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第144話「新たな船と自由な海」
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黒猫に連れられてシャルルたちが向かったのは船尾船倉だった。そこで広がっていた光景に、シャルルは思わず声を上げる。
「船の中に……船渠?」
そこでシャルルが見たものは、なんと船渠と思われる施設だった。丁度二隻の船が入るスペースがあり、片方は空だったが一隻の白い中型船が停泊している。
白く輝く船体は女王と同じ素材だと思われたが、サイズ的にはホワイトラビット号と同じぐらいだった。
眼前に広がる常識を疑う光景にシャルルも少し混乱していたが、以前グレートスカル号にも同じような施設が内蔵されていると、聞いたことがあるのを思い出した。
「まぁ、一種のボートみたいなものかな? それで動かせそうなの?」
「帆は見つけたニャ!」
「殆ど新品みたいにゃ~」
先行して調査していた黒猫たちから報告を受けると、シャルルは納得したように頷いた。女王も時が止まったように綺麗なままであり、当然それに内蔵されている船も、同様であってもおかしくはなかった。
「丁度いいわ、この船を出しましょう。親方、聞こえてる?」
「聞こえているぞ」
シャルルが手にした船内通信機に話しかけると、同様に船内放送でガディンクの声が聞こえてきた。
「船尾で船を見つけたの、出航させたいんだけど方法はわかる?」
「あぁ、ちょっと待て……開くぞ」
ガディンクがそう返事をすると、船尾の隔壁が開き外の光が船渠に降り注ぐ。そして気持ちの良い風が吹き込んでくると、ガディンクの船内放送が続いた。
「準備が整ったら教えてくれ。こっちでロックを切り離すぜ」
「わかったわ! お前たち、これより落水者の救助活動を行うよ、全員出航準備だっ!」
「にゃぁぁぁ!」
黒猫たちは歓声を上げて、その船に乗り込んでいく。黒猫たちは慣れた手つきでテキパキと作業を進め、シャルルは船尾甲板の舵輪を握る。妙に手に馴染む感じにクスリと笑う。
「やっぱり、船はこれぐらいの大きさが一番よね」
準備が整った黒猫が完了報告に来ると、シャルルは再び船内通信でガディンクに伝える。
「親方、準備完了! いつでもどうぞっ!」
「了解、切り離すぞっ!」
船体を固定していたパーツが切り離され、白い船が女王の船尾から流れるように外界に出ていく。
しばらく流されるまま女王と離されたのを確認すると、舵輪を握っているシャルルは右手を突き出した。
「よし、総帆開けぇ!」
シャルルの号令で、黒猫たちが全ての帆を開いていく。バフッと風を掴んだ帆が膨らむ音を聞きながら船足が付くのを待つ。ある程度速度が出たところで舵が効くようになると、シャルルは舵輪を廻して旋回を始める。
「取舵一杯! 合わせて救助活動開始よ! 落水者を発見次第報告せよ!」
「にゃぁ!」
こうしてシャルルたちは、エクス・グラン号の生き残りの救助を始めるのだった。
◇◇◆◇◇
それから数時間後 ――
結果として、シャルルたちはエクス・グラン号からの落水者を四十名ほど救助することが出来た。フーガを含め指揮を担当した者は誰一人おらず、生き残った水夫や研究者たちは大人しくシャルルたちに降伏した。
ホワイトラビット号から持ち出した物資しかなかったので、四十名も抱えきれないと判断したシャルルは、捕虜をミュラー諸島へ護送することを決めた。
そこで待機中の味方に彼らを引き渡し物資の補給を受けると、女王と共に一路グラン王国王都へ向かう。
その道中でグレートスカル号と共に、援軍として戻って来ていたゼフィールたちと合流することになる。
女王を一目見たオルガは、微妙な表情を浮かべていた。グレートスカル号より大きな船を見たことがなかったからだ。
それまでの経緯を話し合ったシャルルたちは、そのままグラン王国の王都へ侵攻することを決める。
海賊連合側も相当疲弊していたが、グラン王国側に譲歩させるには、このタイミングしかなかったのだ。
それからしばらくして、海賊連合は全船でグラン王国王都海上を取り囲んだ。その姿は海を埋めつくすようだったと言う。
その予想外の状況に王都全体が大混乱に陥る。グラン王国の発表では海賊には勝っており、王都を取り囲まれるなど万が一にもなかったはずなのだ。
あまりの戦力差に残された防衛艦隊も降伏し、その船長を通じて海上にてカーマイン王太子と会談をする運びとなった。
シャルルたちはその場でアレス王子を身柄を引き渡し、彼が見たことを語らせた。その結果、自国の状況と敗北を把握したカーマイン王太子は、海賊たちが提示した条件を前向きに検討することを約束することになった。
その会談から二日後、グラン王国から正式に講和の使者が訪れ、海賊たち要求を呑む形で条約が締結する。
その概要は大まかに四つ……
一つ、海賊討伐政策の撤廃
一つ、軍艦造船を三年間禁止
一つ、港への海賊船の入港、および商売の許可
一つ、償金の支払い(十年の分割払い)
である。
条件としては無条件降伏に近いものだが、殆どの軍艦を失った上に王都近海まで大艦隊を並べられては、グラン王家としても受けざるおえなかったのだ。
