幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~

桜もふ

文字の大きさ
上 下
56 / 63

番外編 ⑤ (ハンシット国)

しおりを挟む
    私達はスオウとマロンの背に乗り、海を渡って夕方頃に【ハンシット国】へ着いた。

    上空から街並みを見たが変わった様子は分からなかった。ただ、パパとルーク様は真剣な顔で街並みや遠くの方を見ては、考え込んでいた。

    これはきっと何かある!  そう思っているとルーク様が私に耳打ちをして来た。

「この国では絶対に1人になってはいけない!  お義父さんか俺と一緒に行動すると約束してほしい!」

    顔を覗き込むルーク様。少し振り向きルーク様の顔を見ると、いつもの笑顔はなく真剣な眼差しで私の言葉を待っていた。

    このような真剣な顔を見るのは初めてだ。この国に何かあるってこと?

「この国に何かあるのですか?」

    頷き、パパと目配せをしたルーク様から聞かされたのは、この国で起こっていることだった。

「このハンシット国は人身売買をしているので有名なんだ。

    奴隷として売られた者は酷い扱いを受ける。だから、絶対に俺から離れないで!」

    後ろから支えている筋肉質で力強いルーク様の腕をギュッと両手で握った。

「はい。ルーク様から絶対に離れないとお約束します!」

    視線を感じ、横を向くとパパがいつも以上に真剣な顔でルーク様にこれからの事を話してきた。

「ルーク、ここではリビアとルナを1人にさせないよう気をつけねぇとだ!」

    パパの言葉を聞いたルーク様は頷き、ハンシット国で起きている事件や人身売買、殺人、奴隷。特に性奴隷が大半だが、国王は知らぬ存ぜぬで強引に押し通していることを聞いて驚愕した。

「騎士団でもハンシット国の話が何度も出ていました。

    俺が知る限りでは、国王が裏で手を回し私利私欲の為だけに、他国から女性や幼女を誘拐しているようです」

「そこまで酷いのか……ルナ、リビア、この国では絶対に部屋から出るんじゃねぇぞ?」

「分かったわ。

    私とルナは部屋から出ないわ。

    ルナもそれでいいわね?」

    コクリと頷き。

「うん。部屋に結界を貼って大人しくすると約束する!」

『結界はワレが貼っておく。破られない結界をな!』

『ボクはリビアとルナの側から離れないから大丈夫!』

『テオル、ルーク。この国の宿は泊まらぬ方がいい。

    泊まるなら……あの森がいいたろう』

    パパとルーク様は反対した。なぜなら、あの森には凶暴な魔獣がはびこっているので有名なんだとか。

「待て待て、あの森には凶暴な……」

『凶暴な魔獣がはびこっているから?

    その凶暴な魔獣はボクとスオウだよ』

『グックックックッ!』

    マロンのありえない発言にスオウは喉を鳴らして笑っていた。そこ笑うとこかな?

『この国は前々から滅ぼそうと決めていたんだ。この森にはワレの結界を張ってあるから魔獣は出ぬよ……心が醜い者を脅かすのは楽しいものだ!』

『ボクが1番初めに脅かしたんだよ。

【誰の許可を得て魔の森へ侵入した?  お前らを食ってやろうか!?】と、叫びながら追いかけると、アイツら逃げて行ったんだよ。情けない悲鳴をあげてね』

『お前達にも見せてやりたかったが、安全第一だ。あと、この国にいる間は森の中で寝泊まりし、空の上からの偵察でいいだろう』

    ルーク様とパパはスオウとマロンの言葉に耳を傾けていた。作戦会議でもしてるのかな?

    私はママと一緒に可愛いメルヘンなお家を出し、リビングのソファーでくつろいでいた。

「眠いの?」

    半開きの目を片手で擦り「ふぁぁぁ」っと、あくびをし。お風呂に入るのは無理そうだと悟った私は「クリーン」と魔法を唱えた。

「……ママ……おやす…み……」

    フカフカなソファーの上でスヤスヤと寝息をたてて眠ってしまった。



    頭の中でバチンッ!  と弾けた音が鳴り飛び起き、部屋を見渡すとスオウとマロンが窓の外を見ていた。私は急いで着替え、窓を開けるとマロンが先に飛び出した。

『救出に行く。ルナ、乗れ』

「うん。

    ルーク様、起きてください!

    マロンとスオウとで救出に行ってきます。必ず帰ってきますので……」

「駄目だ!

    俺も行くから!」

    ルーク様とスオウに乗って窓から飛び出したはいいが、救出って何?

    不安な気持ちが顔に出てたのか、ルーク様に後ろからギュッと抱きしめられ。

「大丈夫だよ、ルナのことは俺が守るよ!」

    そんな言葉をサラッと言うルーク様に胸キュンしちゃったよ。

    前方で誰かがマロンに抱きしめられてる?

    あれは獣人だ!

