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第68話「義父との再会」
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シャルルが屋敷に戻って一時間ほどで、エクスディアス号とブラックオルカ号がシーロード家の専用港に入港してきた。彼らを出迎えるのはハルヴァーの三人の妻と、シャルル、ハンサム、ヴァル爺、カイルの四人。マギは面倒くさいという理由で部屋から出て来ず、黒猫たちはハルヴァーが苦手なので近付くつもりはないようだ。
漆黒の船長服を靡かせたハルヴァーとゼフィールが、険しい顔でタラップをゆっくりと降りてくる。その姿はまさに大海賊の名に相応しい威厳があった。
しかし港に愛娘の姿を確認すると、急に緩い表情を浮かべてタラップを駆け下りてくる。そして両腕を広げながら、シャルルのもとに近付いていく。
「シャルル~!」
「パパ!」
シャルルも駆け出すとハルヴァーに飛び掛かった。ガッシリと抱きしめ合う二人は、久しぶりの再会を喜び合う。
「元気にしてたか? 怪我とかはしてねぇだろうな?」
「うん、大丈夫だよ。パパも元気だった?」
「あぁ、もちろんだ! ピンピンして……痛ぇ!?」
ハルヴァーが急に痛がってバランスを崩したので、飛び降りたシャルルは彼の背後を見ると、そこには怒り顔のアイディーンが立っていた。
どうやら後ろから、ハルヴァーの尻を蹴り飛ばしたようだ。彼は尻を押さえながら、蹴ってきた妻のほうに振り返る。
「痛ぇな! 何だよ、エイディ?」
「何だよじゃないよ! 何しれっと妻をスルーして娘とハグしてんだよ」
アイディーンの後ろを見ると、ヘレンもレティスもキレる寸前といった様子で立っている。ヘレンは表情には出さないが冷たい視線で睨んでいるし、レティスに至っては呆れている感じだが内心は穏やかではない。
ハルヴァーは軽く笑いながら妻たちと順番にキスを交わしていく。一夫多妻のシーロード家では、すべての妻を平等に扱わなければ争いの種になってしまうのだ。
ハルヴァーが妻たちに捕まっている間に、今度はゼフィールがシャルルと抱擁を交わしていた。
「久しぶりだね、ゼフィ兄!」
「あぁ、少し見ない間にすっかり大きくなったようだな」
「ふふん、そうでしょ?」
シャルルは自慢げに鼻を鳴らしてゼフィールから離れると、妻の小言から逃げてきたハルヴァーが再び戻ってきた。
「ヴァルトール! そして黒豹もシャルルの面倒を見てくれて、ありがとよ」
「何、老後の楽しみとしては丁度いいですわ」
「ハッ! テメェが礼を言うなんて、嵐でも来るんじゃねぇか?」
「がっははは、相変わらずギラギラしてんな、黒豹野郎。オメェのそういうところ嫌いじゃねぇぜ」
毒づくハンサムに、ハルヴァーは豪快に笑いながら彼の肩をバンバンと叩く。ハンサムは嫌そうな顔をしてそれを振り払った。そしてハルヴァーはジロリとカイルを睨みつけると、品確かめするように視線を上下に動かす。
「近況報告で聞いていたが、こいつが新しいコックか? ガキじゃねぇか、大丈夫なのか?」
「ちょっと、パパ! この子が怖がるから、脅さないでよっ!」
シャルルが震えるカイルを抱き寄せながらそう文句を言うと、ハルヴァーはショックを受けたように目を見開いた。そして首を横に大きく振りながら叫ぶ。
「何くっついてんだ!? だ……ダメだぞ、シャルル! 俺は認めねぇからな!?」
「何言っているのよ? カイル、この人がわたしのパパだよ」
「カ……カイルです。ホワイトラビット号のコックをやらせて貰ってます。よ、よろしくお願いします」
カイルは一歩前に出ると、頭を下げながら震える声で挨拶をする。ハルヴァーは腕を組んでフンッと鼻を鳴らすとそっぽを向いてしまった。
「パパッ!」
「はっははは、さすがに大人気ねぇぜ、親父」
「うるせぇ!」
息子と娘に窘められても、ハルヴァーは完全にへそを曲げてしまっていた。面倒な父親に呆れた様子のゼフィールは、カイルのほうを向きなおすと彼に手を差し出した。
「俺はシャルルの兄のゼフィールだ。よろしく頼むぜ、少年」
「は、はいっ! よろしくお願いします!」
