徒然話

冬目マコト

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伊崎久美子

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「あなたとの間に、何かを持ちたかったの・・・。」

 俺は電車に揺られながら伊崎久美子と最後に会った時の言葉を思い出していた。 長野の奥地、温泉街のイメージがつくような村で、ひっそりと伊崎久美子の葬式が行われていた。線香の香りと彼女と仲の良かったと思われる人たちの泣く声が聞こえる・・・ 「もう5年か・・」俺と彼女は大学で同じゼミだった、と言っても俺には彼女との記憶がほとんどない、彼女は無口であまり関わり合いがなかった、正直葬式に呼ばれるなんて思ってもみなかった、なんでも彼女の遺言らしい。「最後に会ったのはあの時だったな・・」大学卒業前のゼミの飲み会、私はあまり酒に強くない、二次会をやることになったが私はフラフラで行けそうになかった。そんな私に彼女の手が見えた…「彼はもう無理そうだから送っていく」と聞こえた…「女に送ってもらうなんて情けないな・・」そう思っていたら「・・電車はもう来ないみたい…近くのホテル泊まりましょう…」私は言われるまま部屋に入った、彼女は自分も部屋に入れた後鍵をかけた。彼女の一重の瞳は怪しく睨んでいる…私はベッドで倒れこんでいた、彼女は私の体におおいかぶさってきた、唇が重なり、肌の温かみが体に伝わる。怪しい興奮が酔いの中から込上げる。彼女は腕が白くきれいだった、体に絡んだ手が蛇のように絡み付いて放そうとしない…ジワリとした汗が生々しく全体を包み激しさに拍車をかけた、ぶすぶすと蜜が溢れ出し、彼女の叫び声が聞こえた・・・。

 2時間ほど経ったのだろうか、まだ微妙にボーとしている、彼女はもう服を着始めていた。

「…今日はゴメンナサイね。私、今の大学卒業しちゃったら長野の実家に帰ってしまうから・・」
 
「思い出にかい?」

「いいえ、…いや、でも似たようなものね…私…あなたと何かを持ちたかったの…」

「持ちたかった?関係のこと?小説みたいな言い方だね。」

「いや、そういうんじゃなくて、色褪せない…特別な何かを、あなたと・・・・」

彼女はそう呟きながら俺を見ていた。淡い眼だった・・ 彼女とはそれっきり会っていない、そして5年後の11月にガンで死んだという手紙が届いた、大学の時から患っていたらしい。「あなたと何かを持ちたかった…」彼女の言葉が妙に耳に引っかかる・・考えすぎか、彼女には一人、5歳になる子供がいた父は不明。その子の目は彼女のように淡く、


                                         一重ではなく、俺と同じ二重だった。
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