「ルーク様、獣人さんが!」

「あぁ、ここで獣人に会うとは……あれは、ホワイトタイガーの獣人!?

    あの方は王弟殿下だ!!」

「えぇっ!!」

    とにかく怪我や体調が心配だわ。私とルーク様は王弟殿下に駆け寄り、治癒をした。

「ヒール!  キュア!

    クリーン!!」

(怪我や病気を治癒し、清潔を保つ為に身体と衣類を綺麗にしたけど、心のメンタルまでは癒せない)

    肩にポンっと、手を置いたルーク様。任せてって意味だろう。それに答えるために(コクリ)とうなずいた。

    王弟殿下の元へ近付き、跪いた。そんなルーク様の行動に瞳を大きく見開き、震える手でルーク様の肩に手を置いた。

「ジェイドス・シー・スリチア王弟殿下。

    スリチア国王族をはじめ、我ら騎士団も捜索しましたが、それが叶わず大変申し訳ありませんでした」

    深々と頭を下げているルーク様を見たジェイドス王弟殿下は、顔を横に振り口を開いた。

「俺は20年前にクロートフ国との国交の話が持ち上がり、兄上の代理として視察に向かった。だが、クロートフへ向かっている時に煙のような物を嗅がされ、俺達はそこから記憶が無いんだ。

    この国へ売られ奴隷として使われてきた。俺は争い事から雑用、肉体労働を休む間もなく強いられ、夜の奉仕まで……女性には特に酷い仕打ちだ。俺があの場所から脱出が出来たのはマロン様のお声が聞こえ、道を光で示してくれたからなのです!」

『ボク達はまだ旅の途中だけどジェイドス王弟殿下は今直ぐ帰りたい?

    帰るなら超特急で帰れるけど?

    ボクが無事に送り届けると約束するよ?』

    ジェイドス王弟殿下の瞳から頬へと涙が流れ落ちた。

「帰りたい。俺はスリチア国へ帰りたいです!!」

「陛下への報告もありますし、俺がご一緒します」

    ルーク様と少しの間離れてしまう。ジェイドス王弟殿下と話すルーク様を見たあと俯き、ギュッと胸の前で両手を握った。

    少し不安だけど、今はジェイドス王弟殿下の御身を考えることご一番の優先だ。だから、笑顔で見送らなきゃ。

「お気をつけて……」

    手を引かれ、驚きと恥ずかしさで顔に熱が上がって来るのが分かる。だって、ルーク様に抱きしめられているから。

「ここで判断を間違えると運命が変わってしまう。そうだよね、スオウ。マロン?」

    マロンとスオウは頷いた。

『そうだ。その選択肢によって運命が変わる……ルークは2度目の転生だったな』

『前のルークはスリチア国へ渡る前に……国民の目の前で公開処刑されたんだよ』

    そんな、ルーク様も転生?  2度目の人生ってことは私と同じではないけど、一度死んで転生したんだよね。

「ルナとは違うけど、俺は一度殺されて神様と女神様の導きで人生が巻き戻ったんだよ」

「そうだったんですね。

    辛い過去を話してくださりありがとうございます」

「ジェイドス王弟殿下がスリチア国へ戻ることが出来れば、クロートフ国との戦争が避けられるんだ」

「あぁ、俺がスリチアに帰ったら戦争を止めてやる。任せてくれ!」

『我らは先にフェールントへ行く。

    ルークとマロンはジェイドス王弟殿下の体調に合わせて移動すればいい。分かったな?』

『分かった!』

「はい!」

    私の隣でスオウが王弟殿下とルーク様に近付き、結界を張っていた。ついでのようにマロンにも結界を張り、ルーク様と王弟殿下を乗せたマロンが見えなくなるまで見送った。

    王様達は泣いて喜ぶだろうなぁ。

    私達は上空から視察したり、のんびりしたりと過ごし、次の国へ移動した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。

黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。 明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。 そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。 ………何でこんな事になったっけ?

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】SS級の冒険者の私は身分を隠してのんびり過ごします

稲垣桜
恋愛
 エリザベス・ファロンは黎明の羅針盤(アウローラコンパス)と呼ばれる伝説のパーティの一員だった。  メンバーはすべてS級以上の実力者で、もちろんエリザベスもSS級。災害級の事案に対応できる数少ないパーティだったが、結成してわずか2年足らずでその活動は休眠となり「解散したのでは?」と人は色々な噂をしたが、今では国内散り散りでそれぞれ自由に行動しているらしい。  エリザベスは名前をリサ・ファローと名乗り、姿も変え一般冒険者として田舎の町ガレーヌで暮らしている。  その町のギルマスのグレンはリサの正体を知る数少ない人物で、その彼からラリー・ブレイクと名乗る人物からの依頼を受けるように告げられる。  それは彼女の人生を大きく変えるものだとは知らずに。 ※ゆる~い設定です。 ※ご都合主義なところもあります。 ※えっ?というところは軽くスルーしていただけると嬉しいです。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

処理中です...