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第55話「精霊獅子攻略戦・前」

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 精霊獅子ライオンから逃走したシャルルたちは、監視塔の二階にある宿舎に集まっていた。元々隊員が寝泊まりする場所だったらしく、ベッドの数も十分足りている。

「癒しの風」

 ハンサムの背中に触れたマギが癒しの風を発動させる。彼女の掌が緑色の光に包まれると、ハンサムの体全体に広がっていく。目立った大きな外傷はないが、先程の戦いで精霊獅子ライオンに叩き付けられたので、念のために回復することになったのだ。

「はい、終わり!」
「おぅ、ありがとよ。助かったぜ」

 ハンサムはお礼を言いながら、腕などを動かして調子を確認する。彼の治療が終わったところで、シャルルが溜まっていた不満を爆発させた。

「も~何なのアレ!? いくら斬っても再生するし本当に倒せるの?」
「ん~……戦った感じだと、ちょっと難しいかもね。ダメージを与えることで魔力マナが抜けていくのは見えてるから、あのまま削っていけば具現化が保てなくなるはずなんだけど……」
「弱ってる感じはしなかったな」

 ハンサムの言葉にシャルルも頷く、前衛で戦っていた二人は何度も致命傷になりうるダメージを与えているが、精霊獅子ライオンの動きが鈍るような感じがなかったのだ。それはマギも同じで、洞穴内ということで威力は抑えていたが、自分の攻撃魔法で削り切れないとは思っていなかった。

「こうなったら、外に引きずり出して焼いちまうにゃ!」
「ボーボーだニャー!」

 精霊獅子ライオンを洞穴内から引っ張りだして、マギの制限なしの攻撃魔法で焼き払おうという提案だったが、シャルルは先程のことを思い出しながら首を横に振った。

「でも、精霊獅子あいつって洞穴の門から出てこなかったよね?」
「そうねぇ、たぶんあそこが縄張りテリトリーの端なんだと思うわ」

 契約をしていない精霊種の中には、独自の縄張りテリトリーを持ち、そこを守ろうと攻撃を仕掛けてくる習性を持つ者もいるようだ。

「それじゃ、どうする? このまま戦ってもいいが、あの野郎ダメージ以上に回復してる気がするぜ」
「回復……? なるほど!」

 ハンサムのつぶやきに、マギが何かを思いついたように大きく頷いた。

「何か気付いたの?」
「えぇ、ひょっとしたら本当に回復してるんじゃないかって」
「どういうこと?」

 シャルルが小首を傾げながら尋ねると、マギは思いついた仮説を話し始めた。彼女の仮説では、何かが精霊獅子ライオン魔力マナを供給しており、それを取り除かない限り何度でも復活するのではないか? ということだった。

「つまり何とかすべきは精霊獅子ライオンじゃなくて、その魔力マナの源ってこと?」
「その通りよ。それさえ何とかすれば、今度こそ倒せると思うの」
「そいつは本当に、あの中にあるのか?」
「えぇ、ほぼ間違いなくね。きっと出てこないのは、それを守っているのよ」

 シャルルもハンサムも精霊種についてマギほどの知識はない。疑問は尽きなかったが、ここはマギの案を採用することにした。シャルルはハンスから借りているザクーディ砦の地図を床に広げる。

「この広場が精霊獅子ライオンがいた広場でしょ? ここから伸びてるいくつかの通路の先に、その何かがあるとして……何かじゃ言い難いな、何かない?」
「それじゃ精霊核コアと呼びましょうか」
精霊核コアね、了解。それでどの通路にあるんだろ?」

 広場から伸びる通路は、まるで迷宮のように広がっている。この中から精霊核コアを見つけるには骨が折れそうだった。

「広場で精霊獅子ライオンを引き付けつつ、探すしかないだろうなぁ」
「う~ん……それしかないかな。それじゃ、わたしが囮役をするから、皆は精霊核コアを探してくれる?」
「いや、いくらなんでも姫さんだけじゃ無理だろ、俺も残るぜ」
「私の魔法支援も必要でしょ?」

 ハンサムとマギの意見にシャルルは少し考えると、チラッと黒猫たちを見る。

「それじゃ、黒猫たちで探索して貰うの?」
「消去法的にはそうなるわね」
「ニャーたちのことを疑ってるニャ? お宝見つけても懐にしまったりしないニャ~」
「お宝ガポガポにゃ~」
「……まぁ仕方ないか」

 黒猫たちに任せるには一抹どころか大いに不安であったが、他に割ける人員もいないので、結局その作戦で決行することになったのだった。

◇◇◆◇◇

 それから数日後、休養を挟んで再びザクーディ砦の攻略に取り掛かったシャルルたちは、洞穴内の広場まで到達していた。前回と同じようにマギがファイアウォールで明かりを灯すと、透明化していた精霊獅子ライオンが姿を現す。

