上 下
9 / 38

9 ケルベロス

しおりを挟む
 私は足をばたつかせている。

「アンジュどうした?
 あの林の方に何かあるのか?」
「たぃたぃ、ちてる、いきゅ!(いたいいたい、してる、いく!)
 わんわん、しん、しんじゃう!!」
「リック、アンジュの言う場所に早く行きましょう」
「あぁ、急ごう!」

 私は声のする方に指で示し、林の中へと入った。
 そこで見たのは……黒い靄に体を包まれた、頭が三つある巨大な黒犬がもがき苦しんでいた。
 幻獣の『ケルベロス』だ。
 苦しんでいるケルベロスを助けたい。
 ケルベロスは悲しそうな赤い瞳で私を見つめている。
 私はこの子達を助けたい、この子達の命を奪わないで。
 パパは黒い靄に近付く私を止めようとしたが、遅かった。
 既に黒い靄の中に入ってしまったあとだった。

「いやああぁぁぁ、アンジューーーー!!」

 お姉ちゃんの叫び声がしたが、今はこの子達の救助が最優先よ!
 震え苦しむケルベロスに触れて抱き着いた。
 黒い靄が一瞬で消え、ケルベロスはさっきまでの苦しさが無くなっていることに気付き『キョトン』とした顔で私を見ている。

「「「「「アンジュ!!」」」」」

 みんなが駆け寄り、抱き締められていた。

「わんわん、たぃたぃ、なぃ?」
『ありがとう、本当にありがとう』
『……小さな幼子よ、感謝する。
 ありがとう』
『俺たちに名を授けてくれないだろうか?』
「ぁい、……うぅーーん。
 けりゅ、べりゅ、りゅりゅ……けりゅ、りゅ…る!
 ける、べる、るる。
 ケル、ベル、ルル!」

 名を唱えたあとケルベロスと私の周りが光り輝いた。
 リンとサンは喜ぶかのように飛んでいる。
 パパが真っ先に走って来たと思ったら……私を抱き上げ、ケルベロスとの距離を取り剣を構えている。
 ケルベロスは私の方を見下ろし悲しそうな顔で『クゥーーン』と鳴いた。

「ぱぁぱ、ける、べる、るるは、こわく、ない。
 ける、べる、るる、おいで」

 私に駆け寄ったケルベロスは愛犬のように甘えている。
   危険は無いと察知したパパは剣をしまった。

「この子達は大丈夫だぞ?
 アンジュが命令しないかぎり絶対に襲わない」
「あんた達、分裂して子犬になってた方がいいわよ?
 アンジュもそう思うでしょ?」
「ぁい、ちっちゃい、かわいい」

 ポンっと分裂して小さくなった黒い子犬を見たみんなの反応がヤバいです。
 お姉ちゃんはルルを抱っこして頬ずりまでしているし。
 エド兄ちゃんとキース兄ちゃんはベルを優しく撫でている。
 パパとママはケルに顔を舐められているが、くすぐったいのか笑っていた。

「幻獣の従魔契約が成立したな」
「じゅうま? けいやきゅ?」
「名を授けたりすると従魔契約が出来るのよ。
 でも拒否されたら……襲って来るから気を付けてね」

 パパはリンとサンの言葉に反応したのか、話に割り込んで来た。
 かなり真剣な表情だ。

「アンジュのステータスは見れるのか?
 親として……家族として把握しておきたい」
「サン良いよね?」
「あぁ、良いぜ。
 みんなで見た方が良いだろ。
 みんなこっちに来てよ」
「サンどうしたんだい?」
「今からアンジュのステータスを見るんだよ。
 だけど、身内以外は内密に。
 国王達は身内だから見せても良いぜ」

 パパ、ママ、エドお兄ちゃん、お姉ちゃん、キースお兄ちゃんは私を優しい眼差しで見てくれていた。
 パパは私を抱き上げ『ステータスって言ってごらん』と優しい言葉をかけてくれ。
 私は思い切って言ってみた。
 片手を上げて誇らしげにだ。

「ちゅて、え、たちゅ(ステータス)」

 満面の笑顔で言ったものの……えっ?
 シーーンと静まり返っている。
 …………。
 もっと言葉の練習しないと駄目ってこと?
 パパは優しく頭を撫でてくれ。

「王宮へ行く馬車の中で練習しましょう」
「今すぐに出来なくても良いんだからね」
「焦らずゆっくりよ?」
「ぁい!」
「ケル、ベル、ルル行くよ?」

 みんなで馬車まで戻り王宮へとゆっくり行った。

「ちゅてえ……ちゅ…ちゅてーたちゅ……」

 馬車の中で発音の練習をしている。
『ス』って言いたいのに『ちゅ』になっちゃって。
 前途多難だわ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

処理中です...