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9 ケルベロス

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 私は足をばたつかせている。

「アンジュどうした?
 あの林の方に何かあるのか?」
「たぃたぃ、ちてる、いきゅ!(いたいいたい、してる、いく!)
 わんわん、しん、しんじゃう!!」
「リック、アンジュの言う場所に早く行きましょう」
「あぁ、急ごう!」

 私は声のする方に指で示し、林の中へと入った。
 そこで見たのは……黒い靄に体を包まれた、頭が三つある巨大な黒犬がもがき苦しんでいた。
 幻獣の『ケルベロス』だ。
 苦しんでいるケルベロスを助けたい。
 ケルベロスは悲しそうな赤い瞳で私を見つめている。
 私はこの子達を助けたい、この子達の命を奪わないで。
 パパは黒い靄に近付く私を止めようとしたが、遅かった。
 既に黒い靄の中に入ってしまったあとだった。

「いやああぁぁぁ、アンジューーーー!!」

 お姉ちゃんの叫び声がしたが、今はこの子達の救助が最優先よ!
 震え苦しむケルベロスに触れて抱き着いた。
 黒い靄が一瞬で消え、ケルベロスはさっきまでの苦しさが無くなっていることに気付き『キョトン』とした顔で私を見ている。

「「「「「アンジュ!!」」」」」

 みんなが駆け寄り、抱き締められていた。

「わんわん、たぃたぃ、なぃ?」
『ありがとう、本当にありがとう』
『……小さな幼子よ、感謝する。
 ありがとう』
『俺たちに名を授けてくれないだろうか?』
「ぁい、……うぅーーん。
 けりゅ、べりゅ、りゅりゅ……けりゅ、りゅ…る!
 ける、べる、るる。
 ケル、ベル、ルル!」

 名を唱えたあとケルベロスと私の周りが光り輝いた。
 リンとサンは喜ぶかのように飛んでいる。
 パパが真っ先に走って来たと思ったら……私を抱き上げ、ケルベロスとの距離を取り剣を構えている。
 ケルベロスは私の方を見下ろし悲しそうな顔で『クゥーーン』と鳴いた。

「ぱぁぱ、ける、べる、るるは、こわく、ない。
 ける、べる、るる、おいで」

 私に駆け寄ったケルベロスは愛犬のように甘えている。
   危険は無いと察知したパパは剣をしまった。

「この子達は大丈夫だぞ?
 アンジュが命令しないかぎり絶対に襲わない」
「あんた達、分裂して子犬になってた方がいいわよ?
 アンジュもそう思うでしょ?」
「ぁい、ちっちゃい、かわいい」

 ポンっと分裂して小さくなった黒い子犬を見たみんなの反応がヤバいです。
 お姉ちゃんはルルを抱っこして頬ずりまでしているし。
 エド兄ちゃんとキース兄ちゃんはベルを優しく撫でている。
 パパとママはケルに顔を舐められているが、くすぐったいのか笑っていた。

「幻獣の従魔契約が成立したな」
「じゅうま? けいやきゅ?」
「名を授けたりすると従魔契約が出来るのよ。
 でも拒否されたら……襲って来るから気を付けてね」

 パパはリンとサンの言葉に反応したのか、話に割り込んで来た。
 かなり真剣な表情だ。

「アンジュのステータスは見れるのか?
 親として……家族として把握しておきたい」
「サン良いよね?」
「あぁ、良いぜ。
 みんなで見た方が良いだろ。
 みんなこっちに来てよ」
「サンどうしたんだい?」
「今からアンジュのステータスを見るんだよ。
 だけど、身内以外は内密に。
 国王達は身内だから見せても良いぜ」

 パパ、ママ、エドお兄ちゃん、お姉ちゃん、キースお兄ちゃんは私を優しい眼差しで見てくれていた。
 パパは私を抱き上げ『ステータスって言ってごらん』と優しい言葉をかけてくれ。
 私は思い切って言ってみた。
 片手を上げて誇らしげにだ。

「ちゅて、え、たちゅ(ステータス)」

 満面の笑顔で言ったものの……えっ?
 シーーンと静まり返っている。
 …………。
 もっと言葉の練習しないと駄目ってこと?
 パパは優しく頭を撫でてくれ。

「王宮へ行く馬車の中で練習しましょう」
「今すぐに出来なくても良いんだからね」
「焦らずゆっくりよ?」
「ぁい!」
「ケル、ベル、ルル行くよ?」

 みんなで馬車まで戻り王宮へとゆっくり行った。

「ちゅてえ……ちゅ…ちゅてーたちゅ……」

 馬車の中で発音の練習をしている。
『ス』って言いたいのに『ちゅ』になっちゃって。
 前途多難だわ。
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