11 / 15
empty
しおりを挟む「アリア……嘘、だよね」
呟いた僕――の腕を「危ないっ」と引っ張ったのは。
「クリス!」
名前を呼んだ僕。その眼前を、氷のつぶてがひゅんと風切り音を立てかすめる。
「助かったよ……ありがと」
「いいのよ。それより、どういうこと? なんで――」
「話はここから逃げてからにしよ!」
マーキュリーの言葉に、僕は助けられたような気がした。実際にのんきに話をしていられるような余裕もなかった。
そのはずだ。しかし。
攻撃は止んでいた。
レーネのほうをちら、と見ると。
彼女は、停止していた。
かちん、とまるで糸で吊られているように。
よくみると、短杖の先はかたかたと震えていて。
「いまのうちに……」
マーキュリーが逃げようとするのを、僕は「待って」と制止する。
……様子が変だ、というのはたぶんこの場にいる全員が察していただろう。
しばらく停止していたレーネは、突然、がくんと倒れ伏した。
さっと駆け寄った僕。
「だめ、危険よ!」悲鳴のようなクリスの声を聞かなかったふりをして、レーネの肩を抱く僕。
静寂、数秒間。そののちに。
「ん、んぅ……あれ?」
僕の腕のなかの少女は、目を覚ました。
*
――夜になった。
『臨時ニュースをお伝えします』
魔鉱ラジオ。魔力を帯びた石を使って遠くから送られる音の波を捕まえて流す、かつての異世界人が伝えたとされる――法律上許可されている、数少ない遺物。
ざっとノイズが流れ、電波の周波数を切り替えるが。
『臨時ニュースです』
声が変わっただけの同じ内容。僕はため息をついてラジオの電源を切った。
世界各地で起きたとされる暴動。すぐに鎮圧されたものの。
一斉に現れた学園の暴徒たちは、現在勾留中なのだそうで。
「……アインちゃん、泣いてたね」
「そうね。さすがに心が痛くなったわ」
目を伏せる僕ら。自室待機。――やはり、一人足りなくて。
「……アリア」
いない少女の名前をつぶやくと、クリスが僕のそばに寄ってきた。
「アイツ、どこに行ったのかしらね」
「早く帰ってくれば……いいんだけど」
「…………ねえ」
彼女は呟くように、ささやくように、僕に尋ねた。
「――あんた、いったい何者なの?」
「え?」
「何を隠してるの? なにを知っていて、どうしていまここにいるの?」
「どういう――」
「不思議だったのよ」
彼女は僕を見つめ。
糾弾するように告げた。
「あなた、男でしょ」
*
「なんにも覚えてない!」
少女の叫び声が壁越しに響く。
「~~~~~~」
「~~~~から――覚えてな~~~~」
悲痛な声と、責め立てる声が交互に響く。
何度も何度も。頭がおかしくなるような空間。
それが、幾重にも重なって聞こえた。
ここは校舎地下の会議室。
「うるさいな……」
「仕方ないでしょ。拷問なんてそんなもんよ」
「だからって他にもやりようがあったろ……流石に気分が悪いぜ」
苦言を漏らすヴィクトリアに、スミカが苦笑する。
「さて。――作戦を始めましょうか」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……



Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる