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しおりを挟む「アリア……嘘、だよね」
呟いた僕――の腕を「危ないっ」と引っ張ったのは。
「クリス!」
名前を呼んだ僕。その眼前を、氷のつぶてがひゅんと風切り音を立てかすめる。
「助かったよ……ありがと」
「いいのよ。それより、どういうこと? なんで――」
「話はここから逃げてからにしよ!」
マーキュリーの言葉に、僕は助けられたような気がした。実際にのんきに話をしていられるような余裕もなかった。
そのはずだ。しかし。
攻撃は止んでいた。
レーネのほうをちら、と見ると。
彼女は、停止していた。
かちん、とまるで糸で吊られているように。
よくみると、短杖の先はかたかたと震えていて。
「いまのうちに……」
マーキュリーが逃げようとするのを、僕は「待って」と制止する。
……様子が変だ、というのはたぶんこの場にいる全員が察していただろう。
しばらく停止していたレーネは、突然、がくんと倒れ伏した。
さっと駆け寄った僕。
「だめ、危険よ!」悲鳴のようなクリスの声を聞かなかったふりをして、レーネの肩を抱く僕。
静寂、数秒間。そののちに。
「ん、んぅ……あれ?」
僕の腕のなかの少女は、目を覚ました。
*
――夜になった。
『臨時ニュースをお伝えします』
魔鉱ラジオ。魔力を帯びた石を使って遠くから送られる音の波を捕まえて流す、かつての異世界人が伝えたとされる――法律上許可されている、数少ない遺物。
ざっとノイズが流れ、電波の周波数を切り替えるが。
『臨時ニュースです』
声が変わっただけの同じ内容。僕はため息をついてラジオの電源を切った。
世界各地で起きたとされる暴動。すぐに鎮圧されたものの。
一斉に現れた学園の暴徒たちは、現在勾留中なのだそうで。
「……アインちゃん、泣いてたね」
「そうね。さすがに心が痛くなったわ」
目を伏せる僕ら。自室待機。――やはり、一人足りなくて。
「……アリア」
いない少女の名前をつぶやくと、クリスが僕のそばに寄ってきた。
「アイツ、どこに行ったのかしらね」
「早く帰ってくれば……いいんだけど」
「…………ねえ」
彼女は呟くように、ささやくように、僕に尋ねた。
「――あんた、いったい何者なの?」
「え?」
「何を隠してるの? なにを知っていて、どうしていまここにいるの?」
「どういう――」
「不思議だったのよ」
彼女は僕を見つめ。
糾弾するように告げた。
「あなた、男でしょ」
*
「なんにも覚えてない!」
少女の叫び声が壁越しに響く。
「~~~~~~」
「~~~~から――覚えてな~~~~」
悲痛な声と、責め立てる声が交互に響く。
何度も何度も。頭がおかしくなるような空間。
それが、幾重にも重なって聞こえた。
ここは校舎地下の会議室。
「うるさいな……」
「仕方ないでしょ。拷問なんてそんなもんよ」
「だからって他にもやりようがあったろ……流石に気分が悪いぜ」
苦言を漏らすヴィクトリアに、スミカが苦笑する。
「さて。――作戦を始めましょうか」
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