カイルと握手を交わしたゼフィールは、拗ねてしまった父親を睨み付ける。
「親父、いつまで拗ねてんだよ。あのことを皆に伝えねぇといけねぇだろ?」
「ちっそうだな……とりあえず、お前に任せる。船長たちに伝えておけ」
ハルヴァーは面倒そうな顔で髪を掻きながらそう答えた。そのやり取りにシャルルが首を傾げる。
「そんなに慌てて何かあったの?」
「あぁ、大海賊会議でな……」
ハルヴァーから大海賊会議の内容を聞いて、シャルルはもちろんのことヴァル爺ですら驚きの表情を隠せなかった。
グラン沖海戦でキャプテンアルバートが戦死してリッターリック大海賊も半壊、グラン王国に対して他の大海賊団が共同で対応始めると聞いては、驚くのも無理はなかった。
「キャプテンアルバートが戦死ですと?」
「あぁヴァルトール、お前もアルバートに目を掛けていたからな」
「あれほどの男は中々居りませんでしたからな」
ヴァル爺は少し悲しそうな顔で何かを考えている。ハルヴァー、ライオネル、バッカスなどの大ベテランがいる間はいいが、その下の世代はセルスやレイラのような曲者ばかりである。キャプテンアルバートはハルヴァーの世代が引退した後、大海賊たちの舵取りを任せられる人物だった。
「グラン王国がそこまで……」
元々グラン王国の魔導艦に脅威を感じていたシャルルでも、ハルヴァーから聞いた結果は予想外だった。彼女がもっとも驚いたのはピラァツリッター号と共に沈められた魔導艦と、シャルルの知っている軍艦アルテイアの特徴が一致しなかったことだ。
それは少なくともグラン海軍には、魔導艦が複数あるという事実に他ならなかった。
「おいおい、シャルル~。そんなに心配そうな顔するんじゃねぇよ。パパに任せておけば大丈夫だ」
不安そうな娘を抱き締めながら、ハルヴァーは自信満々に語る。偉大な父の胸の中で少しだけ安心したシャルルは、しばらく彼の胸の中で身を任せる。
「さぁ続きはまたにしようぜ、あいつらも構ってやらんと怖いからな」
「そうだよ、ママたちにも優しくね」
シャルルがハルヴァーの胸をポンと叩いて離れると、彼はニカッと歯を見せて笑ったのだった。
◇◇◆◇◇
ハルヴァーたちが戻ってきてから、さらに数日が経過したある日 ――
しばらくは家族との交流を楽しんだシャルルだったが、現在はシーロード家が贔屓にしている造船所に来ていた。同行したのはハンサムとマギ、そしてヴァル爺だった。ちゃっかりハルヴァーも付いて来ようとしていたが妻たちに引きとめられて断念したのだ。
造船所の中では骨組だけの船が置かれていた。そこそこの大きさの船を製造中なのだろう。しかし、昼時だったからか作業員の姿はないようだった。
「みんな、お昼かな?」
「そうですな。さすがに棟梁はいると思いますが」
そんな話をしていると、奥から野太い男性の声が聞こえてきた。
「なんだ、ヴァルトールじゃねぇか?」
「おぉ棟梁、久しいな」
声を掛けてきたのはシャルルより少しだけ背が低いが、体型ががっしりしており、発達した腕などは彼女の腰ほどありそうである。そして大層な髭を蓄えた男性だった。
「もしかして、鉱人?」
「誰だ、おめぇは? いや、その白銀の髪に赤い瞳、まさかお前さんがシャルル嬢ちゃんか?」
「うん、そうだけど……わたしを知ってるの?」
「あぁ、ハルヴァーの小僧が聞いてもないのに自慢してくるからな」
シャルルはクスッと笑うと、その鉱人に握手を求めて手を差し伸べる。
「わたしはホワイトラビット号の船長、シャルル・シーロードよ」
「おぅ、ここの棟梁やってるガディンクだ。ガディって呼んでくれて構わねぇぜ。ホワイトラビット号の調子はどうだ?」
握手を交わしながら、小首を傾げたシャルルはその質問に答える。
「うん、順調だよ。動かしやすいし壊れてもないよ」
「そうか! ありゃ俺らが造ったんだが、中々良い出来の船だろう?」
「えぇ!? そうだったんだ? うん、とっても良い船で気に入っているわ」
ホワイトラビット号はハルヴァーが密かに用意していた船で、今まで誰が造った船なのか知らなかった。しかしシーロード家が贔屓にしている造船所なら、ここで造られていてもおかしい話ではない。
「がっははは、ハルヴァーの小僧が無茶ばっかり言いやがってな……本当に大変だったぜ」
