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プロローグ
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世の中の二重女子に対する評価はとても甘い。
私が思う二重女子に対する世間の評価はこんな感じだ。
●可愛い
●ぱっちり
●アイドル
●天使
●美女
逆に世の中の一重女子に対する評価はとても辛辣だ。
私が思う一重女子に対する世間の評価はこんな感じだ。
●怖い
●怒ってる?
●不機嫌?
●眠い?
●起きてる?
上記の事は生まれつき瞼の厚い、一重のわたしが吐かれてきた暴言の数々である。
「でさー、今日どうする仕事上がり」
「まもるんの家に行ってもいいかな?」
「もっちろん♪ 待ってるよ、りさちゃん(はぁと)」
わたしは都内の調剤が併設されたドラッグストアで、薬剤師として働いている。
お客様がいない時や、薬の準備がない時はレジの袋詰めの手伝いをしたり、品出しもする。
今は丁度漢方の煎じ薬の依頼が入ったので、煎じ薬パックを作っている所だ。
生薬を特大ミキサーでゴリゴリと砕いていく。
ゴッゴッゴッ、ゴッゴッゴッ、とミキサーがいい感じに生薬を砕いていく。
「でも、リサリサ心配事があるの……」
「どんな心配事だい?」
「まもるんと、リサリサを足したら何になっちゃうんだろうって……」
「そんなの決まってるじゃん。LOVEになるんだよ」
ちなみにこのアホな会話を展開しているのは、最近入社してきた新人薬剤師の近藤守と都築理沙だ。二人はバレていないと本気で思っているけど付き合っている。
でも、いつも思うのだが、この二人は一体何しにここに来ているのだろう……と、本気で困惑するときがある。
「あ、古里さんお客様でーす」
お前がレジに出ろや、と思うけれど私は
「近藤くん、悪いけどこのミキサー見ててね。もう少し粉砕しないとダメな感じ」
と笑顔で答える。
できれば、パックに詰める所までやってほしいけど小心者なのでそこまで頼めない。
「はい、こんにち――」
「ママ! かおのコワいおばさん!」
そう言って推定5歳の少女が母親の後ろに隠れる。そう、わたしは子供が苦手だ、理由は子供は正直だから……。
顔が怖いのは自分でも良く理解している。子供の言う事だ、なんとか笑顔を作らなければと表情を和らげた時、調剤室から笑い声が聞こえてくる。
「顔怖いってw」
「まもるん、笑ったら式部可哀想w」
わたしをディスっている近藤守と都築理沙の声がクリアに聞こえてくる。最近の若者といのは本当にデリカシーというものがない。曲がりなりにも私は先輩なのだ、そんな事聞こえる声で言う事ではない。
式部というのは私に付けられたあだ名だ。その名は紫式部。学生の頃から嫌というぐらい呼ばれたあだ名だ。
太い眉毛、ぽってりとした唇、そして一重。我ながら、ここまで式部顔だとそう言われても悔しいとは思わない。でも、出来れば奴等に毒を盛りたい。
「ゆみちゃん、そんな失礼な事言っちゃだめよ(チラッ)w」
母親が私の一重をガン見して噴き出す。わたしは怒りを通り超して呆れる。
わたしはただ普通な生き方がしたい……、一重なだけで無駄にこんな差別を受けなければいけないなんて、世の中はあまりに理不尽だ。
「ゆみお家かえる、こわい……」
「ゆみちゃんそんなワガママ言っちゃダメよ。すいませんこれが処方箋で(チラッ)w」
再びわたしの目を見て噴き出す。なんて嫌な女なんだろう……。
早く帰ってくれや、と思いながら私は平然と仕事をこなす。
「かしこまりました。只今お薬の準備を致しますので、そちらにお掛けになってお待ち下さい」
親子をソファーに誘導する。
「ママ! おばさんコワイ!」
「ゆみちゃん、ダメよ聞こえるわよ(チラッ)w」
「……」
処方箋を眺めながら茫然とする。
――しつこすぎ! お前らの薬にはトリカブト大盛にしておきまーす、ざまぁw。あ、ついでに頭も悪いから頭に効くお薬もガン盛りですねー☆
「式部めっちゃ苦労してるw」
「だって式部、一重だからしょうがないよw」
一重女子は二重女子の1億倍は苦労する。これは私の実体験だ。
ちなみに近藤守と都築理沙は二人そろってパッチリ二重だ。正直容姿もそこらへんのアイドルに見劣りしないものがある。
性格に難はあるが、やはり美しい者が勝ち上がっていく世界なのだと痛感する。
わたしは一重歴38年。間もなく39になる。
40前には二重になって華やかな生活を送る事を夢見ている。
((
「ただいまー」
ミャア、と愛猫のチャコちゃんが駆け寄ってくる。
「うふふ、自宅警備ご苦労様です。そしてお迎えありがとう」
ミチャアーと元気に鳴き声が返ってくる。
一人暮らしの部屋の電気をつける。1DKの部屋は手狭ではあるけど、ロフト付きでペット可の物件だったので即入居を決めた。
どんなに職場で嫌な事があっても、チャコちゃんがいてくれるこの部屋は私の癒しだ。
「キミは可愛い目をしておるな」
チャコちゃんの頭を撫でる。しっぽをぴーんと立てながらチャコちゃんが頭突きをしてくる。
おかえりなさい、帰ってきてくれて嬉しいよ、の挨拶だ。
猫は正直だ、構って欲しくないときはそっぽを向いて逃げていく。でも、その正直さは子供の正直さと違って人を傷つけない。
チャコちゃんが何かチラシのようなものを咥えてくる。
「あら、どうしたの。キャットフードの安売りのチラシかい?」
チャコちゃんが咥えてきたチラシをしげしげと見る。
【スーパー二重DX・超強力二重形成アイプチ】
とデカデカと書かれたDMだった。
「あら、なーにママが一重だってディスられてるから心配してくれてるの、優しい子ねーチャコは」
よしよし、と頭を撫でる。
でも、チャコごめんね。アイプチはいくつも試してきたのよ。私の分厚い一重は何をしてもすぐに一重に戻る形状記憶ぶりなのよ。
アイプチも、アイテープも、プチ整形(埋没法、針で瞼に糸を通す奴)も、全部ダメだった……。
頼みの綱は、切開法のメスを使うタイプの二重形成だけれど、術後の腫れのクールダウンとか含めて2~3週間は安静みたいだから今の仕事を続けながらだと無理なのよね。
あなたのキャットフード代も稼がなければならないし、仕事を辞める訳にはいかんのですよ。
でも……、私は改めてDMを見返す。
今まで、こうゆうDMを見ては色々注文してきたけれど、このDMはヤケに気合いが入っていた。
――今まで、一重で苦労してきたあなたに最高の接着力。もう紫式部だんて言わせない!!――
ああ、いいフレーズ。思わず心の中で拍手する。
――従来の接着成分とは違う天然由来の接着成分を使用。アロエベラ汁配合でお肌に優しい!!――
アロエベラなのね。確かにお肌に優しい成分。
――分厚い一重にマジで悩んでました。好きな男の子はパッチリ二重な子が好きみたいで……。早速購入、使ってみたらめっちゃヤバい、マジ二重(10代学生・奈良県)
マジ二重なのね。感想欄も熱いわ。
何を使っても一緒なのだけどね、と苦笑しながらチラシを捨てようとした所であるフレーズが目に留まる。
――今まで何を使っても二重にならなかったあなたへ! 効果を実感出来なかった場合、安心の全額返金保証!
全額返金保証なのか、という事は効果に自信があるって事?
今まで頼んできた二重形成グッズは、やってても半額返金だったので、全額返金の見出しに食いつく。
まぁ、チャコちゃんが持ってきてくれたものだから、頼んで見ようかね。
――これで二重になっちゃたらどうしよう。
と、少女の様におどける。おいおい、まるで夢のような話だなと自分に突っ込みながらもほくそ笑んでしまうのだった。
私が思う二重女子に対する世間の評価はこんな感じだ。
●可愛い
●ぱっちり
●アイドル
●天使
●美女
逆に世の中の一重女子に対する評価はとても辛辣だ。
私が思う一重女子に対する世間の評価はこんな感じだ。
●怖い
●怒ってる?
●不機嫌?
●眠い?
●起きてる?
上記の事は生まれつき瞼の厚い、一重のわたしが吐かれてきた暴言の数々である。
「でさー、今日どうする仕事上がり」
「まもるんの家に行ってもいいかな?」
「もっちろん♪ 待ってるよ、りさちゃん(はぁと)」
わたしは都内の調剤が併設されたドラッグストアで、薬剤師として働いている。
お客様がいない時や、薬の準備がない時はレジの袋詰めの手伝いをしたり、品出しもする。
今は丁度漢方の煎じ薬の依頼が入ったので、煎じ薬パックを作っている所だ。
生薬を特大ミキサーでゴリゴリと砕いていく。
ゴッゴッゴッ、ゴッゴッゴッ、とミキサーがいい感じに生薬を砕いていく。
「でも、リサリサ心配事があるの……」
「どんな心配事だい?」
「まもるんと、リサリサを足したら何になっちゃうんだろうって……」
「そんなの決まってるじゃん。LOVEになるんだよ」
ちなみにこのアホな会話を展開しているのは、最近入社してきた新人薬剤師の近藤守と都築理沙だ。二人はバレていないと本気で思っているけど付き合っている。
でも、いつも思うのだが、この二人は一体何しにここに来ているのだろう……と、本気で困惑するときがある。
「あ、古里さんお客様でーす」
お前がレジに出ろや、と思うけれど私は
「近藤くん、悪いけどこのミキサー見ててね。もう少し粉砕しないとダメな感じ」
と笑顔で答える。
できれば、パックに詰める所までやってほしいけど小心者なのでそこまで頼めない。
「はい、こんにち――」
「ママ! かおのコワいおばさん!」
そう言って推定5歳の少女が母親の後ろに隠れる。そう、わたしは子供が苦手だ、理由は子供は正直だから……。
顔が怖いのは自分でも良く理解している。子供の言う事だ、なんとか笑顔を作らなければと表情を和らげた時、調剤室から笑い声が聞こえてくる。
「顔怖いってw」
「まもるん、笑ったら式部可哀想w」
わたしをディスっている近藤守と都築理沙の声がクリアに聞こえてくる。最近の若者といのは本当にデリカシーというものがない。曲がりなりにも私は先輩なのだ、そんな事聞こえる声で言う事ではない。
式部というのは私に付けられたあだ名だ。その名は紫式部。学生の頃から嫌というぐらい呼ばれたあだ名だ。