「グガァァァ」

 やはり前回のダメージは感じらず、魔力マナの供給源があるという仮説の信憑性が高まる。シャルルはカニィナーレを抜き放つと、仲間たちに指示を出していく。

「予定通り、わたしとハンサムが前衛、マギは支援をお願い」
「おうよ!」
「わかったわ~」

 ハンサムもマギも返事をしながら武器を構えて集中する。

「お前たちは通路の攻略! 何があるかわからないから、危ないと思ったらすぐに戻ってきて」
「任せるニャ~」
「お宝ガポガポにゃ~」

 シャルルは一度大きく息をすると、精霊獅子ライオンに突撃しながら「作戦開始!」と号令を出す。

 ハンサムはシャルルに続き精霊獅子ライオンに向かって駆け出し、マギは攻撃魔法の詠唱に入る。黒猫たちは気付かれないようにコソコソと通路に向かった。

 目の前に飛び出してきたシャルルを押し潰すように、振り上げられた精霊獅子ライオンの腕が叩きつけられる。シャルルは左に飛ぶと鞭状にしたカニィナーレを精霊獅子ライオンの右頬に叩きつけた。

「グォォォ!?」

 痛みを感じているのかはわからないが、少しだけ怯む精霊獅子ライオン。そこに遅れて駆けてきたハンサムの槍の一撃が突き刺さる。

「ハァァァァ!」

 鬣の先にある太い首に突き刺さったが、やはり致命傷にはならないようだ。ハンサムは槍を引き抜いて右に飛び退く。怒り狂った精霊獅子ライオンの牙が、先程までハンサムがいた空間を喰らう。

「ファイアボール!」

 詠唱を終えたマギが放ったファイアボールは、精霊獅子ライオンの顔に直撃するが、光の粒子を撒き散らすだけですぐに再生してしまう。

「やっぱり精霊核コアを見つけて何とかしないとダメみたいね」

 やや投げやり気味に言うマギに、シャルルは苦笑いを浮かべながら答える。

「とにかく黒猫たちが見つけてくれるのを願って、頑張りましょう!」
「了解!」

 シャルルたちは再び武器を構え精霊獅子ライオンに集中する。囮役のシャルルたちは、とにかく時間を稼ぐしかないのである。

◇◇◆◇◇

 一方その頃、精霊核コアを探しにいった黒猫たちは細い通路を走っていた。人が二人何とか通れる程度の広さの通路には、黒猫たちが持っているカンテラの灯りが反射している。

 今回の黒猫たちの装備は、左の腰にカトラス、右の腰にカンテラ、そして肩掛け鞄を肩から通しているだけだ。普段ならさらに矛と弓矢などを装備しているのだが、精霊獅子ライオンにはほとんど効果がなかったことと、身軽さを優先した結果である。

 わずかに湾曲している道を進むと、少し開けた部屋のような空間に辿り着いた。大きな樽や木箱などが並べられている。

「地図にあった部屋にゃ」
「何か目ぼしい物はないかニャ?」

 ガサゴソとその辺りを漁ってみるが、どうやら酒などを格納していた場所らしく、お宝は見当たらなかった。念のためマギから預かった、魔力を帯びた短刀で辺りを探ってみるが、これと言って反応はない。

「ちっ、ここは外れニャ。次、行くニャ!」
「待つにゃ、この酒とか持ってけば高く売れるかにゃ?」
「さっさと来るニャ! 早く見つけないと兄貴に怒られるニャ!」

 その部屋の探索は区切りをつけて、黒猫たちは次の部屋に向かって走り出す。

「そもそも、どんなのかわからにゃいのに見つかるのかにゃ?」
「この短剣をかざすと、魔力同士が反応するらしいニャ。あとはそれっぽいのを片っ端から持ってくしかないニャ!」

 ブツブツと文句を言いながら、次の部屋に辿り着いた。今度の部屋は入口に扉の跡があり、部屋自体も加工した石造りのしっかりした部屋だった。鍵が付いた頑丈な箱がいくつかあり、黒猫はカトラスと錠前を破壊する。

「にゃ~! お宝にゃ~」

 箱の中には、輝きを失っているが硬貨がたくさん詰まっていた。黒猫の一匹は短剣をかざしてみる。しかし、今回もまったく反応がなかった。

「これも違うニャ~」
「鞄に詰めるにゃ! ガポガポだにゃ~」
「重くなるから後にするニャ~」

 鞄に硬貨を詰めようとする黒猫を諫めながら、もう一匹の黒猫は短剣をかざしながら部屋をぐるぐると回ってみる。

 キィィィィィィン!

 小さな箱の前で短剣の剣鳴りが響き、黒猫が目を見開いた。

「何かあったニャ!」
「任せるにゃ~」

 先程まで硬貨を集めていた黒猫が、反応があった小さな箱の鍵をカトラスで壊す。二匹の黒猫はごくっと息を飲んで、その箱の蓋を持ち上げてみる。

「こ……これは!?」
「何ニャ?」
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