ガディンクは当時を思い出しながらウンウンと頷いている。シャルルは思いがけず自分の船を造った人物に会えて、感謝すると共に嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ホワイトラビット号を造ってくれた人なら話が早いや。実は相談したことがあるんだけど……」
漆黒の船長服を靡かせたハルヴァーとゼフィールが、険しい顔でタラップをゆっくりと降りてくる。その姿はまさに大海賊の名に相応しい威厳があった。
しかし港に愛娘の姿を確認すると、急に緩い表情を浮かべてタラップを駆け下りてくる。そして両腕を広げながら、シャルルのもとに近付いていく。
「シャルル~!」
「パパ!」
シャルルも駆け出すとハルヴァーに飛び掛かった。ガッシリと抱きしめ合う二人は、久しぶりの再会を喜び合う。
「元気にしてたか? 怪我とかはしてねぇだろうな?」
「うん、大丈夫だよ。パパも元気だった?」
「あぁ、もちろんだ! ピンピンして……痛ぇ!?」
ハルヴァーが急に痛がってバランスを崩したので、飛び降りたシャルルは彼の背後を見ると、そこには怒り顔のアイディーンが立っていた。
どうやら後ろから、ハルヴァーの尻を蹴り飛ばしたようだ。彼は尻を押さえながら、蹴ってきた妻のほうに振り返る。
「痛ぇな! 何だよ、エイディ?」
「何だよじゃないよ! 何しれっと妻をスルーして娘とハグしてんだよ」
アイディーンの後ろを見ると、ヘレンもレティスもキレる寸前といった様子で立っている。ヘレンは表情には出さないが冷たい視線で睨んでいるし、レティスに至っては呆れている感じだが内心は穏やかではない。
ハルヴァーは軽く笑いながら妻たちと順番にキスを交わしていく。一夫多妻のシーロード家では、すべての妻を平等に扱わなければ争いの種になってしまうのだ。
ハルヴァーが妻たちに捕まっている間に、今度はゼフィールがシャルルと抱擁を交わしていた。
「久しぶりだね、ゼフィ兄!」
「あぁ、少し見ない間にすっかり大きくなったようだな」
「ふふん、そうでしょ?」
シャルルは自慢げに鼻を鳴らしてゼフィールから離れると、妻の小言から逃げてきたハルヴァーが再び戻ってきた。
「ヴァルトール! そして黒豹もシャルルの面倒を見てくれて、ありがとよ」
「何、老後の楽しみとしては丁度いいですわ」
「ハッ! テメェが礼を言うなんて、嵐でも来るんじゃねぇか?」
「がっははは、相変わらずギラギラしてんな、黒豹野郎。オメェのそういうところ嫌いじゃねぇぜ」
毒づくハンサムに、ハルヴァーは豪快に笑いながら彼の肩をバンバンと叩く。ハンサムは嫌そうな顔をしてそれを振り払った。そしてハルヴァーはジロリとカイルを睨みつけると、品確かめするように視線を上下に動かす。
「近況報告で聞いていたが、こいつが新しいコックか? ガキじゃねぇか、大丈夫なのか?」
「ちょっと、パパ! この子が怖がるから、脅さないでよっ!」
シャルルが震えるカイルを抱き寄せながらそう文句を言うと、ハルヴァーはショックを受けたように目を見開いた。そして首を横に大きく振りながら叫ぶ。
「何くっついてんだ!? だ……ダメだぞ、シャルル! 俺は認めねぇからな!?」
「何言っているのよ? カイル、この人がわたしのパパだよ」
「カ……カイルです。ホワイトラビット号のコックをやらせて貰ってます。よ、よろしくお願いします」
カイルは一歩前に出ると、頭を下げながら震える声で挨拶をする。ハルヴァーは腕を組んでフンッと鼻を鳴らすとそっぽを向いてしまった。
「パパッ!」
「はっははは、さすがに大人気ねぇぜ、親父」
「うるせぇ!」
息子と娘に窘められても、ハルヴァーは完全にへそを曲げてしまっていた。面倒な父親に呆れた様子のゼフィールは、カイルのほうを向きなおすと彼に手を差し出した。
「俺はシャルルの兄のゼフィールだ。よろしく頼むぜ、少年」
「は、はいっ! よろしくお願いします!」
カイルと握手を交わしたゼフィールは、拗ねてしまった父親を睨み付ける。
「親父、いつまで拗ねてんだよ。あのことを皆に伝えねぇといけねぇだろ?」
「ちっそうだな……とりあえず、お前に任せる。船長たちに伝えておけ」
ハルヴァーは面倒そうな顔で髪を掻きながらそう答えた。そのやり取りにシャルルが首を傾げる。
