28 / 145
第28話「謎の金属」
しおりを挟む
祭壇に火竜の牙が納められると刀身が更に赤く輝き始め、大穴から噴き出していた炎が静まっていく。そのお陰もあってか洞窟内の熱気も若干控えめになってきた。
「うむ、間違いなく本物の火竜の牙だ。では我も約束を果たさねばならんな。祭壇に近付くがよい、荒らさぬようにな」
ドーラはそう言うと一歩下がって祭壇の前を開けた。シャルルたちは祭壇の前に立つと、敬意を示すためにお辞儀をしてから調査を始めた。マギは祭壇に掘られている文字の解読を始め、シャルルは祭壇の後ろを探りだした。
「こういうのは、やっぱり裏に秘密の階段とかが……」
「うさぎちゃんったら、そんなのあったことないでしょ。えっと、牙を支えし、黒き……封印……少女の手? 何かしら、所々掠れて読めないわ」
マギがチラリとドーラを見ると、彼女もわからないようで首を横に振った。
「我が産まれた時には、その状態だったからな。我も何が書いてあったのかは知らんぞ」
「ふーん、そうなのね。黒い物って言えば、台座に埋め込まれてるコレだけど」
そう呟きながら、マギは埋め込まれた黒い金属部分を指でなぞる。その金属に何かを感じたようで、眉をピクッと吊り上げた。
「なに、この金属? 異様な魔力伝導率ね」
「魔力伝導率って何ですか?」
マギの話に興味を持ったカイルが尋ねると、彼女は満足そうに頷いて語り始める。
「魔力伝導率って言うのは、文字通り物体に対して魔力の通りやすさを示す言葉よ。伝導率が高いと魔導具なんかの素材に使われるわね。私のこの杖やうさぎちゃんのカニィナーレの持ち手なんかも、かなり伝導率が高い素材で出来ているわ」
「なるほど!」
分かりやすい説明にカイルは何度も頷く。マギは再び金属に触れて魔力を通しながら首を傾げた。
「でも、この金属の伝導率は異常ね。ほぼ抵抗無く通している感じ」
「それが目的の物かな?」
「伝承では『台座を手にせよ』だし、その可能性は高い気がするわね」
シャルルは少し考えてから、念のためにドーラに許可を求めることにした。牙の代わりに要求するものだが、祭壇の一部なのでドーラが難色を示すかもしれないからだ。
「ねぇ、この台座に嵌まっている金属って貰ってもいい?」
「む? まぁ構わんぞ。そんな物は火竜の牙に比べれば只の飾りだ。どれ、我が外してやろう」
シャルルの心配はまったくの杞憂だったようで、ドーラは興味なさそうにそう言いながら、中心の穴に指を差しこんで金属部分を台座から引き剥がそうと力を込めた。
「む……むぅ~……なんだ、異様に硬いぞ? は、剥がれん!」
次第に力が入っていき、土台である祭壇の方が悲鳴を上げ始めたので諦めて手を離した。ドラゴニュートであるドーラの膂力はシャルルたち人族の比ではない。そのドーラでも剥がせないことを、不審に思ったマギが改めて調べ始める。
「どうやら魔術的な封印がされているみたいね」
「解除できそう?」
「う~ん、どうだろ? たぶん、この台座に刻まれた文字が解除のヒントになってると思うんだけど」
改めて掠れた文字の解読を始めるマギ、シャルルとカイルは先程マギが読みあげた断片的な文字について考え始めた。
「牙を支えし、黒きは……コレの事と仮定して、あとは後半の封印……少女の手ですね」
「少女の手じゃないと外せないとか? それなら、この子が外れないのはおかしいし違うかな?」
話を振られたドーラは不機嫌そうな顔で肩を竦める。
「言っておくが、我はお主たちより何倍も長く生きておるのだぞ。見た目で判断するでない」
「えっ!? そうだったの?」
「それじゃ、船長さんなら大丈夫じゃないですか?」
シャルルは、ジト目でカイルを睨み付けると彼の頬を引っ張った。カイルは涙目になりながら、それを外すと頬を撫でながら抗議する。
「痛いじゃないですか! 僕が何をしたって……」
「わたしは大人! 少女なんて年齢じゃないからっ! 君こそ、女の子みたいな顔してるし意外といけるかも?」
「僕は男ですっ!」
女の子扱いされて文句を言うカイルを、シャルルは笑いながらからかう。その二人の様子を見つめながら、マギは呆れた様子で首を横に振った。
「まぁ試しにやってみれば? ちなみに私は無理だったわ」
「そこまで言うなら……仕方ないな」
