幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~

桜もふ

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「おい!

    ルルナ、貴様との婚約を破棄にする!」

    スリチア国王宮の広間で、ルーク様と華麗なダンスを踊っている時だった。突然乱入者が現れ、その場は騒然となり音楽が止み、大衆の面前で乱暴に言葉を投げかけられた。

    後ろを振り向くと元婚約者であったルドルフ殿下に指をさされ、大声でまくし立てられた。

「ルドルフ殿下、ごきげんよう。

    お元気そうでなによりですわ。

    さきほど申しておりました、わたくしとの婚約破棄ですか?

    仰ることが分かりませんわ!」

「分からないだと!

    貴様はブリアンの【神獣の主】の乗っ取りをしたではないか!

    我らにアレだけのことをし、国中に魔物を放ったのはオマエだと分かっているんだぞ!

    オマエのような悪女との婚約は白紙にするっ!!」

    眉をしかめるのを必死にこらえた私は「はぁ?」っと、少しだけ声が漏れた。

    周りの方々は「何言ってるんだ?」「ノワール公爵様(ルーク様)の婚約者って知らないのかしら?」などとヒソヒソされている中、私を睨んでいる一人の女性に目が止まった。

    隣にいるフリルを胸の部分から盛大に盛り付け、貧相な胸を誤魔化すようにしてあしらっている薄汚れたドピンクのドレス・劣化したアクセサリー・穴が空いているローヒールを身に付けたふくよかな元義妹に目を向けると、私を見て『ニヤァ』としたキモイ笑みに悪寒が走り身震いをしそうになった。

    あれは何かを企んでる時の笑みだ。

    次の瞬間、ブリアンは口に手を当てルーク様にヨロヨロとわざとらしく体をくねらせながら寄り、涙目で見つめていたが相手にされていないことにも気付いていないようだ。

    ルーク様との距離が近い私の姿を見たブリアンは、憎しみを込めた目で睨みつけてきたかと思えば、私のことを極悪非道女呼ばわりするブリアンの顔は悪女のように醜い顔をしていた。

「お義姉様、私が何をしたと言うのです?

    ルーク様、お義姉様は【神獣の主】の座を乗っ取り、平気な顔をして国を滅ぼす冷酷な人間なのです。私がどれだけ泣いて苦しんで来たか!

    血も涙もない義姉なんです!!」

    ルーク様に手を伸ばすブリアンと両腕を組んで、こちらを睨みつけるルドルフ殿下。

【神獣の主】は私なのに、この二人は何を言ってるの?

    アホなのかしら?

    その神獣は私のそばにいるというのに……今は小さくなってるけど。

    国が滅んだのは自分達のせいでしょ!?

    それに婚約破棄って、ルドルフ殿下との婚約は、王族が勝手に言ってただけで、本当の婚約ではなかったはず。本来なら、婚約書に名を刻まないと婚約が成立しないし、それを知っていた両親は婚約書に名を刻まなかったのだ。

    その事を覚えていたのか分からない王とルドルフ殿下は、私が国外追放される直前。11年前に、笑みを浮かべたルドルフ殿下自らが王宮の大広間、それも公衆の面前で婚約破棄をし、ローバル王が了承していたわ。

    それに、今は私の隣にいるのはルドルフ殿下のお兄様のレンルーク様なのに気付かないとは、ルドルフ殿下とブリアンの頭の中は空っぽなんだわ。

    私の婚約者がルドルフ殿下のお兄様だと気付きもしないってアホなのね。きっとどこかで頭をぶつけた拍子に頭のネジが落ちたんだわ。

    お可哀想に……ぷぷっ。あら、ごめんなさいね。お2人があまりにも馬鹿だったもので笑いが……。

    私はルーク様をチラッと見ると、柔らかい笑みで「大丈夫だよ」って感情が読み取れた。



    この二人に、スキル鑑定を行った日以降の出来事を、初めから説明するのは面倒いわ。

「はあぁぁ」溜息しか出ないから、もう無視していよう。




    ダメンズ男爵の叔父家族に受けて来た数々の嫌がらせや体罰、暴言、食事無しの毎日。そして、幼児虐待の日々。

    そちらの方が非道だわ!

    それを無かったことにしろと?

    スリチア国に来てまで、やってもないことを私に濡れ衣を着せる気なの?

    私は泣き言を言わず、ずっと一人で耐えてきたのに!

    ブリアンは、ルドルフ殿下に肩を抱かれ体を密着させて笑を浮かべているが、あなたの両親がしたこと。私は絶対に許さないから!!

    ギュッとドレスを掴んだ私の目から、ポロリと一滴の涙が零れ落ちた。

    私の腰に添えられている、ルーク様の手に力が入ったのを感じ、顔を上げると。

    指で優しく涙を拭い、ニコッと微笑まれ、恥ずかしくなった私は、顔から火が出るほど真っ赤になっている。

    私の隣にいる、婚約者のレンルーク様はどんな女性が見ても超イケメンで強いのよ?  騎士参謀ですもの当たり前よね。

    細マッチョのうえに高身長、眉は綺麗に整えられくっきりした二重の瞳、鼻は高く唇が薄い綺麗な顔立ちの彼……世間で言うイケメン!

    この【イケメン】で【包容力があって優しい】のここ大事!


    それにね、ブリアンは私を見て話してないのよ。この女はルーク様を見て話してるの。

    もうこれ以上ブリアンの声すら聞きたくない。

    気持ちを落ち着かせる為に静かに(すうぅぅぅ、はあぁぁぁ)と深呼吸をし2人に向き合い、精一杯の声を出した。

「申し訳ないのですが、ローバルへ帰国していただけないでしょうか?」

「はあぁぁぁ?

    なんでオマエにそんな事を言われないといけないのよ!

    あの国はもう……。

    そんなことより、早く私の神獣を返しなさいよ!

    お母様とお父様に言いつけてやるから!

    それにねぇ、オマエはローバルの下民なんだから、国の為に死ぬまで戦い尽くしなさいよ!

    この約立たずの不細工女!!」

(まだ言うのか!

    だから神獣の主は私だって言ってるでしょ!!)

    上から目線の言葉を捲し立てたブリアンは、またあの気持ち悪い上目遣いが始まった。

    でも、ルーク様にはそんな仕草をしても、騙されたり惑わされたりしない。

「わたくしは、もうローバル国の民でもありませんし、わたくしの家族は、ここにいるテオルとリビアが両親ですわ!

    そして【神獣の主】はわたくしです!

    どうか、お引き取り願えますでしょうか?」

    これでも一応丁寧な対応をしているつもりなんだけど、ルーク様の眉間にしわと額には青筋がくっきりと……。

    テオルとリビアの体の底からメラメラとした炎……いいえ、黒炎が見える。そして、テオルの拳がプルプルと震え、今にも殴りかかりそうなくらい怒り心頭だ。

「ご退場はアチラからお願いします」

    ルーク様の返答の後、私の手を引き部屋へ戻ろうとしたが、予期せぬ出来事が起こった。

    ドスドスドスッッ!!

    大きな音を立てて走って来る新種のピンク豚……ではなく、ブリアンにギョッとした。

    何故なら、ブリアンが大きな声で奇声をあげて叫ぶと同時に鼻息を荒くさせながら、ル-ク様の元へと寄り、この【大きなお尻】に押された私は、階段から落ちるっ!!

「待ってぇぇぇーーーー!!

    ルーーク様ぁぁーーーー!

    はぁはぁ……私の話を聞いて下さい!!」

    ドンッッ!!

「きゃぁっ……」

「ルナ!!」

    衝撃に備えてギュッと目をつむるが……あれ? 痛くない?

    そう、騎士団で鍛えた身体能力が高いこともあり、いつの間にお姫様抱っこをしたのかは分からないが、私の口から「た、助かった」と言葉が漏れた。

「貴様…ルドルフ、ダメンズ嬢。

    今直ぐ俺達の前から消えろっ!!」

『おいっ、キサマ!

    よくも我の大切な主を落としたな!

    許さねぇ!!』

『オマエ、今度は腹を串刺しにしてやろうかっ!!』

    ルーク様と神獣のスオウ、女神様の眷属であるマロンが激怒している。このままだとローバル国が完全に滅んでしまう、それもまた運命なのだろう。

「スオウ、マロン、お願いがあるの。

    この二人を無傷のまま、ローバルの国境まで追い出してほしいの」

    キッと睨みつけてくるブリアン。

    あらあら、ブリアンったらそのような怖い顔をしていると、殿方に嫌われてしまうわよ?

    サッと扇子で口元を隠し「クスリ」と聞こえないように笑を零した。

    まぁ、私には関係ないことだけど。

    あなた方がおこなった結果なのだから受け入れなさい。

    そして、この世界の最高神を怒らせてしまったことを今更悔いても、もう遅いのよ!

    私はもう、そちらの滅んでしまった国には二度と戻りませんから!!
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