オトメマジカル ~女の子しか魔法を使えない世界で天才男の娘が魔法無双する話~

沼米 さくら

文字の大きさ
上 下
12 / 15

Love yourself whom I love.

しおりを挟む

「……え?」
 困惑した。

「だから、あなた男でしょ?」
「ど、どういう――」
 クリスの言葉に、僕は咄嗟にしらばっくれる。が。
「もう隠さないでいいよ、ソーヤちゃん」
 マーキュリーの優し気な声に、僕は言葉を詰まらせる。

 ――『武器の振えないガキは、この家にはいらない』
 ――『魔法が使えるのは女だけだからな』

「……なんにも、隠してなんて」
 かろうじて振り絞った言葉。けど――「声、震えてるわよ」とクリスは鋭く指摘する。
 涙が零れ落ちそうになるのを必死にこらえ、僕は次の言葉を考える。
 けれど。

 ――『男のくせに、魔法が使えるなんて』
 ――『……いまからあなたは娘よ』

「…………」
 なにも、思いつく言葉はなくて。
「泣いてるの?」

「……ぼくは、おんなのこ、だもん」
 幼く、小さく、主張した。

「だって、だってさ。まほうがつかえる、おとこのこなんてさ、いないじゃん」
「そうね」
「けんのふるえないおとこなんて、おとこじゃないじゃん」
「……そう」
「だから、ぼくは、ぼくは――――――――――」
「………………」
「――おんなのこじゃなきゃ、おかしいの」
「……………………」

 僕の幼い声。「だから、だから――」と言葉を探る僕に、クリスは近寄って。

 ぱしん、と頬を叩いた。

「いい加減にしなさい」
「なにを――」

「いい加減――言い訳すんの、やめなさい!」

 怒鳴ったクリスの言うことが、まるでわからなくて。
「どういう――」
 尋ねようとしたのを遮って、クリスはまくしたてた。

「あんたねぇ、言い訳が多すぎんの。毎回毎回ぐちぐちぐちぐち! いい加減本音で話したらどう!?」
「それは……」
「また言い訳しようとしてる! そういうとこよ、ばか!」
 口をつぐむ僕に、彼女はさらなる追い打ちをかける。
「更にイヤなのは、それを自分にも言い聞かせようとしてるとこ! ほんっと、自分に言い訳して何になるのよばか!」
「……」
「なんか言い返せばか!」
 今度はそんなことを言ってくる、感情が爆発したクリス。何をすればいいか途方に暮れる僕のひたいに、彼女は人差し指を押し当てて。

「自分を偽るな。自分に言い訳すんな。――私の好きなあんたを愛して」

 僕の目を正中線で射抜く彼女の青い瞳。そんな真っ直ぐな視線に、少しドキッとして。
「目ェ逸らすな、ばーか。……茶化してくれる奴がいないのって寂しいわね」
 彼女のため息に、僕はかすかにうつむいた。

「わかった。話すよ。……絶対に、ほかの人に話さないって約束してくれるなら」

 ぽつり、口にした言葉。ぱあっと花が咲いたように笑うマーキュリーと対照的に、クリスはどこか優し気に微笑む。
「洗いざらい吐きなさい。……どんなことだって、受け入れたげるから」

    *

「ぼくは……男です」
「改めてだけど、見た目からは想像つかないわね……」
「……性別を偽って、この学校に通ってました」
「私は全然わかんなかったよぉ。いるんだね、こんなかわいい……女の子より女の子な男子なんて」
「あはははは……全然褒められてる気がしないのは気のせいかな?」
 空虚に笑う僕に、クリスはため息を一つ。
「で、さっきはなんであんなに思い詰めてたのよ」
「実は――」
 僕はこれまでの推理を話す。

「――この騒動の犯人がアリアだっての!?」
「しーっ、声がでかい!」
 僕が小声で注意すると、クリスははっとしたように息をひそめる。
「……どういうことよ」
「だから、言ったでしょ? アリアが遺物を使ってたのを見たことがあるって」
「なんでそれだけでアリアが犯人だってわかるのよ」
「しかも、教室にもいなかったし――」
「それだけじゃ証拠にはならないわよ。ほら、もっと、決定的なのがないと」
「落ち着いてよ、クリスちゃん。ソーヤちゃ……ソーヤくん? も……」
 お互い頭がカーッとなっていたみたいで、互いに息をつく。
「……お茶、飲む?」
「ええ、頂くわ」

 自分のマグカップを魔法で呼び出し、あと茶葉とティーポッドも収納魔法の穴の中から取り出し。
 お湯を魔法で出して、茶葉を入れたティーポッドに注ぐ。
「手慣れてるわね」
 クリスが僕のそばに寄ってきた。
「いつも、自分で淹れてたから」
「やってくれる人がいなかったの?」
「まあね。僕、家族からは見捨てられてたし。いちおうメイドはいたけど、ドジでお茶の一つも淹れられない子でさ――――」
 重たい雰囲気にならないようにあえて笑って告げた言葉に、しかし彼女は。
「……あんたも苦労してきたのね」
 そう言って、うつむいた。
「べつに、当たり前のことだよ」
「当たり前じゃない存在が言う?」
 当たり前じゃない存在。イレギュラー。障害者。異常。バグ。
 彼女もきっと言葉を濁したんだろう。その気はなくたって。
 別に苦労なんてしてはいない。憐れまないでくれ。
 そんな意味を込めて、僕は言葉を探り。
「……ああ、そんな存在には、当たり前なんだよ」
 なるだけ傷つけないように振り絞った言葉に、彼女は少し笑った。
「なにがおかしい」
「おかしくなんてないわよ。人には人の当たり前があるんだなって」
「なにそれ」
 口をとがらせる僕。彼女は「なんでも。ただ」と前置きをして。
「苦労してるのは私だけじゃないし、あんただけでもない。それだけのことよ」
 そんなふうに、唇をほころばせ。
「いい匂いね」
「う、うん。茶葉、少しいいのにしたんだ」
 ぎこちなく話題を変えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

処理中です...