4 / 24
決意・トランスセクシャル(2)
しおりを挟むハル。伊東 ハル。僕の幼馴染で、親友の少女である。
「……ハル、なんでここに?」
「心配だから……学校も休んで……って、なに言わせるの!? あなたには関係ないじゃない!」
だめだ、僕のことを全く信用していない。でも、もともと結構うざかったんだ。もうこれでいいや、と思おうとしたところで。
「……大変ですお姉ちゃん。このハルさんとやら、認識改編が通用してません!」
「にんしき、かいへん? なにそれ。というか、シキに妹なんていなかったはずよね。どういうこと? この女シキ」
「女シキって何さ! ああもう、お茶入れてくる!! 座っとけ!!」
「へぇ、嘘にしてはよくできてるじゃないの」
「残念ながら嘘じゃないんだよなぁ……」
ハルは静岡産の緑茶をすすりながら僕たちをジト目で見つめた。こいつ、口では不機嫌そうにしつつも、僕しか知らない完璧なチョイスに目を白黒させている。面白い。
……ちなみに、頬をつねったら痛かった。嘘じゃないし夢でもない。夢ならばどれほどよかったでしょう。
現実改編のことしか話してないから理解されてるかどうかすらもわからないけど、ひとまず納得はしてくれたと思う。思いたい。
「で、ひとまずあんたがシキだとして」
ズズっとお茶をすすって、彼女は言った。
「昨日のアレ、なに?」
「昨日の?」
「うん。なんか……ああ、うん。シキってばこの妹ちゃん? を抱いて、次の瞬間光に包まれて、女の子が出てきて、なんかエビみたいなのをやっつけたじゃん。アレなによ」
要するに前章で描いた一連のアレである。
「……見てたの?」
「うん」
見られてた。
「あんた、突然出てくから……探しに行ったらこんなの見せられて。……びっくりした。かっこよかったよ」
そう言ってハルは僕の頭を撫でる。
「や、やめてくれ!」
「あんたいま女の子なんでしょー。ならいいじゃーん」
「そういう話じゃなくて!」
こほん、と咳払いをして。
「オッケー、アキちゃん、あれって何だったの」
「いやあんたも知らんのかい!!」
ツッコミの上手い幼馴染である。というのはさておき。
「はい。わかりました」
アキちゃんはまじめな顔をして言った。
「あれは、わたしの……精霊の力を完全に開放した姿になります」
「それって……」
「あなたのフルパワー、というわけです。もう少し詳しく説明しましょうか」
そう言ってまた長ったらしい説明である。要約しよう。
この体は精霊、すなわちアキちゃんと一体化していることは先述の通りだ。だが、その精霊の力を完全に発揮できるわけではない。何故なら、このまますべての力を発揮すると体が自壊してしまうからだ。
故に、その力をある程度以上扱うときは、体が壊れないように精神体――クッションとか梱包材みたいなものだと思う――で包むのだそうで。
「その精神体を身にまとった姿があれです」
「へぇ……プリキュアみたいなやつ?」
「そですね。似たようなものです」
ああそうか、と僕はため息を吐いた。
「魔法少女か……というか思い出したら恥ずかしくなってきた」
顔を赤らめた僕を見て、ハルは「あーかわいいー」なんて言ってまた僕の頭を撫でた。
「あんの不愛想な馬鹿がこんなに可愛くなるなんてねー。正直まだ信じらんないわ」
「不愛想な馬鹿で悪かったな……ってか可愛いとかやめてくれ」
「かわいい。めっちゃかわいいわあんた。あーもうもっとかわいくしたい。アキちゃんもそう思うよねー」
「はい。わたしの姿をある程度反映させてるとはいえ、とても可愛らしく仕上がってます。つまるところ、わたしかわいい。故にお姉ちゃんもかわいい、です」
そう自信満々に言うアキちゃんはやはり無表情だった。
「そんなにかわいいとか言わないでくれ……」
ちょっと嬉しいじゃないか。そんな風に思ってしまう自分とは対照的に、少女に表情はなかった。
「じゃ、公園にでも行きましょうかね。シキ、着替え方とかわかる?」
この場の雰囲気を完全に掌握したハル。その言葉に、僕は少し切れ気味に返す。
「ガキ扱いすんな。このくらいわか……わ、か……」
タンスを開けて絶句した。うん。まったくわからん。
というか、中学時代のクソダサいジャージに着替えたのも、これ以外に着れそうな服がなかったからであったことを失念していた。
故に、僕は頭を下げるほかなかったのである。
「……わかりません。ハル様どうかこの私に服の着方を教えてください……!」
「よろしい。じゃあここ座って。脱がせたげるから」
「脱がせ!? 口頭だけで大丈夫だから……」
「だーめー。というかいまは同性なんだしいいでしょー」
「です。ハルさん、手伝います」
「おお、アキちゃん助かる! じゃあ、脱ぎ脱ぎしようねー」
「うあぁぁぁぁぁ――!」
そして、強引に脱がされた――。
「……なんかスースーして恥ずかしいんだけど……。胸きついし……」
「次第に慣れるわよ!」
そう言われても、さすがにすぐには慣れないものだ。まして、女物の服なんて着たことがないのだから余計に。
「うぅ……女装してるみたい……。こんなに可愛いやつ、僕には似合わない……」
「めちゃくちゃ似合ってるのになに言ってんの、シキ」
「お姉ちゃん、すごくかわいい」
顔面がオーバーヒートしそうだった。おかしくなりそうで、恥ずかしくて、でも嬉しくて。
僕、どうしてしまったのだろうか。
黒い水玉のワンピースを翻しながら、照れを隠すように叫んだ。
「ほら、行くんだろ! 早く行こうよ!」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ゆめまち日記
三ツ木 紘
青春
人それぞれ隠したいこと、知られたくないことがある。
一般的にそれを――秘密という――
ごく普通の一般高校生・時枝翔は少し変わった秘密を持つ彼女らと出会う。
二つの名前に縛られる者。
過去に後悔した者
とある噂の真相を待ち続ける者。
秘密がゆえに苦労しながらも高校生活を楽しむ彼ら彼女らの青春ストーリー。
『日記』シリーズ第一作!
