オトメマジカル ~女の子しか魔法を使えない世界で天才男の娘が魔法無双する話~

沼米 さくら

文字の大きさ
上 下
14 / 15

aria

しおりを挟む

 ――わたしは、孤独だった。

「……あなたにだけは、見せたくなかったんですけどね。――こんな汚れた、わたしなんて」

 彼女は呟いた。
「アリア」
 微笑んだ彼女に、僕は手を伸ばす。
「なんで、こんなことをしたの」
 しかし彼女は
「こんなこと?」
 ぱしんと僕の手を振り払い
「わたしが『どんなこと』をしたっていうんですか」
 睨みつけて、尋ねる。
 答えに窮する僕。――きっと、クリスなら迷いもなく糾弾していたのであろうそれを、僕は言えず。

「わたしはね、みんなをすくうの」

 彼女は、目を細め。

「ねえ、この世界はおかしくない?」
 演説を始めた。

「男と女なんて誰が決めたのかなぁ。
 だってさ、おかしくない?
 女の子しか魔法が使えないなんて。
 力の弱い男はいちゃいけないなんて。
 魔法の使えない女はいらないなんて!」

 叫んだ彼女は、ゼエゼエと息を切らし「おかしいよ」とつぶやく。
「オスとメスなんてさ、所詮は遺伝子の一本の違いだよ!?
 たとえば、原生動物にはオスもメスもない。野生の獣にだって、オスとメスの役割の違いこそあれど、私たちみたいに差別されたりなんてない。それなのに、人間だけ。人だけ、人を選別している。差別している。
 必要ない人間がいるなんて、おかしいよ。
 人間はみんな生きるべきなんて言わない。もちろん死んだほうがいいクズなんて山ほどいる。
 でもさ、人より能力が劣ってるだけで! 何かできるはずなのに! いらないなんて!」

「……おかしいよ、絶対」
 俯いた彼女は「――絶対、おかしいから」とつぶやいて。
 あたかも世界の創造主と言われる神をかたどった像のような、いつか見せたあの慈愛に満ちた微笑アルカイックスマイルを浮かべ――。

「だから、この世界を壊すって決めたの」

 涙を一筋、頬に流しながら、告げた。
 ――僕は、そんな危険思想に、少しだけ同調していたのかもしれない。
「だから……」
 他の人なら、真っ先に彼女を止めようとしただろう。論点がずれているとか、矛盾しているとか、そんなことを言うのだろう。
 彼女は、僕に手のひらをかざして。
「……だから――――」
 けど、僕はできなかった。
 優しくささやくように、彼女は告げた。

「――わたしのものになって、ソーヤくん」

 瞬間、遠く遠く、耳鳴りが鳴り響いて。
 耳をふさぐ――頭を抱える。
 目眩。彼女の目を見てはならない、と脳が警鐘を鳴らす。けど。

 ――なんでか、見なきゃ――それを、視なきゃいけないような気がして。

 彼女と視線を合わせた瞬間、目眩と耳鳴りはいっそう強くなり。
 僕はうずくまって、目を閉じた。

 刹那。
『記憶が、流れ込んだ』。

    *

 ――彼女は孤独だった。

「ここ、は」
 気がつくと僕は、馬小屋に居た。
 歩き回ってみる。自分自身で何かを感じることはなく、掴んだはずの牧草は手からすり抜けていた。
 ……なるほど、いま僕は、誰かの記憶を幻視しているだけらしい。
 理解はしたが、それの意味するところは。

「アリアっ!」

 目の前で親に嬲られている少女を救うことができない――それどころか、一切手を出すことすらできない『過去の出来事』であるということであった。

「お前はどうしてッ、何故理解しないッ! お前はァ!」
 父親に体を乱暴に弄ばれ、少女はただ、「ごめんなさい……ごめん、なさい……」と泣くばかり。
 一体彼女が何をやったのか。しかして僕はそれをすぐ知ることになる。

「どうしてお前はッ! 男と女の役割をッ! 理解しようとッ、しないんだッ!」

 ――彼女は何もしていない。ただ、思想が普通ではなかった。それだけの理由で――嬲られていたのだ。

 アリア・スクブス――当時、十一歳。

 場面が変わった。
 狭い白い部屋。その中で、白衣の青年と少女、そして先程の少女の父親が対面して座っていた。
「――だから、男女は平等であって」
「この娘はこんな事を言っております。精神の医者様、こいつの頭をどうにかしてはいただけないでしょうか」
 酷いことを言うものだ、と白衣の男――精神科医に同情した。精神科医も、畑違いの、病気ですらないモノは治せまい。
 けれど、その医者はにこやかな表情で父親を手で制した。

「続けてください、アリアさん」

 その言葉に、彼女がどれほど救われたか。
 彼女は早口で、己の思想を語り始めた。医者も傾聴した。父親は呆れ半分で、そのうち気分を悪くして出ていった。
 二人だけの白い部屋。――はじめて、仲間ができた日。

 ここで終わっていれば、悲劇は始まってすらいなかったであろう。

 場面が変わる。
 病院の中に併設された孤児院だ、という情報が頭の中に流れる。
 白い廊下。件の医者が、子供を連れてきた。

 傷だらけの細い腕。虚ろな片目――右目はつぶれていて、乱暴に包帯で隠されていた。白い肌と真っ黒な長髪。美しく飾り立てれば綺麗にも見えるであろうその華奢な肢体は、しかし痛々しい傷跡がボロ布同然の肌着越しに滲んでいる。
 一言で言うとすれば――少女のような、少年だった。
 僕は息を詰まらせる。なぜなら。

 まるで、かつての僕のようだったからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...