太い眉毛、ぽってりとした唇、そして一重。我ながら、ここまで式部顔だとそう言われても悔しいとは思わない。でも、出来れば奴等に毒を盛りたい。
「ゆみちゃん、そんな失礼な事言っちゃだめよ(チラッ)w」
母親が私の一重をガン見して噴き出す。わたしは怒りを通り超して呆れる。
わたしはただ普通な生き方がしたい……、一重なだけで無駄にこんな差別を受けなければいけないなんて、世の中はあまりに理不尽だ。
「ゆみお家かえる、こわい……」
「ゆみちゃんそんなワガママ言っちゃダメよ。すいませんこれが処方箋で(チラッ)w」
再びわたしの目を見て噴き出す。なんて嫌な女なんだろう……。
早く帰ってくれや、と思いながら私は平然と仕事をこなす。
「かしこまりました。只今お薬の準備を致しますので、そちらにお掛けになってお待ち下さい」
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「ママ! おばさんコワイ!」
「ゆみちゃん、ダメよ聞こえるわよ(チラッ)w」
「……」
処方箋を眺めながら茫然とする。
――しつこすぎ! お前らの薬にはトリカブト大盛にしておきまーす、ざまぁw。あ、ついでに頭も悪いから頭に効くお薬もガン盛りですねー☆
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「だって式部、一重だからしょうがないよw」
一重女子は二重女子の1億倍は苦労する。これは私の実体験だ。
ちなみに近藤守と都築理沙は二人そろってパッチリ二重だ。正直容姿もそこらへんのアイドルに見劣りしないものがある。
性格に難はあるが、やはり美しい者が勝ち上がっていく世界なのだと痛感する。
わたしは一重歴38年。間もなく39になる。
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((
「ただいまー」
ミャア、と愛猫のチャコちゃんが駆け寄ってくる。
「うふふ、自宅警備ご苦労様です。そしてお迎えありがとう」
ミチャアーと元気に鳴き声が返ってくる。
一人暮らしの部屋の電気をつける。1DKの部屋は手狭ではあるけど、ロフト付きでペット可の物件だったので即入居を決めた。
どんなに職場で嫌な事があっても、チャコちゃんがいてくれるこの部屋は私の癒しだ。
「キミは可愛い目をしておるな」
チャコちゃんの頭を撫でる。しっぽをぴーんと立てながらチャコちゃんが頭突きをしてくる。
おかえりなさい、帰ってきてくれて嬉しいよ、の挨拶だ。
猫は正直だ、構って欲しくないときはそっぽを向いて逃げていく。でも、その正直さは子供の正直さと違って人を傷つけない。
チャコちゃんが何かチラシのようなものを咥えてくる。
「あら、どうしたの。キャットフードの安売りのチラシかい?」
チャコちゃんが咥えてきたチラシをしげしげと見る。
【スーパー二重DX・超強力二重形成アイプチ】
とデカデカと書かれたDMだった。
「あら、なーにママが一重だってディスられてるから心配してくれてるの、優しい子ねーチャコは」
よしよし、と頭を撫でる。
でも、チャコごめんね。アイプチはいくつも試してきたのよ。私の分厚い一重は何をしてもすぐに一重に戻る形状記憶ぶりなのよ。
アイプチも、アイテープも、プチ整形(埋没法、針で瞼に糸を通す奴)も、全部ダメだった……。
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でも……、私は改めてDMを見返す。
今まで、こうゆうDMを見ては色々注文してきたけれど、このDMはヤケに気合いが入っていた。
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ああ、いいフレーズ。思わず心の中で拍手する。
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アロエベラなのね。確かにお肌に優しい成分。
――分厚い一重にマジで悩んでました。好きな男の子はパッチリ二重な子が好きみたいで……。早速購入、使ってみたらめっちゃヤバい、マジ二重(10代学生・奈良県)
マジ二重なのね。感想欄も熱いわ。
何を使っても一緒なのだけどね、と苦笑しながらチラシを捨てようとした所であるフレーズが目に留まる。
――今まで何を使っても二重にならなかったあなたへ! 効果を実感出来なかった場合、安心の全額返金保証!
全額返金保証なのか、という事は効果に自信があるって事?
今まで頼んできた二重形成グッズは、やってても半額返金だったので、全額返金の見出しに食いつく。
まぁ、チャコちゃんが持ってきてくれたものだから、頼んで見ようかね。
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◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
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