こうして海賊連合は長い戦いを終え、再び海の自由を取り戻したのである。
「船の中に……船渠?」
そこでシャルルが見たものは、なんと船渠と思われる施設だった。丁度二隻の船が入るスペースがあり、片方は空だったが一隻の白い中型船が停泊している。
白く輝く船体は女王と同じ素材だと思われたが、サイズ的にはホワイトラビット号と同じぐらいだった。
眼前に広がる常識を疑う光景にシャルルも少し混乱していたが、以前グレートスカル号にも同じような施設が内蔵されていると、聞いたことがあるのを思い出した。
「まぁ、一種のボートみたいなものかな? それで動かせそうなの?」
「帆は見つけたニャ!」
「殆ど新品みたいにゃ~」
先行して調査していた黒猫たちから報告を受けると、シャルルは納得したように頷いた。女王も時が止まったように綺麗なままであり、当然それに内蔵されている船も、同様であってもおかしくはなかった。
「丁度いいわ、この船を出しましょう。親方、聞こえてる?」
「聞こえているぞ」
シャルルが手にした船内通信機に話しかけると、同様に船内放送でガディンクの声が聞こえてきた。
「船尾で船を見つけたの、出航させたいんだけど方法はわかる?」
「あぁ、ちょっと待て……開くぞ」
ガディンクがそう返事をすると、船尾の隔壁が開き外の光が船渠に降り注ぐ。そして気持ちの良い風が吹き込んでくると、ガディンクの船内放送が続いた。
「準備が整ったら教えてくれ。こっちでロックを切り離すぜ」
「わかったわ! お前たち、これより落水者の救助活動を行うよ、全員出航準備だっ!」
「にゃぁぁぁ!」
黒猫たちは歓声を上げて、その船に乗り込んでいく。黒猫たちは慣れた手つきでテキパキと作業を進め、シャルルは船尾甲板の舵輪を握る。妙に手に馴染む感じにクスリと笑う。
「やっぱり、船はこれぐらいの大きさが一番よね」
準備が整った黒猫が完了報告に来ると、シャルルは再び船内通信でガディンクに伝える。
「親方、準備完了! いつでもどうぞっ!」
「了解、切り離すぞっ!」
船体を固定していたパーツが切り離され、白い船が女王の船尾から流れるように外界に出ていく。
しばらく流されるまま女王と離されたのを確認すると、舵輪を握っているシャルルは右手を突き出した。
「よし、総帆開けぇ!」
シャルルの号令で、黒猫たちが全ての帆を開いていく。バフッと風を掴んだ帆が膨らむ音を聞きながら船足が付くのを待つ。ある程度速度が出たところで舵が効くようになると、シャルルは舵輪を廻して旋回を始める。
「取舵一杯! 合わせて救助活動開始よ! 落水者を発見次第報告せよ!」
「にゃぁ!」
こうしてシャルルたちは、エクス・グラン号の生き残りの救助を始めるのだった。
◇◇◆◇◇
それから数時間後 ――
結果として、シャルルたちはエクス・グラン号からの落水者を四十名ほど救助することが出来た。フーガを含め指揮を担当した者は誰一人おらず、生き残った水夫や研究者たちは大人しくシャルルたちに降伏した。
ホワイトラビット号から持ち出した物資しかなかったので、四十名も抱えきれないと判断したシャルルは、捕虜をミュラー諸島へ護送することを決めた。
そこで待機中の味方に彼らを引き渡し物資の補給を受けると、女王と共に一路グラン王国王都へ向かう。
その道中でグレートスカル号と共に、援軍として戻って来ていたゼフィールたちと合流することになる。
女王を一目見たオルガは、微妙な表情を浮かべていた。グレートスカル号より大きな船を見たことがなかったからだ。
それまでの経緯を話し合ったシャルルたちは、そのままグラン王国の王都へ侵攻することを決める。
海賊連合側も相当疲弊していたが、グラン王国側に譲歩させるには、このタイミングしかなかったのだ。
それからしばらくして、海賊連合は全船でグラン王国王都海上を取り囲んだ。その姿は海を埋めつくすようだったと言う。
その予想外の状況に王都全体が大混乱に陥る。グラン王国の発表では海賊には勝っており、王都を取り囲まれるなど万が一にもなかったはずなのだ。
あまりの戦力差に残された防衛艦隊も降伏し、その船長を通じて海上にてカーマイン王太子と会談をする運びとなった。
シャルルたちはその場でアレス王子を身柄を引き渡し、彼が見たことを語らせた。その結果、自国の状況と敗北を把握したカーマイン王太子は、海賊たちが提示した条件を前向きに検討することを約束することになった。
その会談から二日後、グラン王国から正式に講和の使者が訪れ、海賊たち要求を呑む形で条約が締結する。
その概要は大まかに四つ……
一つ、海賊討伐政策の撤廃
一つ、軍艦造船を三年間禁止
一つ、港への海賊船の入港、および商売の許可
一つ、償金の支払い(十年の分割払い)
である。
条件としては無条件降伏に近いものだが、殆どの軍艦を失った上に王都近海まで大艦隊を並べられては、グラン王家としても受けざるおえなかったのだ。
こうして海賊連合は長い戦いを終え、再び海の自由を取り戻したのである。
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