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第十八話

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もうすぐで梅雨に入ると天気予報が言っていた。
雨は降るわジメジメするわ頭は重いわ良い事なし。

昨日はあんなに晴れていたのに今日は雨模様。
ザーザーと激しく音を鳴らして降る雨にうんざりしながら登校してきたが、学校に到着してもそれは変わらず少しの苛立ちを抱きながら授業を受けることとなってしまった。

朝のHRの時点で軽い苛立ちを露わにした俺を見た大原と桜野に
「反抗期かしら!?」
「あれは反抗期よ」
なんて弄られたのはもう諦めた。






そして女子達は飽きないらしく、相変わらず皇のところへ集合していた。
雨など関係なくきゃいきゃいしている声も今日の俺には苛立ちの元となる。

雨なんて大嫌いだ。

休み時間のたびに溜め息をつく俺に流石に心配になったのか、大原が「保健室に避難するか?」と提案してくれたが体調不良でもないのに保健室はちょっと…と断った。






「なんかあれば言えよ」

「そーだぞ!俺なんて今すぐに保健室行きたい!」

「はいはい、席戻れ」






鐘が鳴り、まだまだ元気な桜野を大原が席に連れ戻すと周りは静かになった。
授業頑張って、あとは兄さんが迎えに来てくれるはずだからそしたら家ではゆっくりさせてもらおう…。

後で兄さんにその事を伝えよう、と心に決め次の授業の教科書とノートを机に出した。
それにしても、と頬杖を付きながら教科書を見る。

昨日、今日と皇が来てから何度か授業で発言しているところを見るが勉強は出来る方らしい。
俺自身前世の記憶が高校生な為中学の授業は全体的に簡単、だけどただでさえ兄さん関連で目立つのに勉強で更に目立つことはしたくなくてわざと間違えたりするところもある。

なんとか平均で、平均で…と意識して授業を受けている甲斐あってか成績はかなり平均だ。
特徴なく、平凡で良いんだ。






---キーンコーンカーンコーン---






最低限必要な部分だけノートに書き、俺はさっさとノートを閉じる。
教科書、ノートをまとめてカバンに入れるとスマホを取り出して兄さんにLINEを送ってみた。











唯兎[兄さん、天気悪くて体調が良くないかも。今日ご飯当番お願いしていい?]








あとは兄さんからの返信を待つだけ、とスマホを机に置いて寄って来た大原と桜野を迎え入れた時。







「ねぇ」







2人とは違う、どことなく高めの声が斜め後ろから聞こえて来た。
女子が何故か騒ついてるように感じる。

けど、俺には関係ないか。と、2人に目線を送ると2人は俺を通し越して背後を見ている。

その視線の先を辿ると、俺をジッと見てくる皇の姿があった。







「…………え、俺?」

「そう、聞きたいことあって」






何故か先程の授業のノートを持って俺のところに来た皇に首を傾げて大原と桜野にヘルプの目線を向けるも、2人も皇とまともな会話をしていない分助けようにも助けられないと困った顔をされた。

そんな俺達のアイコンタクトを知ってか知らずか、ノートを広げて俺に見せてくる。








「ここより前のノートを見せて欲しいのと、さっきの授業でここなんとなく分からなくて…教えて欲しいんだけど」







指差して示してくる皇に周りの女子が我先にと声を上げ始める。






「怜くん!私のノート見せてあげる!」

「私そこわかるよ!教える教える!」

「怜くん、こっちおいでー!」






いつも通りきゃいきゃいと皇の周りを付き纏い始めた女子達に皇は困ったようにみんなを見た。
そしてあざとく手を合わせると女子達に謝りながら首を傾げる。






「みんなごめんねぇ?ボク七海くんのノートで写したくて…綺麗に纏めてあるの見えたからお願いに来たんだ」






いつの間に見たんだ、と思ったがそこまでツッコむのも疲れるな…とバレないように溜め息を吐きながらしまったばかりのノートを皇に手渡す。







「はい、次回の授業までに返してくれたら良いよ。あとさっきのところはノートに要点書いてあるからそれ見て、それでわからなかったらわかる人に聞いてね」

「あ、ありがとう!明日には返すから!」






にぱっと笑った皇に俺も笑顔で答えるが、あまりにも笑顔のきらめきに差があり過ぎて泣きそう。
笑顔で席に帰っていく皇の後のついていく女子達に乾いた笑いを出しながらスマホを確認すると兄さんから返信が来ていた。








照史[体調大丈夫?早退する?今から迎えに行こうか?]

唯兎[大丈夫、気圧の問題だと思うから。でも帰ったら横になっていたい]

照史[わかった、今日なるべく早く迎えにいくから待ってて。お風呂の準備とか洗濯とかも僕がやるから唯兎は身体冷やさないように休んでてね]

照史[大原くんと桜野くんによろしく]







兄さんからのLINEをそのまま2人に見せると、2人とも何故か身体をブルっと震わせた。
2人も気圧にやられたか?大丈夫か?

まだまだ女子にきゃいきゃいされている皇を見ながら俺は次の授業の準備をし始めた。
朝より酷くなった頭痛に額を押さえる。
…バフォリン持ってくればよかった…。






































帰りのHRが終わったタイミングで女子の黄色い声が教室…いや、ほかのクラスからも響いた。
なんだなんだ、と大原と桜野と首を傾げていたがすぐにその謎は判明することとなる。






「照史先輩だー!」

「毎日見ていたいレベルで美しいわ…」

「照史せんぱーい!」






窓から手を振る女子を無視してスマホを見ている兄さんを窓から覗くと、周りの女子からの視線が痛い程に突き刺さる。
別に俺が見てたからって兄さんが大きく反応するわけでもないんだし、見るくらいいいじゃんか。

でもやっぱり客観的に見ると兄さんって綺麗なんだよな。
俺自身は平々凡々だから周りに見られてキャーキャー言われるなんてことないんだけど、兄さんなら納得。
まぁ、元々がBLゲームの主人公だもんな。とぼーっと兄さんを眺めてると隣にいた桜野が何を思ったのか
「照史せんぱーーーい!!!!」
とかなり大きな声で呼び始めた。

煩い声についつい目を閉じて片耳を塞ぐ、大原もうるさいと桜野を殴っていた。
目を開けて兄さんを確認すると、俺を見てクスクスと笑っていた。
そして口パクで『早くおいで』と俺に伝えてくる。
それがなんとなく微笑ましくて俺も口パクで『今行く』と伝えると、席に戻って鞄を取った。








「大原、桜野またなー」

「おー、また明日な!」

「じゃな」







2人に挨拶をすると足早にその場を後にする。
これ以上女子の視線を間近で浴びていたくない。
靴箱で履き替えて傘を差し、外に出れば兄さんが校門にいるのが見えてくる。
ヒラヒラ、と手を振る兄さんに手を振りかえすとそちらに向けて足を進めた。








「体調どう?頭痛は?」

「まだ痛いけど、動けないほどではないよ」

「でも体調悪いんだね、早く帰って横になろう」








俺の額に手を当てて熱を確認した後、熱はないねと頷いて俺の背を優しく押して帰路に着く。
背を押さなくても歩けるけど、と思うがこういう時の兄さんはいいからいいからと聞き入れてくれないことが多い為俺も黙って従う事にしている。









「遅くなってごめん、雨の中待ってて寒くなかった?」

「大丈夫だよ、それより唯兎は頭痛の他に体調は?」

「頭痛だけ、休めば大丈夫だよ」








ザーザーと音を鳴らしながら降る雨の中待ってたのは兄さんの方なのに俺の心配ばかりしてくる。
俺も心配してんだけど、と軽く睨めば弟の駄々捏ねのように微笑ましげに返された、ちくしょー。

俺達は雨の中並んで家まで帰る。
それは過保護な兄さんが俺と帰る事を選んだ故で、でもそれは俺達周りの人間しか知らないことで。







そんな俺たちを見る視線はたくさんある中で

熱い視線と、もう一つ別の視線があったことに気付いたのは誰だっただろう。

チラッとその人物を見たその人は、また厄介なことになりそうだと小さな溜め息を吐いたのだ。








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