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第二話
しおりを挟むやぁ、ここは俺の新しいお部屋。
天井は至って普通。
ベッドはシングル。
壁にはカレンダー。
勉強机とその近くには本棚もある。
うん、小学2年生に与えるにはなかなかに素晴らしいお部屋である。
そんな俺、七海唯兎が気を失ってから割と経っているようで外はすっかり暗くなってきていた。
まだ夜という時間ではないにしても夕方ではあるのだろう。
ベッドの上からチラッと机にある時計を見てみれば18時をすぎていることがわかった。
「…本当に転生、したんだよな…?」
手の甲をつねってみてもピリッと痛みが走ったため、夢でないことが伺える。
俺は確かに受験に向かう道中、熱中症になり…ってそもそも受験時期に熱中症ってなんだよ?って思うのだがあの感覚は確かに熱中症のそれだった。
部活中たまに水分を取る事を忘れて動き回ったあと熱中症になりかけて怒られる、そんな経験があったからこそわかる。
何故、どうして、時期的にも…といろいろ考えることはあるにしても今考えたところで何も変わらない。
それよりも今考えないといけないのは今後についてだ。
俺の記憶からすると、俺は兄に嫌がらせを働く。それはもう様々な嫌がらせだ。
兄の靴を隠す、なんて生ぬるいことから始まり両親がいないのをいい事に兄が風呂中にブレーカーを消したり、兄の部屋に大量の虫を放ったり……見知らぬ男に兄を襲うように仕向けるなど、人とは思えないような事をしていたとゲーム内の説明で見た記憶がある。
流石にそんなこと俺はしない。
けど、よくある「物語の修正」なんて言葉。
悪役がどんなにいい事をしようとしても「物語の修正」が入り、いい事が裏目に出て悪事を働いた事になる。
なんて、転生ものの小説などではよくある話だ。
確かに俺は主人公を虐める気なんてないし、施設に入れられるような事をしようとも思ってない。
それに対して、この世界がどう反応するか…わからない。
どうしよう、俺が何もしてなくても起きた事全てが「俺がやった事」になったら
そう思うと怖くて怖くてたまらない
しかし、ずっとベッドの中にいるわけにもいかない
ゆっくりと身体を起こしてベッドから離れようとした時
コンコン
「えっと、唯兎くん…大丈夫?おきた?」
と控えめな声で心配するような言葉をかけながらゆっくり扉を開ける照史の姿があった。
「唯兎くん、急にたおれてびっくりしちゃった。大丈夫?」
ああ、なんて出来た子なんだ
まだ小学4年生、前世の俺なんかそのくらいの時ただただ走り回って母さんに怒られてた記憶しかないぞ。
「う、うん。もうだいじょうぶ。びっくりさせてごめんね」
「ううん、何もなくてよかった。お母さん達下にいるけど一緒に来れる?」
こくん、と頷くと照史はにっこりと笑って俺の手を握ってゆっくりと下に連れて行ってくれた。
急に「弟だよ」って紹介されて驚いてないはずがないのに、この子は本当に凄いな。
と考えた時胸の中に「もやっ」とした何かが生まれた。
なんだ?と考えるまでもない、これが原作の「弟の嫉妬心」なんだ
精神年齢高校3年だぞ、それなのにその嫉妬心を感じるって…
「唯兎くん、大丈夫…?」
思わず足を止めてしまった俺を心配して照史は下から覗き込んで俺の顔を見てくる。
はっとしてこくん、と頷けば良かったと微笑んでまた歩き出す。
俺、この嫉妬心を抑えながら生きていかないといけないのか
なんとか、この嫉妬をぶつけないようにしないと…俺は施設送りにされてしまう…。
実際にその嫉妬心を感じてしまう事に恐怖を抱き、照史の手をキュッと握ると照史もキュッと握り返してくれる。
それに対する不快感は、ない。
小さく息を吐いて、前を歩く照史の背中を見つめて「がんばるよ…」と声に出さずに口を開いた。
「おお、唯兎!大丈夫だったか?」
「唯兎くん、もう体調悪いところない?」
父さんも再婚相手である母さんも優しく迎えてくれた。
小さな声で「大丈夫」と伝えると優しく頭を撫でて椅子に座るように促される。
椅子に座って出されたジュースを飲んでると、真面目な顔をした父さんから声をかけられる。
「唯兎、実はな…再婚を急いだのは訳があるんだ」
今まで俺に何も知らされてなかった再婚についての話をゆっくり、小学生の俺達にもわかるように話してきた。
つまりこういう事だ。
父さんと再婚相手の母さんは職場が一緒
父さんが海外に長期に渡る出張してる間俺を母さんへ預けておく予定だったが、母さんも海外への出張が決まってしまった。
しかし俺は1度「海外なんか絶対嫌だ」と言ってしまっている為、無理に連れて行くのは正直嫌であり怖くもある。
それならこのまま再婚して子供達2人日本でお留守番してもらおう。
そうなったらしい。
いや、何も大丈夫な事ないねぇ!?
まだ小学生ぞ!?いや、俺は中身高校生だけど小学生ぞ!?
ただ、この話を聞いて「やっぱり海外行ってもいい」というなら連れて行こうと思うとも話している。
チラッと照史の顔を見てみると少し不安そうな顔をしている。
そりゃそうだ、しっかりしている照史だってまだ小学4年…不安しかないだろう。
しかも小学2年の俺を見ながら暮らさないといけない。
これは、物語が変わるとしても照史に選択してもらって俺はそれに従う形が一番かもしれないな。
「…うん、僕は日本にいるよ」
だよなぁ、やっぱり不安だもんなぁ…親元から離れるのはまだはや……ん?
「そうか、照史は日本にいてくれるか」
「唯兎くんもそれでいいかしら?」
「えっ、う、うん…」
てっきり物語が変わって照史と海外へ…なんてストーリーが生まれるかと思っていたがそんな事はなかったらしい。
そういえば妹が
「主人公は凄く弟想いでね、小さい頃から両親がいなかった分弟は守ってあげなきゃって気持ちが凄く強いの!」
なんて話していたのが思い出される。
なるほど、海外出張でいないからこそ自分がなんとかしないとって思ってたんだな…。
「海外に行くのは1週間後なんだ、勿論その間に何をするべきかいろいろ教えて行くつもりだ。特に照史には通帳やカード…銀行とかの使い方とかな」
「…うん、覚える」
「…ずっと家にいてあげられなくてごめんね…」
「大丈夫だよ、僕ももうお兄ちゃんだから」
小学生にしては綺麗な顔で笑っているが、無理してるのが目に見える。
ここは俺もいろいろ出来るってアピールして少しでも不安を減らしたいな…
「ねぇ、僕父さんと住んでた時からご飯作ったり洗濯したりしてたから僕も家事手伝うよ」
照史の服をちょんちょんと摘んで進言すると、驚いた様子でこちらを見た。
「そうそう、唯兎の飯は美味いんだぞー」
「まだ2年生なのにご飯作れるの凄いわね…でも火の消し忘れがないかどうかは照史、ちゃんと見てあげてね」
ゴミ出しも、風呂掃除も、お部屋のお掃除も手伝うよ。
そう言えば照史の表情からは少しずつ曇りが消えていき、俺の手をキュッと握り
「ありがとう、一緒に頑張ろうね」
と綺麗な微笑みでかえしてきたのであった。
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