爺さんチートでチートいい気分

猫野御飯

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第二章 ククル奪還編

チャプター2 聖女

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 ワシは驚きのあまり開いた口が閉じずに、しばらくの間硬直してしまったのじゃった。
 でも、それはほんのわずかな時間じゃった気もするし、そうではないような気もする。
 とにかく動揺してしまい自分の口から洩れた言葉が懐疑的になったのじゃった。

「……ククル?」

 まず目に入ってきたのは尻尾じゃった。
 それは確かにクルクルの可愛いしっぽじゃったが、大きさが違った。
 尻尾だけで大人の身の丈10人分はある巨大さじゃった。
 黒くてクリクリとしたつぶらな瞳は、今や見る影もなく真っ赤に染まって不気味に尖っておった。
 辺りの木々を優に越える身の丈をした、巨大なククルが聞いた事もない声で唸りおる。

「グルルルルルルルルルッ、ガァァァァァッ!」

 その刹那、ブンッという音と共にククルの尻尾がしなり馬車を吹き飛ばす。
 ワシはあまりの衝撃と驚きに声が出ずに目をつむる。

「わぁぁぁぁー!!助けてくれ!!」

「きゃあー!!」

「助けてーーー!!!」

 横倒しになった馬車の中は地獄絵図じゃった。乗客が悲痛な叫び声を上げよる。
 ワシは腰を打ち付けてしまい、もはや動く事もままならず何が起きたのかすら解らない。
 ドスンッ、ドスンッ、という足音が地響きと共に聞こえ、ククルが迫ってきているのが解りよる。

「とんでもない化け物だな。こんなモンスター見た事も聞いた事もない。非常にまずいな……」

 左腕を打ち付けたのだろうアルガスが、腕を庇うようにして一人ごちる。

「……やるしかないな」

 一人納得したようにごちたその刹那、横倒しになった馬車の側面を蹴破りアルガスが外に出よる。

「化け物、バブルブルグ騎士団長アルガスお相手致す。ウォーターソード水剣!」

 シュパーンという子気味良い音がして、アルガスの手からシュパパパッと噴水のように水が溢れ出す。その水流はやがて剣の形になりよる。

「魔法剣ですね」

 ミカエルが他人事のように呟く。
 その様子を唖然とした表情で見ていた神渡が、アルガスが蹴破った場所から外に飛び出す。

「待ってくれ! アルガス!」

 ウォーターソードを構えたアルガスの前に割って入った神渡が必死の形相で訴える。

「あいつなんだ! あたし達が探している仲間は!」

「!?」

 アルガスは驚きを隠せない様子で声にならない声を上げよる。

「本当なのか! あんな巨大な神獣見た事がない」

「あたしも信じられないけど間違いないんだ。見た目は全然変わっちまってるけど間違いない。お腹についてるポッケもクルクルの尻尾も毛の色も同じなんだ……。恐らくスキルの影響であんな風になっちまってる」

「かといってこのまま見過ごす訳には……」

 ウォーターソードを構えていた右手を下げ、困惑した様子のアルガスは神渡に問う。

「神渡殿、私も騎士のはしくれだ。このまま黙っていては近隣に被害が及び兼ねない。残念ながら倒すという選択肢しか……!?」

「うわぁぁぁー!?」

 アルガスが神渡を説得していたその時じゃった。
 巨大化したククルの尻尾が神渡を巻き込み軽々と宙に吊るし上げる。
 神渡の野太い悲鳴が辺りに木霊する。

「くそっ! もうやるしかあるまい」

 ウォーターソードを再び身構えたアルガスが、ククルのしっぽに向かって振り上げたその時じゃった。

「しょんな、悪さばかりしていふぁら、この私が成敗して下さるんでふからねー、はらひれ」

 突如物陰から現れた白いローブを身にまとった華奢な少女が、杖を頭上に掲げ何やら唱えよる。

「災いをもたらふ者よ、この場からたふぃ去りなふぁい。ホーリーソング聖なる歌♪」

 少女の持っていた杖から閃光が迸る。
 そのあまりの眩しさに目を逸らす。

「ウ、ウガガガァァァァー!」

 ククルの苦しそうな唸り声が聞こえてきよる。
 その刹那地響きと共に、ククルが遠ざかっていく足音が聞こえてきよる。

「サフィア出かしたぞ!」

 アルガスがフラフラとした千鳥足の少女に駆けよる。

「あへ? なふぃやら、アルガス様に似ている気がふるんでふが、わらひの気のせいかひら」

「気のせいじゃない。私だアルガスだ」

「あふぁ、ほうなのですね。これは奇遇でふね。はらほろひれはれ」

 フラフラしている様子のサフィアは、いきなりその場に倒れ混んでしもうた。
 倒れこんですぐにイビキが聞こえてきよる。

「ずぴーすぴーすぴぴぴ。ガコー」

「いつつつ、助かった。その聖女はあんたの仲間かい。それにしても凄いイビキだな」

 神渡は背中をさすりながら苦笑してアルガスに言いよる。

「そうだ。酒癖が少し悪いが私の大切な仲間だ。それよりも大丈夫か? 神渡殿」

 痛手の神渡にアルガスが肩を貸しよる。

「ああ、悪いな」

 普段は人を頼らない神渡にしては珍しく素直に応じたのじゃった。
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