シャルルが渋々といった態度で金属に触れると、何の抵抗もなくカランと言う音を立てて台座から金属部分が滑り落ちた。あまりの呆気なさに微妙な空気が流れることになったが、マギが金属部分を拾ってシャルルに手渡す。
「ほら、うさぎちゃん!」
「ぐぬぬ……わたし、子供じゃないんだから!」
シャルルが納得できない様子で地団駄を踏んでいると、マギがカイルにボソボソとアドバイスをする。カイルは少し戸惑った様子だったが、おずおずとシャルルに近付いて一言。
「わぁお姉さん、すごーい! 秘宝に選ばれるなんて物語で出てくる人みたいですっ!」
「えっ? そうかな? そうそう、お姉さんは凄いんだからっ!」
もちろんマギに言わされた言葉だが、カイルに褒められた途端に上機嫌になるシャルルは改めて、その金属を眺め始めた。
中心に何かを嵌め込みそうな穴が開いており、黒光りした金属が左右に伸びている。先程は埋め込まれていてわからなかったが、中心部分には上辺から下辺に掛けて細長い穴が貫通していた。
「これ、何だろ?」
「ん~この形状って、どこかで見たような?」
謎の金属に対して考え込む三人に対して、痺れを切らしたドーラが待ったを掛けた。
「お主たちの目的は果たせたようだな? それなら帰るとするか、何を迷っておる知らんが帰路で考えるがよい」
「そ、そうだね。ここはまだ暑いし考えがまとまらないわ」
こうして謎の金属を手に入れたシャルルたちは、火竜神殿を後にすべく階段を降り始めるのだった。
◇◇◆◇◇
スルティア火山を降りたシャルルたちは、サラマンデル族の拠点でハンサムと合流していた。船のことはヴァル爺に任せて迎えに来ていたのだという。
「それで何なんだ、この騒ぎは? 祭りか何かか?」
周りで忙しなく動き回っているリザードマンたちを見て、ハンサムが怪訝そうに尋ねてくる。
「色々あったんだけど、秘宝が戻ってきたからお祝いの宴らしいよ」
「ふぅん? で、手に持ってるのが目的の物か?」
「うん、これなんだけど何なのかわかる?」
シャルルは首を傾げながら、先程手に入れた金属片をハンサムに渡す。彼はそれを摘み上げると、角度を変えて色々と観察した。
「何って、こりゃ……ガードだろ?」
「ガードって何?」
シャルルが尋ね返すと、ハンサムは微妙な表情を浮かべながらナイフを一本取り出すと、それを手際よく分解してしまった。そして鍔の部分を掴むとシャルルに差し出す。
「ほら、これだよ」
「あぁ剣のガードか! 言われてみれば確かに……さすがハンサムだね!」
自分では思いつかなかった謎をやすやすと言い当てるハンサムに、シャルルは手放しで褒め称える。あまりに素直な反応にハンサムは少し照れた様子で頭を掻いた。
「大したことじゃねぇよ。姫さんのカニィナーレには、ガードが付いてないから気が付かなかったんだろ」
「なに~? 照れてるの?」
「そんなわけねぇだろ」
からかってくるマギを適当にあしらいながら、ハンサムはガードをシャルルに返した。
「それがシーロードの秘宝って言うなら、他のところにも剣のパーツがあるのかもな」
「なるほど、そうかもね」
「ところで坊主と猫たちは、何をしてるんだ?」
ハンサムの視線を追うと、カイルがリザードマンや黒猫たちと料理をしていた。正確には料理をするカイルを妨害しないように黒猫たちが守っており、リザードマンたちと何やらギャーギャーと騒いでいる。
「猫ども、俺たちも手伝うぞ」
「料理はカイルに任せて下がるにゃ、トカゲ野郎!」
どうやら先日食べた泥臭いリザードマンの料理が余程堪えたようで、料理は全てカイルに任せようとしているようだった。
「何してんだ、あいつらは? まったく俺も手伝ってくるわ」
「うん、お願いね」
ハンサムは黒猫とリザードマンの間に入って仲裁を始めた。それを見送ったシャルルは再び黒いカードを見つめる。
「剣か……あまりシーロードの秘宝って感じがしないな」
「ひょっとしたら伝説の聖剣とか魔剣とかかもよ~?」
「まぁ、集めてみればわかるよね! 次はどこ行こうかな~?」
シャルルはガードを鞄に放り込むと、代わりに手帳を取り出して開く。
「やっぱり、次は月の鍵がいいかな?」
「その伝承はグラン王国でしょ。グラン近海に入るなら、あの軍艦対策をしてからのがいいんじゃない?」
「あっ、そっか……それじゃ、一度パパのところに顔だそうか?」
漠然と次の目的地を考えながら、シャルルは手記をペラペラと捲っていくのだった。
「うむ、間違いなく本物の火竜の牙だ。では我も約束を果たさねばならんな。祭壇に近付くがよい、荒らさぬようにな」
ドーラはそう言うと一歩下がって祭壇の前を開けた。シャルルたちは祭壇の前に立つと、敬意を示すためにお辞儀をしてから調査を始めた。マギは祭壇に掘られている文字の解読を始め、シャルルは祭壇の後ろを探りだした。
「こういうのは、やっぱり裏に秘密の階段とかが……」
「うさぎちゃんったら、そんなのあったことないでしょ。えっと、牙を支えし、黒き……封印……少女の手? 何かしら、所々掠れて読めないわ」
マギがチラリとドーラを見ると、彼女もわからないようで首を横に振った。
「我が産まれた時には、その状態だったからな。我も何が書いてあったのかは知らんぞ」
「ふーん、そうなのね。黒い物って言えば、台座に埋め込まれてるコレだけど」
そう呟きながら、マギは埋め込まれた黒い金属部分を指でなぞる。その金属に何かを感じたようで、眉をピクッと吊り上げた。
「なに、この金属? 異様な魔力伝導率ね」
「魔力伝導率って何ですか?」
マギの話に興味を持ったカイルが尋ねると、彼女は満足そうに頷いて語り始める。
「魔力伝導率って言うのは、文字通り物体に対して魔力の通りやすさを示す言葉よ。伝導率が高いと魔導具なんかの素材に使われるわね。私のこの杖やうさぎちゃんのカニィナーレの持ち手なんかも、かなり伝導率が高い素材で出来ているわ」
「なるほど!」
分かりやすい説明にカイルは何度も頷く。マギは再び金属に触れて魔力を通しながら首を傾げた。
「でも、この金属の伝導率は異常ね。ほぼ抵抗無く通している感じ」
「それが目的の物かな?」
「伝承では『台座を手にせよ』だし、その可能性は高い気がするわね」
シャルルは少し考えてから、念のためにドーラに許可を求めることにした。牙の代わりに要求するものだが、祭壇の一部なのでドーラが難色を示すかもしれないからだ。
「ねぇ、この台座に嵌まっている金属って貰ってもいい?」
「む? まぁ構わんぞ。そんな物は火竜の牙に比べれば只の飾りだ。どれ、我が外してやろう」
シャルルの心配はまったくの杞憂だったようで、ドーラは興味なさそうにそう言いながら、中心の穴に指を差しこんで金属部分を台座から引き剥がそうと力を込めた。
「む……むぅ~……なんだ、異様に硬いぞ? は、剥がれん!」
次第に力が入っていき、土台である祭壇の方が悲鳴を上げ始めたので諦めて手を離した。ドラゴニュートであるドーラの膂力はシャルルたち人族の比ではない。そのドーラでも剥がせないことを、不審に思ったマギが改めて調べ始める。
「どうやら魔術的な封印がされているみたいね」
「解除できそう?」
「う~ん、どうだろ? たぶん、この台座に刻まれた文字が解除のヒントになってると思うんだけど」
改めて掠れた文字の解読を始めるマギ、シャルルとカイルは先程マギが読みあげた断片的な文字について考え始めた。
「牙を支えし、黒きは……コレの事と仮定して、あとは後半の封印……少女の手ですね」
「少女の手じゃないと外せないとか? それなら、この子が外れないのはおかしいし違うかな?」
話を振られたドーラは不機嫌そうな顔で肩を竦める。
「言っておくが、我はお主たちより何倍も長く生きておるのだぞ。見た目で判断するでない」
「えっ!? そうだったの?」
「それじゃ、船長さんなら大丈夫じゃないですか?」
シャルルは、ジト目でカイルを睨み付けると彼の頬を引っ張った。カイルは涙目になりながら、それを外すと頬を撫でながら抗議する。
「痛いじゃないですか! 僕が何をしたって……」
「わたしは大人! 少女なんて年齢じゃないからっ! 君こそ、女の子みたいな顔してるし意外といけるかも?」
「僕は男ですっ!」
女の子扱いされて文句を言うカイルを、シャルルは笑いながらからかう。その二人の様子を見つめながら、マギは呆れた様子で首を横に振った。
「まぁ試しにやってみれば? ちなみに私は無理だったわ」
「そこまで言うなら……仕方ないな」
シャルルが渋々といった態度で金属に触れると、何の抵抗もなくカランと言う音を立てて台座から金属部分が滑り落ちた。あまりの呆気なさに微妙な空気が流れることになったが、マギが金属部分を拾ってシャルルに手渡す。
「ほら、うさぎちゃん!」
「ぐぬぬ……わたし、子供じゃないんだから!」
シャルルが納得できない様子で地団駄を踏んでいると、マギがカイルにボソボソとアドバイスをする。カイルは少し戸惑った様子だったが、おずおずとシャルルに近付いて一言。
「わぁお姉さん、すごーい! 秘宝に選ばれるなんて物語で出てくる人みたいですっ!」
「えっ? そうかな? そうそう、お姉さんは凄いんだからっ!」
もちろんマギに言わされた言葉だが、カイルに褒められた途端に上機嫌になるシャルルは改めて、その金属を眺め始めた。
中心に何かを嵌め込みそうな穴が開いており、黒光りした金属が左右に伸びている。先程は埋め込まれていてわからなかったが、中心部分には上辺から下辺に掛けて細長い穴が貫通していた。
「これ、何だろ?」
「ん~この形状って、どこかで見たような?」
謎の金属に対して考え込む三人に対して、痺れを切らしたドーラが待ったを掛けた。
「お主たちの目的は果たせたようだな? それなら帰るとするか、何を迷っておる知らんが帰路で考えるがよい」
「そ、そうだね。ここはまだ暑いし考えがまとまらないわ」
こうして謎の金属を手に入れたシャルルたちは、火竜神殿を後にすべく階段を降り始めるのだった。
◇◇◆◇◇
スルティア火山を降りたシャルルたちは、サラマンデル族の拠点でハンサムと合流していた。船のことはヴァル爺に任せて迎えに来ていたのだという。
「それで何なんだ、この騒ぎは? 祭りか何かか?」
周りで忙しなく動き回っているリザードマンたちを見て、ハンサムが怪訝そうに尋ねてくる。
「色々あったんだけど、秘宝が戻ってきたからお祝いの宴らしいよ」
「ふぅん? で、手に持ってるのが目的の物か?」
「うん、これなんだけど何なのかわかる?」
シャルルは首を傾げながら、先程手に入れた金属片をハンサムに渡す。彼はそれを摘み上げると、角度を変えて色々と観察した。
「何って、こりゃ……ガードだろ?」
「ガードって何?」
シャルルが尋ね返すと、ハンサムは微妙な表情を浮かべながらナイフを一本取り出すと、それを手際よく分解してしまった。そして鍔の部分を掴むとシャルルに差し出す。
「ほら、これだよ」
「あぁ剣のガードか! 言われてみれば確かに……さすがハンサムだね!」
自分では思いつかなかった謎をやすやすと言い当てるハンサムに、シャルルは手放しで褒め称える。あまりに素直な反応にハンサムは少し照れた様子で頭を掻いた。
「大したことじゃねぇよ。姫さんのカニィナーレには、ガードが付いてないから気が付かなかったんだろ」
「なに~? 照れてるの?」
「そんなわけねぇだろ」
からかってくるマギを適当にあしらいながら、ハンサムはガードをシャルルに返した。
「それがシーロードの秘宝って言うなら、他のところにも剣のパーツがあるのかもな」
「なるほど、そうかもね」
「ところで坊主と猫たちは、何をしてるんだ?」
ハンサムの視線を追うと、カイルがリザードマンや黒猫たちと料理をしていた。正確には料理をするカイルを妨害しないように黒猫たちが守っており、リザードマンたちと何やらギャーギャーと騒いでいる。
「猫ども、俺たちも手伝うぞ」
「料理はカイルに任せて下がるにゃ、トカゲ野郎!」
どうやら先日食べた泥臭いリザードマンの料理が余程堪えたようで、料理は全てカイルに任せようとしているようだった。
「何してんだ、あいつらは? まったく俺も手伝ってくるわ」
「うん、お願いね」
ハンサムは黒猫とリザードマンの間に入って仲裁を始めた。それを見送ったシャルルは再び黒いカードを見つめる。
「剣か……あまりシーロードの秘宝って感じがしないな」
「ひょっとしたら伝説の聖剣とか魔剣とかかもよ~?」
「まぁ、集めてみればわかるよね! 次はどこ行こうかな~?」
シャルルはガードを鞄に放り込むと、代わりに手帳を取り出して開く。
「やっぱり、次は月の鍵がいいかな?」
「その伝承はグラン王国でしょ。グラン近海に入るなら、あの軍艦対策をしてからのがいいんじゃない?」
「あっ、そっか……それじゃ、一度パパのところに顔だそうか?」
漠然と次の目的地を考えながら、シャルルは手記をペラペラと捲っていくのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
25
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる