけで心臓ショックを起こし兼ねない風体だという事をお忘れなく」
「……ううっ、酷いですよぅーミカエル様。私が人見知りだって知ってる癖に……。だからこそ目を合わせなきゃって頑張っているのに……」
「あははっ、勿論知ってますよ。でも皆怖がってますから止めましょうね」
「うううっ……」
「はい、泣かないの」
ボタボタと、大粒の涙が流れると辺りが水浸しになる。
「小心者なんです。ワタシ……」
「知ってますよ」
ミカエルさんがギガンテスさんの頭をなでなでする。
「で、早速なんですが、あなたのラージメントをククルちゃんに付与して下さい」
「うううっ……解りました」
ギガンテスさんは意外とすんなり泣き止むとボクに向かって手をかざした。
「私の身体を駆け巡る巨人の力よ、目の前の無垢な魂に力を与えるがよい。ラージメント!」
「うっ!」
身体が熱い。
身体の底からエネルギーが湧いてくるようダ。
頭の中で声がする。
――ラージメントを取得しました。
「これで無事に一つ目のスキルが付与されました。では今度は私の番ですね。汝が望みし空想の力よ汝が望むまま汝の助けとなれ!」
「うわっ!?」
今度は身体が痺れるようにビリビリと痛い。
雷が身体に落ちた時ってこんな感覚なのかもしれない。
今度はさっきみたいに頭の中で声がしなかった。
「このスキルは、ククルちゃんのスキルレベルが低いのでまだ発動はしません。頑張ってスキルレベルを上げて下さいね」
「スキルレベル?」
不思議そうに首を傾げるボクにミカエルさんが微笑んで教えてくれた。
「簡単に言うと経験ですかね。何度もスキルに親しむ事でレベルが上がります。ククルちゃんならきっとすぐにレベルが上がりますよ」
「ありがとうございます!」
良く解らない事もあったけれど、ボクは頭を下げる。
「それから」
ミカエルさんは少しバツが悪そうな顔で言う。
「ちょっと可哀想なのですがククルちゃんにはこのカプセルの中に転移して眠ってもらいます。このカプセルの中は静止空間になっているので、このカプセルの中にいれば老いる事はありません。あなたを必要としている人が現れるまでの間この中にいて下さい。
そうだ、再び召喚されるまでにどのぐらいの年月がかかるか解りませんから、カプセルの中の空間を異世界図書館と繋がるように細工しておきますね。色々な本があるので飽きませんよ。異世界図書館は様々な種族が利用してますから、ククルちゃんが利用しても不自然ではありませんからバンバン活用して下さい」
こんなに小さなカプセルの中に別の空間が広がっているなんて、にわかに信じられなかったけれどボクは頷いた。
ミカエルさんは恩人だ。
ミカエルさんの頼みなら断れるはずがない。
「わかりましタ。そのカプセルの中でお昼寝したり異世界図書館に行ってお勉強してきたり頑張りまス」
「フフフ。聞き分けの良い可愛い子ですね。きっとククルちゃんの事を大切に思ってくれる良いご主人が現れますよ」
「ハイ!」
「転移! ククルちゃんをカプセルの中の静止空間へ!」
カプセルの中は気温が一定でお腹が減る事もなかった。
カプセルの中は薄暗くて広い。ミカエルさんの言っていた異世界図書館はボクが転移した静止空間の中に本当にあった。
受け付けのお姉さんは獣であるボクにも親切に対応してくれたし、図書館は多種多様な生物が来館していた。
ボクが見た事もない外来種の獣に、人間の顔をした魚。
知的なゴーレム、博識なスライム。
そこでは友達も出来た。
ボクは異世界図書館に行く度に、お金に関する本を読み漁った。
いつか故郷に帰った時に、お金の力で森の皆を幸せにする為に。
そんな日々を繰り返している内に、ある日薄暗かったカプセルの中に光が差し込んだ。
あまりの眩しさに驚いたけれど、それは久しく触れていなかった外の世界の光だった。
今でも鮮明に覚えているのは、とても優しそうな顔をしたお爺さんがボクの事を愛おしそうに見ていたという事だ。
それがボクと爺さんの初めての出会いだという事を、その頃のボクは知る由もなかった。
かあさんは心配そうな表情でボクの側で見守っていた。
ボクが目を覚ますと安心したように溜息をつき。
「ククル!」
とボクを抱きしめた。
フワフワのシッポをボクの身体にギュッと巻き付けて「良かった」と震える声で呟いた。
「かあさん……」
森での出来事を何て話せばいいか解らなかった。
父さんが人間に連れ去られたなんて、こんな状態の母さんに言ったらどうなってしまうか……。
ボクは俯き考える。
「聞いたわ……」
ボクの考えを見透かしたかのように、かあさんが話し出す。
「聞いたわ、冷凍熊のおじさんから。あなたに森で偶然会って、心配で様子を見に行ったんですって。最近は人間の出入りがある事は知っていたけれど、まさか父さんが……」
かあさんは言葉に詰まり、尻尾を震わせる。
しかし、すぐに不安そうな表情を一変させると
「ククルは何にも心配する事はないのよ。父さんは必ず帰ってくるから、ルククもモココも、それからククルも母さんが命がけで守るから何も心配する事はないのよ」
そう言って穏やかに微笑み、尻尾でボクの頭を優しく撫でると
「疲れたでしょう。少しおやすみ」
そう言って、ボクの部屋から出ていく。
でも、その頃のボクはまだ知らない。
かあさんが相当無理をしていた事を……。
☆☆☆
「ククルにいちゃん、ママおそいね」
「ママのしっぽの毛、ぬけてきたんだよ」
おかあさん大丈夫かなぁ、とモココちゃんとルククくんが心配そうに呟く。
かあさんは、父さんがいなくなってから朝も晩も働きにでた。
村長の家の掃除に、テコの実の採取、それから冷凍熊のおじさんの家の御飯を作って、代わりに魚をもらって帰ってくる事もあった。
『ボクに何か手伝える事はないカイ?』そう何度も聞いたけれど帰ってくる返事はいつも同じだった。『モココとルククの事をお願いね』
父さんほどではないけど、ボクだってテコの実ぐらいなら採取出来る。
でもこの森に豊富にあったはずのテコの実も、人間のせいで日に日に少なくなり、今では限られた数しか採取出来ないよう村長がルールを作った。
かあさんは一日に採取出来る少ないテコの実で僕達3匹を育てる事は難しいと判断したのだろう。
可哀想なほど一日中働き詰めの日々を送っていた。
それは、ある日の出来事だった。かあさんの助けになればと、ルククくんとモココちゃんがお昼寝をして手が空いた隙にテコの実を採取しに行った。
採取制限があるので多く採らないように4個をポケットに忍びこませて、なるべく足音を立てずに洞ハウスに帰ろうとしていた時、テコの木に紙が貼りつけてある事に気づいた。
文字は人間が描く文字で、ボクには何て書いてあるのか見当がつかなかった。
――何だろう?
ボクは好奇心で紙をむしり取ると村長の家に持っていった。
三ツ目ふくろうの村長は、三ツ目でしげしげと眺めるとこう言った。
「モフモフの獣募集~あなたも神獣として第二の人生を送りませんか。神の気まぐれにお付き合い頂ける方は、明朝切り株広場へ~ミカエル様の舎弟サルエルより~尚、お付き合い頂ける獣様にはお好きなお願い事を1つ大天使ミカエル様がお叶えします、奮ってご応募下さい。と書いておるな」
「願い事は何でもいいの!?」
ボクは興奮気味に村長に質問する。
「うーむ、しかしこれが本当の事かは解らないでの。そもそも神獣というものを聞いた事も見た事もない、何やら良からぬ事のような気がする。とにかく上手い話しには必ず裏がある。これは朗報でも何でもないでな、とにかく何でも信用してはならぬぞククル」
村長にはそう反対されて釘を刺されたけど、ボクにはこれしかないと思った。
願い事を何でも叶えてくれるなんてチャンスだ、そう思った。
「村長、ありがとうございました!」
元気にお返事をし、村長の家を後にしようとドアを潜ろうとした所で「そう言えばククル、さっきもお前の母親が……」と村長に声をかけられた。
かあさんがどうかしたんですか? と聞き返す前に村長が「いいや、何でもない」と悲しそうな目をした。
ボクはわだかまりを残しながらも村長の家を後にする。
洞ハウスに着くと母さんが出迎えてくれた。
「ククル、おかえり」
かあさんは何だか少し元気そうに見えた。
やつれてはいたけれど、どこか希望に満ちていた。
「ククル。ククルに良い知らせがあるのよ」
かあさんは諭すように言った。
「明朝、切り株広場へ行くのよ。そうすれば必ず良い事があるの」
――それからもう一つ。絶対に嘘はダメよ。
かあさんの言葉が頭の中でこだまする。
ああ、そうか……。
かあさんは嘘をつかなければいけないぐらいに追い込まれていたんだ。
嘘をつかれた事が悲しいとか、裏切られたとかそんな気持ちにはならなかった。
ただ、ただあの真っすぐな母さんを嘘つきに変えた人間が憎かった。
「うわぁ、本当! 必ずいい事があるの。じゃあ、明日は早起きしなきゃ!」
ボクは大袈裟にジャンプして喜ぶ。
かあさんが嘘をついている事には気づかないフリをしてはしゃぐ。
でも解っていた。
かあさんの悲しそうな瞳で気付いていた。
――ごめんね。ククル。
そういう瞳だった。
でも、大丈夫だよ。
かあさんのお願い事はボクが叶えてくるからね。
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「キュイッ、キュイッ」
「ああ、そうですね。まずは共通言語を付与しましょう。モフモフが喋れるなんて面白いですからね。それ」
「はっ、あ、あなた様はどなた様ですカ!?」
「あははっ、どなた様だなんてミカエル様ですよ」
「ミ、ミカエル様という方なのですネ!?」
頭が混乱していた。
ミカエルさんはとても綺麗な顔立ちをしていた。
人間の顔を綺麗とボクが思うのも変な話だけど直観でそう思った。
「あの、ボクお願い事があって」
「はいお願い事ですね。何でも一つ叶えてあげますよ、約束ですからね」
「あの、ボクの住んでいるテコロルの森で、人間がテコの実というボク達の主食を乱獲してるんです。それで森に住んでる獣達が困っていて、皆を助けてあげて欲しいんです!」
「なるほど、なるほど。お安い御用です。ちょっとお待ち下さいね。転移・テコの森へ!」
ヒュンッと風のような音がしたかと思うと、ミカエルさんはボクの目の前から消えていた。
あまりの出来事に呆気に取られているとミカエルさんの側にいた寡黙そうな男の人が
「心配する事はない。君の願い事を叶えて、すぐに戻ってくるだろう」
そう言って少しだけ微笑んだ。
その不器用そうな笑顔にボクは少し安心した。
その人の言う通り、ミカエルさんはすぐに戻ってきた。
「どうも、戻りましたよククルちゃん」
ミカエルさんはボクにウインクすると
「私のスキル、インフィニティーグロースでテコの実が無限に増殖するようにしてきましたよ。採取されても、1秒で実るようにしてきましたから取り放題ですよ☆」
「ほ、本当ですカ! ありがとうございますミカエル様!」
「そんな様だなんて、ミーちゃんでいいですよ」
そうへらへら笑うミカエルさんは、本当に凄い神様みたいな人だと思った。
これで、皆お腹が減らずにすむ。
これで母さんは2度と嘘をつかないですむ。
それが本当に嬉しかった。
「さて、ククルちゃん。ここからが本題ですがあなたには私達神族のスペシャルな力、スキルを付与します」
「スキルですか?」
スキル、聞いた事がない言葉だった。
「まぁ、魔法みたいなものですかね。誰かが困っている時に、その困っている誰かを助ける力です。モフモフちゃん一匹に対して2つまで付与します。一つは私が適当に面白そうなスキルを見繕いますが、もう一つは出来れば希望に沿ったものを付与しますよ」
「そうなのですか。困っている誰かを助けるっていい響きですネ。じゃあ、一つはこんなスキルがいいですね」
ボクはミカエルさんに耳打ちをする。
「なるほどなるほど、それは面白い。ではまず一つ目ですね。う~ん、そうだなー、モフモフが巨大化したら面白そうですね。ちょっとお待ちくださいね。おーいギガンテスー」
ゴゴゴゴゴ、と地響きがする。
次の瞬間、視界に入ったその巨大な体躯を見てボクは絶句する。
テコの木なんて比じゃないほどの巨体、筋肉で盛り上がった腕は下敷きになったら、ひとたまりもないと思うぐらいに巨大で恐ろしかった。
巨大で真っ赤な一つ目がボクを凝視する。
「うっ」
あまりの恐怖に言葉が詰まる。
「ダメですよ。ギガンテスそんなに凝視したら。見るだけで心臓ショックを起こし兼ねない風体だという事をお忘れなく」
「……ううっ、酷いですよぅーミカエル様。私が人見知りだって知ってる癖に……。だからこそ目を合わせなきゃって頑張っているのに……」
「あははっ、勿論知ってますよ。でも皆怖がってますから止めましょうね」
「うううっ……」
「はい、泣かないの」
ボタボタと、大粒の涙が流れると辺りが水浸しになる。
「小心者なんです。ワタシ……」
「知ってますよ」
ミカエルさんがギガンテスさんの頭をなでなでする。
「で、早速なんですが、あなたのラージメントをククルちゃんに付与して下さい」
「うううっ……解りました」
ギガンテスさんは意外とすんなり泣き止むとボクに向かって手をかざした。
「私の身体を駆け巡る巨人の力よ、目の前の無垢な魂に力を与えるがよい。ラージメント!」
「うっ!」
身体が熱い。
身体の底からエネルギーが湧いてくるようダ。
頭の中で声がする。
――ラージメントを取得しました。
「これで無事に一つ目のスキルが付与されました。では今度は私の番ですね。汝が望みし空想の力よ汝が望むまま汝の助けとなれ!」
「うわっ!?」
今度は身体が痺れるようにビリビリと痛い。
雷が身体に落ちた時ってこんな感覚なのかもしれない。
今度はさっきみたいに頭の中で声がしなかった。
「このスキルは、ククルちゃんのスキルレベルが低いのでまだ発動はしません。頑張ってスキルレベルを上げて下さいね」
「スキルレベル?」
不思議そうに首を傾げるボクにミカエルさんが微笑んで教えてくれた。
「簡単に言うと経験ですかね。何度もスキルに親しむ事でレベルが上がります。ククルちゃんならきっとすぐにレベルが上がりますよ」
「ありがとうございます!」
良く解らない事もあったけれど、ボクは頭を下げる。
「それから」
ミカエルさんは少しバツが悪そうな顔で言う。
「ちょっと可哀想なのですがククルちゃんにはこのカプセルの中に転移して眠ってもらいます。このカプセルの中は静止空間になっているので、このカプセルの中にいれば老いる事はありません。あなたを必要としている人が現れるまでの間この中にいて下さい。
そうだ、再び召喚されるまでにどのぐらいの年月がかかるか解りませんから、カプセルの中の空間を異世界図書館と繋がるように細工しておきますね。色々な本があるので飽きませんよ。異世界図書館は様々な種族が利用してますから、ククルちゃんが利用しても不自然ではありませんからバンバン活用して下さい」
こんなに小さなカプセルの中に別の空間が広がっているなんて、にわかに信じられなかったけれどボクは頷いた。
ミカエルさんは恩人だ。
ミカエルさんの頼みなら断れるはずがない。
「わかりましタ。そのカプセルの中でお昼寝したり異世界図書館に行ってお勉強してきたり頑張りまス」
「フフフ。聞き分けの良い可愛い子ですね。きっとククルちゃんの事を大切に思ってくれる良いご主人が現れますよ」
「ハイ!」
「転移! ククルちゃんをカプセルの中の静止空間へ!」
カプセルの中は気温が一定でお腹が減る事もなかった。
カプセルの中は薄暗くて広い。ミカエルさんの言っていた異世界図書館はボクが転移した静止空間の中に本当にあった。
受け付けのお姉さんは獣であるボクにも親切に対応してくれたし、図書館は多種多様な生物が来館していた。
ボクが見た事もない外来種の獣に、人間の顔をした魚。
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そこでは友達も出来た。
ボクは異世界図書館に行く度に、お金に関する本を読み漁った。
いつか故郷に帰った時に、お金の力で森の皆を幸せにする為に。
そんな日々を繰り返している内に、ある日薄暗かったカプセルの中に光が差し込んだ。
あまりの眩しさに驚いたけれど、それは久しく触れていなかった外の世界の光だった。
今でも鮮明に覚えているのは、とても優しそうな顔をしたお爺さんがボクの事を愛おしそうに見ていたという事だ。
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魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~
岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。
順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。
そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。
仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。
その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。
勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。
ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。
魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。
そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。
事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。
その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。
追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。
これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。
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