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第二章 ククル奪還編

チャプター3 嵐の後の静けさ

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「しかしお見事! 神渡殿がこんなにも器用な女性だったとは」

「まぁ、日曜大工とかは得意だったからな。親父は不器用な人だったし」

「日曜大工? 何やら聞きなれない言葉だが感謝申す」

 ククル襲来からまだわずか、わだかまりを残しながらもワシらは王都バブルブルグを目指しておった。
 アルガスが勢いよく蹴破った馬車じゃったが、神渡が簡単に修復したのには驚きじゃった。

 それは器用なもので、近くにあった大木を闇の鎌でなぎ倒し大木の皮を器用に剥いだ神渡は、大木から出た樹液を使って剥ぎ落した大木の皮を、馬車の破損した部分に貼り付け穴埋めに使ったのじゃった。

 職人のワシでも見とれてしまう職人技じゃった。
 その職人技に思いを馳せていると突如、眠りこけるサフィアが寝言を漏らす。

「わらひは、なんにも悪ひ事はしれないんれすよ。アルガス様はホモらし、部下はイケメンばかりで、アルガス様はホモホモ騎士団にするのが夢なんれすよ。わらひは騙されたんれすよ。ズピー、ズガガガガゴゴ、スピー」

「寝言だ。気にしないでくれ」

 ニッコリと答えるアルガスだったが、わだかまりは更に増したのじゃった。
 しばらく沈黙が続いた後、空気の読めない天使が口を開いたのじゃった。

「まぁ、色んな人生があるのですね。所で、先ほどのククルちゃん襲来事件についてなのですが、アルガスさんは何かお心当たりがあるのでは?」

「あぁ、あるにはある。しかし……」

 アルガスはしばらく考え込んだ後、続けたのじゃった。

「私がここ数日調査した結果なのだが、近隣で神獣の暴走が多発しているらしいのだ。それも共通点があり、神獣は皆一様に狂ったように暴れ回るらしいのだ」

 言葉を一旦切ったアルガスが、動揺した様子で続けよる。

「しかし、あんなにも巨大な神獣を見たのは初めてだったので、そもそも神獣だとは思わなかったのだが……」

 アルガスが冷や汗を拭いながら続けよる。

「サフィアがいなければ、今頃はどうなっていた事か」

「わらひは、騙されたんれすよ。だって、イケメン騎士団専属聖女だなんれ、女の子なら誰でも憧れるんでふよ? でもホモらし、騙されたんれす。スピーガゴゴゴゴゴ」

「はははっ、気にしないでくれだが。それにしても寝言に聞こえない寝言とは恐れいった。これが聖女の力か」

「それ、聖女関係ないだろ」

 神渡が冷静に突っ込みよる。

「あのー、ククルちゃんの巨大化についてなのですが……」

 ミカエルが恐縮そうに切り出しよる。

「ククルちゃんが巨大化していたのは巨人族である神ギガンテスのスキル、ラージメント巨大化が発動していたからだと思います。神獣は神族が野生の獣にスキルを与える事で誕生した、言葉は悪いですが……いわゆるスキル兵器なんですよね。最初は動物が喋ったら面白そう! 共通言語与えてみちゃおっ☆ というノリで神獣制作が始まりました。その内神族の特徴でもある面白好きの血が騒いで、スキルが使えたら面白いじゃんというノリでスキルが使える神獣が誕生したのです」

「全く、くだらねぇー事するなほんとは」

 神渡が呆れたように溜息交じりに呟きよる。
 しかし神渡のリアクションとは打って変わって、アルガスは
  
「ミカエル殿は神とお知り合いなのですか!?」

 驚いた様子で鼻息荒くミカエルに問う。

「そうですねぇ、知り合いというか私が神? といいますか」

「自分で自分を神格化するとは! さすがミカエル殿!」

「いやぁー照れますねー。まぁなんですが」

「そこまでの人物はなかなかおりませんぞ!」

 アルガスにベタ褒めされて舞い上がっているミカエルに対し神渡が

「まぁ、お世辞はそこら辺にしといてもらってだな、要するにククルがラージメント巨大化している状態で何者かがオペレーション操作スキルを発動したって解釈でいいんだろ?」

「ご名答☆」

 ミカエルがパチンっと指を鳴らしよる。
 ワシは内容が100%は理解できておらんが、ククルが悪者によって操られているというのは理解出来たのじゃった。

「さすが、スキルマニアの神渡さんですね。理解が早い」

「茶化すのはいいんだよ。真剣に喋れや」

 ミカエルはつまらなそうに口を尖らしよる。
 ククルLOVEの神渡は、先程のククルの姿に余程動揺したのか、いつものミカエルのからかいの誘いには乗らずに続けよる。

「ラージメントは身体にすげー負担がかかるって、スキル関係の書物で読んだ事がある。しかもあんなにも長い時間維持出来るのは熟練のスキル保有者でも難しいはずだ。ましてや神獣は自分のスキルを上手くコントロール出来ないと聞いた事がある」

 神渡は俯きしばらく考え込んだ後、思い付いたように顔を上げよる。

「確か、怒り・喜び・悲しみ、そういった感情によって神獣はスキルを発動するはずなんだ。神獣は自分ではスキルを使いこなせないはずだ」

「そちらもご名答☆ですね。ククルちゃんは恐らくそういった感情を抱いてスキルを偶発的に発動してしまった。そしてそのスキルを何者かによってオペレーションされている。ただ、ラージメントをあれだけ持続させるには神渡さんの仰るようにスキル保有者の実力が伴わなければいけないのは勿論の事ですが、他にもを支払わなければならない」

 言い切る形のミカエルの言葉に神渡が声を荒げる。

「まさか、ライフオペレーション命の操作!?」

「まぁまぁ神渡さん良くご存じで。ライフオペレーション、オペレーションスキルの中でも高度なスキルですね。その名の通り相手の命を削って相手を操作するスキル、一部のアンチには皮肉を込めて悪魔のスキル、通称デーモンスキルと呼ばれています」

「お前、他人事みたいにふざけるなよ!!」

 ミカエルの胸倉を掴んで激高する神渡を止めたのはアルガスじゃった。

「神渡殿落ち着いて下さい。私もオペレーションスキルは存じていますが、ライフオペレーションは使もすり減らすはず。無暗やたらにククル殿にライフオペレーションはしないのではないかと」

 その言葉を聞いて落ち着いたのか神渡がその場にがくっと項垂れる。

「……そうだったな、すまなかったミカエル」

「いえいえ、いいんですよ」

 しばらく重い空気が立ち込め誰もが口を開かない中、空気を一変させたのは例の少女じゃった。

「スピー、グゴゴゴ、だからわらひは言ったんでふよ。わらひに隠し事はないれふかって。らってそんな好条件おかしいれひょ? そひたらアルガス様はこう言いました。俺はホモらって、隠しててすまないっれ。わらひは衝撃でひたよ」

 重い空気が更に重くなり、馬の蹄が土を踏む音がやけにリアルに耳に入ってくるのじゃった。
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