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
放課後はネットで待ち合わせ
星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】
高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。
何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。
翌日、萌はルビーと出会う。
女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。
彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。
初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?
田中天狼のシリアスな日常
朽縄咲良
青春
とある県の平凡な県立高校「東総倉高等学校」に通う、名前以外は平凡な少年が、個性的な人間たちに翻弄され、振り回され続ける学園コメディ!
彼は、ごくごく平凡な男子高校生である。…名前を除けば。
田中天狼と書いてタナカシリウス、それが彼の名前。
この奇妙な名前のせいで、今までの人生に余計な気苦労が耐えなかった彼は、せめて、高校生になったら、平凡で平和な日常を送りたいとするのだが、高校入学後の初動に失敗。
ぼっちとなってしまった彼に話しかけてきたのは、春夏秋冬水と名乗る、一人の少女だった。
そして彼らは、二年生の矢的杏途龍、そして撫子という変人……もとい、独特な先輩達に、珍しい名を持つ者たちが集まる「奇名部」という部活への起ち上げを誘われるのだった……。
・表紙画像は、紅蓮のたまり醤油様から頂きました!
・小説家になろうにて投稿したものと同じです。
氷の蝶は死神の花の夢をみる
河津田 眞紀
青春
刈磨汰一(かるまたいち)は、生まれながらの不運体質だ。
幼い頃から数々の不運に見舞われ、二週間前にも交通事故に遭ったばかり。
久しぶりに高校へ登校するも、野球ボールが顔面に直撃し昏倒。生死の境を彷徨う。
そんな彼の前に「神」を名乗る怪しいチャラ男が現れ、命を助ける条件としてこんな依頼を突きつけてきた。
「その"厄"を引き寄せる体質を使って、神さまのたまごである"彩岐蝶梨"を護ってくれないか?」
彩岐蝶梨(さいきちより)。
それは、汰一が密かに想いを寄せる少女の名だった。
不運で目立たない汰一と、クール美少女で人気者な蝶梨。
まるで接点のない二人だったが、保健室でのやり取りを機に関係を持ち始める。
一緒に花壇の手入れをしたり、漫画を読んだり、勉強をしたり……
放課後の逢瀬を重ねる度に見えてくる、蝶梨の隙だらけな素顔。
その可愛さに悶えながら、汰一は想いをさらに強めるが……彼はまだ知らない。
完璧美少女な蝶梨に、本人も無自覚な"危険すぎる願望"があることを……
蝶梨に迫る、この世ならざる敵との戦い。
そして、次第に暴走し始める彼女の変態性。
その可愛すぎる変態フェイスを独占するため、汰一は神の力を駆使し、今日も闇を狩る。
ファンファーレ!
ほしのことば
青春
♡完結まで毎日投稿♡
高校2年生の初夏、ユキは余命1年だと申告された。思えば、今まで「なんとなく」で生きてきた人生。延命治療も勧められたが、ユキは治療はせず、残りの人生を全力で生きることを決意した。
友情・恋愛・行事・学業…。
今まで適当にこなしてきただけの毎日を全力で過ごすことで、ユキの「生」に関する気持ちは段々と動いていく。
主人公のユキの心情を軸に、ユキが全力で生きることで起きる周りの心情の変化も描く。
誰もが感じたことのある青春時代の悩みや感動が、きっとあなたの心に寄り添う作品。
優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由
棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。
(2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。
女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。
彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。
高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。
「一人で走るのは寂しいな」
「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」
孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。
そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。
陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。
待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。
彼女達にもまた『駆ける理由』がある。
想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。
陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。
それなのに何故! どうして!
陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか!
というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。
嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。
ということで、書き始めました。
陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。
表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。
何故か超絶美少女に嫌われる日常
やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。
しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる