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第3話「見習いコックの少年」
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急に料理を作れと話を振られたカイルは戸惑った様子で聞き返す。
「え……僕がですか?」
「そうよ~見習いでも料理ぐらいはできるんでしょ?」
「はい、少しぐらいなら……」
見習いということであまり自信がないのか、このサバイバル環境では調理に慣れてないのか、カイルは控え目に頷いた。黒猫たちが作る料理に飽き飽きしていたシャルルは、面白がってその話に乗ってくる。
「それ良いね! ついでに黒猫たちに料理を教えてあげてよ。その辺にあるのなら何でも使っていいから」
彼女が指差したほうを見ると野営のために運び込まれた物資と、商船から奪ってきた略奪品の一部が積み上げられていた。
「わ……わかりました。頑張ってみます!」
捕虜の立場では逆らうわけにもいかず、覚悟を決めたカイルは立ちあがると、適当に積まれている物を物色し始めた。略奪品は本当に手当たり次第といった様子で、干し肉や乾燥野菜などの保存食の他に調味料や香辛料がいくつか入っていた。そして幸いなことに、物資の中から携帯用の調理器具も見つけることができた。
手にした包丁を握り締めながらシャルルたちの方を見る。その視線に気が付いたシャルルは、小首を傾げながら声を掛けてくる。
「どうしたの~? わたしも手伝ったほうがいい?」
「い……いえ、大丈夫ですっ!」
カイルは慌てた様子で首を横に振る。思いがけず武器になる刃物を手に入れたが、こんなところで包丁を片手に暴れたところで海賊に敵うわけもなく、しかも周りは全て海である。それにカイルから見て、シャルルはそれほど悪人には見えなかった。
この無人島に上陸しているのは、船長のシャルル、ハンサムとマギ、それと黒猫たちが数匹だ。船を完全に空にするわけにはいかないので、ヴァル爺と残りの猫たちは船上で待機している。上陸したのは半数ほどしかいないと言ってもかなりの人数である。持ち込んだ干し肉や、乾燥野菜を焼くだけではとても足りなさそうだった。
「姫さんじゃ手伝いにならないだろ。おい、野郎ども手伝ってやれ」
「任せるにゃ~!」
樽を担いでカイルの周りに集まり出す黒猫たち、その樽には黒猫たちが先程まで焼いていた魚の残りが入っていた。
「これを使えにゃー、美味しい魚にゃー」
「あ……ありがと、猫さんたち」
黒猫たちから魚を受け取ったカイルは、他の材料を見ながら少し考え込む。やがてメニューを決めたようで頷いてから黒猫たちにお願いする。
「まずは下地を作らなくちゃ。猫さんたち、鍋に水を入れて沸騰させてくれる?」
「沸かすにゃ~」
鍋を頼んだカイルは乾燥野菜と干し肉を適当に切って準備をする。そして、猫たちが沸かしてくれたお湯に、それらを入れてクツクツと煮込んでいく。鍋の灰汁取りは猫たちに任せて、カイルは魚の下処理を始めた。子供とは思えないほど丁寧な手際の良さに、様子を窺っていたハンサムも感心して声を漏らす。
「ほぅ、あんなガキなのに見事なもんだ。少なくともマギや姫さんより、マシなもんが出てきそうだな」
「なっ!? わたしだって真面目にやれば出来るんだから!」
「私は食べる専門よ~」
ハンサムに馬鹿にされたシャルルは抗議するが、マギに至っては最初から諦めているため軽く受け流している。
しばらくして、野菜などを煮込んだ汁をザルで濾して簡易ブイヨンを完成させると、下処理が終った白身魚と乾燥トマト、キノコなどを入れてさらに煮込む。そして塩や香辛料などで味を調えると木皿によそっていく。
「お待たせしました。トマトとキノコのお魚スープです」
「おぉ、美味しそう!」
「あら~思い付きだったのに、思ったよりちゃんとしたのが出てきたわ~」
漂う優しい香りに、シャルルたちの期待は膨らんでいくばかりである。シャルルは待ちきれないといった様子で、さっそくスプーンで掬って食べ始めた。もし口に合わなかったら殺されるかも? と緊張したカイルは固唾を飲んでそれを見守っている。
「お……美味しいっ!」
そう感想を呟いたシャルルは、そのまま勢いよく食べ始める。その様子にカイルはホッと溜め息をついた。凄い勢いで皿を空にしたシャルルは、カイルに皿を突き出しながらおかわりを要求する。
「おかわり! まさか航海中に、こんな美味しい料理を食べれるなんて思わなかったよ。君って凄いんだね!」
「気に入って貰えたようで良かったですっ!」
満面の笑顔を浮かべるシャルルに、カイルも見習いながら料理人としての喜びを噛み締めていた。見習いだからと雑用ばかりを押し付けられていたため、料理を作って誰かに喜んで貰えたのは初めての経験だったのだ。
カイルの作った料理は、マギやハンサムにも好評だった。黒猫たちは熱過ぎる! と文句を言っていたが、それでも味に関しては小躍りするほど喜んでいた。そんな黒猫たちに対して、立ち上がったシャルルは腰に手を当てて胸を反らせると、謎のマウントを取り始める。
「わたしが間違えて連れてきたから、こんな美味しいのを食べれたんだから感謝しなさいよねっ!」
「お頭は何もしてないにゃー」
予想通りツッコミを入れられるシャルルに、マギは呆れ顔で首を横に振る。
「うさぎちゃん、その発言はさすがに残念すぎると思うわよ~?」
「まぁ前向きなのは姫さんの良い所だろ」
「その通り! 失敗しても次頑張れば良いのよ」
ハンサムの援護でさらに調子に乗っているシャルルだったが、猫たちも文句を言いながらもそれ程気にしている様子は無かった。つまり、これが彼らの日常なのだ。
「面白い人たちだな……」
焚き火を囲み美味しい料理を食べながら笑い合う彼らを見て、カイルはそう呟くのだった。
◇◇◆◇◇
食事の片付けが終わると、黒猫たちは寝る準備を始めていた。テントは一つだけ用意されており、女性のシャルルとマギが利用するようだ。ハンサムや黒猫たちは、その周りで雑魚寝するつもりらしい。
捕虜であるにも関わらず放置されているカイルが、どうしようか? と辺りを窺っていると、にゅっと後ろから腕が伸びてきて驚く間もなく後ろに引き寄せられた。
「うわぁ!?」
「君はこっちに来なさい。子供に風邪でも引かれたら困るもの」
カイルを捕まえたのはシャルルは、そのまま彼を引きずるようにテントまで連れていく。テント内は魔法の明かりで昼のように明るくなっており、寝転がっているマギは入ってきたシャルルとカイルを見てからかうように笑う。
「あら? 君もここで寝るの? ふふふ、こんな美人に囲まれて寝れるなんて役得ね。悪戯しちゃダメよ~?」
「えっ!? いや、その……」
どうやら知識はあるようで、カイルは顔を真っ赤にして俯いてしまった。シャルルは小首を傾げながらグイグイと中に押し込み、テントの中央に彼を座らせる。
「君はここで寝るように」
「ぼ……僕はやっぱり外で寝ますから!」
カイルがそう言って立ち去ろうとした瞬間、目の前が急に真っ黒になり何かに押しつぶされてしまった。ふわりと花のような良い香りが鼻腔をくすぐる。
「うわぁっ!? な……なに?」
「君の分の毛布がないから、それ使っていいよ」
何とか覆いかぶさっていた物を掴んで抜け出すと、それは先程までシャルルが着ていた船長服だった。カイルがそれを返そうと顔を上げた瞬間、彼はシャルルの姿を見て顔を真っ赤にして固まってしまう。
船長帽子とブーツを脱ぎすてたシャルルは、キラーラビットのマークが入った白い胸当てと、赤いホットパンツだけでほぼ半裸である。そこから更にホットパンツを脱ごうとしているのだから、多感な年頃のカイルには刺激が強すぎたようだ。
我に返ったカイルは、慌てて船長服を顔まで被って隠れてしまう。
「あらあら、うさぎちゃんってば大胆ね~。この子の性癖が歪まなきゃいいけど」
「ん? 何のこと?」
シャルルはとぼけた顔で首を傾げると、カイルの隣に寝転び毛布を被る。マギがクスクスと笑いながら指をパチンと鳴らすと、テント内を照らしていた魔法の光は徐々に弱くなっていき、やがてテント内は夜の闇に包まれた。
「それじゃおやすみなさい、二人共」
「うん、おやすみ」
こうしてシャルルとマギはそのまま寝てしまったが、カイル少年には緊張感ある寝れない夜が訪れようとしていた。
「え……僕がですか?」
「そうよ~見習いでも料理ぐらいはできるんでしょ?」
「はい、少しぐらいなら……」
見習いということであまり自信がないのか、このサバイバル環境では調理に慣れてないのか、カイルは控え目に頷いた。黒猫たちが作る料理に飽き飽きしていたシャルルは、面白がってその話に乗ってくる。
「それ良いね! ついでに黒猫たちに料理を教えてあげてよ。その辺にあるのなら何でも使っていいから」
彼女が指差したほうを見ると野営のために運び込まれた物資と、商船から奪ってきた略奪品の一部が積み上げられていた。
「わ……わかりました。頑張ってみます!」
捕虜の立場では逆らうわけにもいかず、覚悟を決めたカイルは立ちあがると、適当に積まれている物を物色し始めた。略奪品は本当に手当たり次第といった様子で、干し肉や乾燥野菜などの保存食の他に調味料や香辛料がいくつか入っていた。そして幸いなことに、物資の中から携帯用の調理器具も見つけることができた。
手にした包丁を握り締めながらシャルルたちの方を見る。その視線に気が付いたシャルルは、小首を傾げながら声を掛けてくる。
「どうしたの~? わたしも手伝ったほうがいい?」
「い……いえ、大丈夫ですっ!」
カイルは慌てた様子で首を横に振る。思いがけず武器になる刃物を手に入れたが、こんなところで包丁を片手に暴れたところで海賊に敵うわけもなく、しかも周りは全て海である。それにカイルから見て、シャルルはそれほど悪人には見えなかった。
この無人島に上陸しているのは、船長のシャルル、ハンサムとマギ、それと黒猫たちが数匹だ。船を完全に空にするわけにはいかないので、ヴァル爺と残りの猫たちは船上で待機している。上陸したのは半数ほどしかいないと言ってもかなりの人数である。持ち込んだ干し肉や、乾燥野菜を焼くだけではとても足りなさそうだった。
「姫さんじゃ手伝いにならないだろ。おい、野郎ども手伝ってやれ」
「任せるにゃ~!」
樽を担いでカイルの周りに集まり出す黒猫たち、その樽には黒猫たちが先程まで焼いていた魚の残りが入っていた。
「これを使えにゃー、美味しい魚にゃー」
「あ……ありがと、猫さんたち」
黒猫たちから魚を受け取ったカイルは、他の材料を見ながら少し考え込む。やがてメニューを決めたようで頷いてから黒猫たちにお願いする。
「まずは下地を作らなくちゃ。猫さんたち、鍋に水を入れて沸騰させてくれる?」
「沸かすにゃ~」
鍋を頼んだカイルは乾燥野菜と干し肉を適当に切って準備をする。そして、猫たちが沸かしてくれたお湯に、それらを入れてクツクツと煮込んでいく。鍋の灰汁取りは猫たちに任せて、カイルは魚の下処理を始めた。子供とは思えないほど丁寧な手際の良さに、様子を窺っていたハンサムも感心して声を漏らす。
「ほぅ、あんなガキなのに見事なもんだ。少なくともマギや姫さんより、マシなもんが出てきそうだな」
「なっ!? わたしだって真面目にやれば出来るんだから!」
「私は食べる専門よ~」
ハンサムに馬鹿にされたシャルルは抗議するが、マギに至っては最初から諦めているため軽く受け流している。
しばらくして、野菜などを煮込んだ汁をザルで濾して簡易ブイヨンを完成させると、下処理が終った白身魚と乾燥トマト、キノコなどを入れてさらに煮込む。そして塩や香辛料などで味を調えると木皿によそっていく。
「お待たせしました。トマトとキノコのお魚スープです」
「おぉ、美味しそう!」
「あら~思い付きだったのに、思ったよりちゃんとしたのが出てきたわ~」
漂う優しい香りに、シャルルたちの期待は膨らんでいくばかりである。シャルルは待ちきれないといった様子で、さっそくスプーンで掬って食べ始めた。もし口に合わなかったら殺されるかも? と緊張したカイルは固唾を飲んでそれを見守っている。
「お……美味しいっ!」
そう感想を呟いたシャルルは、そのまま勢いよく食べ始める。その様子にカイルはホッと溜め息をついた。凄い勢いで皿を空にしたシャルルは、カイルに皿を突き出しながらおかわりを要求する。
「おかわり! まさか航海中に、こんな美味しい料理を食べれるなんて思わなかったよ。君って凄いんだね!」
「気に入って貰えたようで良かったですっ!」
満面の笑顔を浮かべるシャルルに、カイルも見習いながら料理人としての喜びを噛み締めていた。見習いだからと雑用ばかりを押し付けられていたため、料理を作って誰かに喜んで貰えたのは初めての経験だったのだ。
カイルの作った料理は、マギやハンサムにも好評だった。黒猫たちは熱過ぎる! と文句を言っていたが、それでも味に関しては小躍りするほど喜んでいた。そんな黒猫たちに対して、立ち上がったシャルルは腰に手を当てて胸を反らせると、謎のマウントを取り始める。
「わたしが間違えて連れてきたから、こんな美味しいのを食べれたんだから感謝しなさいよねっ!」
「お頭は何もしてないにゃー」
予想通りツッコミを入れられるシャルルに、マギは呆れ顔で首を横に振る。
「うさぎちゃん、その発言はさすがに残念すぎると思うわよ~?」
「まぁ前向きなのは姫さんの良い所だろ」
「その通り! 失敗しても次頑張れば良いのよ」
ハンサムの援護でさらに調子に乗っているシャルルだったが、猫たちも文句を言いながらもそれ程気にしている様子は無かった。つまり、これが彼らの日常なのだ。
「面白い人たちだな……」
焚き火を囲み美味しい料理を食べながら笑い合う彼らを見て、カイルはそう呟くのだった。
◇◇◆◇◇
食事の片付けが終わると、黒猫たちは寝る準備を始めていた。テントは一つだけ用意されており、女性のシャルルとマギが利用するようだ。ハンサムや黒猫たちは、その周りで雑魚寝するつもりらしい。
捕虜であるにも関わらず放置されているカイルが、どうしようか? と辺りを窺っていると、にゅっと後ろから腕が伸びてきて驚く間もなく後ろに引き寄せられた。
「うわぁ!?」
「君はこっちに来なさい。子供に風邪でも引かれたら困るもの」
カイルを捕まえたのはシャルルは、そのまま彼を引きずるようにテントまで連れていく。テント内は魔法の明かりで昼のように明るくなっており、寝転がっているマギは入ってきたシャルルとカイルを見てからかうように笑う。
「あら? 君もここで寝るの? ふふふ、こんな美人に囲まれて寝れるなんて役得ね。悪戯しちゃダメよ~?」
「えっ!? いや、その……」
どうやら知識はあるようで、カイルは顔を真っ赤にして俯いてしまった。シャルルは小首を傾げながらグイグイと中に押し込み、テントの中央に彼を座らせる。
「君はここで寝るように」
「ぼ……僕はやっぱり外で寝ますから!」
カイルがそう言って立ち去ろうとした瞬間、目の前が急に真っ黒になり何かに押しつぶされてしまった。ふわりと花のような良い香りが鼻腔をくすぐる。
「うわぁっ!? な……なに?」
「君の分の毛布がないから、それ使っていいよ」
何とか覆いかぶさっていた物を掴んで抜け出すと、それは先程までシャルルが着ていた船長服だった。カイルがそれを返そうと顔を上げた瞬間、彼はシャルルの姿を見て顔を真っ赤にして固まってしまう。
船長帽子とブーツを脱ぎすてたシャルルは、キラーラビットのマークが入った白い胸当てと、赤いホットパンツだけでほぼ半裸である。そこから更にホットパンツを脱ごうとしているのだから、多感な年頃のカイルには刺激が強すぎたようだ。
我に返ったカイルは、慌てて船長服を顔まで被って隠れてしまう。
「あらあら、うさぎちゃんってば大胆ね~。この子の性癖が歪まなきゃいいけど」
「ん? 何のこと?」
シャルルはとぼけた顔で首を傾げると、カイルの隣に寝転び毛布を被る。マギがクスクスと笑いながら指をパチンと鳴らすと、テント内を照らしていた魔法の光は徐々に弱くなっていき、やがてテント内は夜の闇に包まれた。
「それじゃおやすみなさい、二人共」
「うん、おやすみ」
こうしてシャルルとマギはそのまま寝てしまったが、カイル少年には緊張感ある寝れない夜が訪れようとしていた。
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