「そんなに慌てて何かあったの?」
「あぁ、大海賊会議でな……」
ハルヴァーから大海賊会議の内容を聞いて、シャルルはもちろんのことヴァル爺ですら驚きの表情を隠せなかった。
グラン沖海戦でキャプテンアルバートが戦死してリッターリック大海賊も半壊、グラン王国に対して他の大海賊団が共同で対応始めると聞いては、驚くのも無理はなかった。
「キャプテンアルバートが戦死ですと?」
「あぁヴァルトール、お前もアルバートに目を掛けていたからな」
「あれほどの男は中々居りませんでしたからな」
ヴァル爺は少し悲しそうな顔で何かを考えている。ハルヴァー、ライオネル、バッカスなどの大ベテランがいる間はいいが、その下の世代はセルスやレイラのような曲者ばかりである。キャプテンアルバートはハルヴァーの世代が引退した後、大海賊たちの舵取りを任せられる人物だった。
「グラン王国がそこまで……」
元々グラン王国の魔導艦に脅威を感じていたシャルルでも、ハルヴァーから聞いた結果は予想外だった。彼女がもっとも驚いたのはピラァツリッター号と共に沈められた魔導艦と、シャルルの知っている軍艦アルテイアの特徴が一致しなかったことだ。
それは少なくともグラン海軍には、魔導艦が複数あるという事実に他ならなかった。
「おいおい、シャルル~。そんなに心配そうな顔するんじゃねぇよ。パパに任せておけば大丈夫だ」
不安そうな娘を抱き締めながら、ハルヴァーは自信満々に語る。偉大な父の胸の中で少しだけ安心したシャルルは、しばらく彼の胸の中で身を任せる。
「さぁ続きはまたにしようぜ、あいつらも構ってやらんと怖いからな」
「そうだよ、ママたちにも優しくね」
シャルルがハルヴァーの胸をポンと叩いて離れると、彼はニカッと歯を見せて笑ったのだった。
◇◇◆◇◇
ハルヴァーたちが戻ってきてから、さらに数日が経過したある日 ――
しばらくは家族との交流を楽しんだシャルルだったが、現在はシーロード家が贔屓にしている造船所に来ていた。同行したのはハンサムとマギ、そしてヴァル爺だった。ちゃっかりハルヴァーも付いて来ようとしていたが妻たちに引きとめられて断念したのだ。
造船所の中では骨組だけの船が置かれていた。そこそこの大きさの船を製造中なのだろう。しかし、昼時だったからか作業員の姿はないようだった。
「みんな、お昼かな?」
「そうですな。さすがに棟梁はいると思いますが」
そんな話をしていると、奥から野太い男性の声が聞こえてきた。
「なんだ、ヴァルトールじゃねぇか?」
「おぉ棟梁、久しいな」
声を掛けてきたのはシャルルより少しだけ背が低いが、体型ががっしりしており、発達した腕などは彼女の腰ほどありそうである。そして大層な髭を蓄えた男性だった。
「もしかして、鉱人?」
「誰だ、おめぇは? いや、その白銀の髪に赤い瞳、まさかお前さんがシャルル嬢ちゃんか?」
「うん、そうだけど……わたしを知ってるの?」
「あぁ、ハルヴァーの小僧が聞いてもないのに自慢してくるからな」
シャルルはクスッと笑うと、その鉱人に握手を求めて手を差し伸べる。
「わたしはホワイトラビット号の船長、シャルル・シーロードよ」
「おぅ、ここの棟梁やってるガディンクだ。ガディって呼んでくれて構わねぇぜ。ホワイトラビット号の調子はどうだ?」
握手を交わしながら、小首を傾げたシャルルはその質問に答える。
「うん、順調だよ。動かしやすいし壊れてもないよ」
「そうか! ありゃ俺らが造ったんだが、中々良い出来の船だろう?」
「えぇ!? そうだったんだ? うん、とっても良い船で気に入っているわ」
ホワイトラビット号はハルヴァーが密かに用意していた船で、今まで誰が造った船なのか知らなかった。しかしシーロード家が贔屓にしている造船所なら、ここで造られていてもおかしい話ではない。
「がっははは、ハルヴァーの小僧が無茶ばっかり言いやがってな……本当に大変だったぜ」
ガディンクは当時を思い出しながらウンウンと頷いている。シャルルは思いがけず自分の船を造った人物に会えて、感謝すると共に嬉しそうに笑みを浮かべた。
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