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みっかめ ~へんかするこころ~
たのしいおあそび
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虚空、まただ。
魂が無重力の宇宙へ浮かび上がり、形なき夢現へと誘われる。奇妙で不可思議で心地いい。
声を発することも、己の意思で動くことすらままならない闇のなか、幼女の声が、俺を呼んだような気がした。
――――蒼にぃ、起きる時間だよ。
夢見心地で上体を起こすと、聞こえたのは耳をつんざく悲鳴。
驚きに、一瞬ビクッとして目が冴える。ついでに少しだけ水分がおむつに吸収される感覚。
落ち着いてから、息を切らすその奇声の発生源に向かって、恐る恐る聞いてみる。
「……一体、どうしたんだ?」
すると、その少女――瑠璃は、涙目で虚空を見つめて告白した。
「…………おねしょ、しちゃった……」
「おむつしててよかったな」
「兄貴に言われたくない」
そんな掛け合いから、新しい朝が始まった。
「……瑠璃ちゃん、本格的に頭が赤ちゃんになっちゃったのね」
「やめてよねぇね……お姉ちゃ……お姉さんっ!」
「ねぇねでいいわよ、るりちゃん」
笑顔で語尾にハートがついたような語調で言う翡翠さんに、瑠璃は顔を真っ赤にして俯いた。
三人分の微かな芳香が部屋に充満していた。
「しかし、手際いいな。流石結構最近までおねしょしてただけあるよ」
「うるさいっ!」
自分のおむつをささっと脱いで股をしっかりと拭き、ショーツを穿く。
流れるようにその一連の作業を終えた瑠璃に、俺は九割の尊敬と一割のからかいを含めて言った。
「へぇ、瑠璃ちゃんどのくらいまでおねしょしてたの?」
それに首を突っ込んだ翡翠さんに、俺はニヤリとして。
「確か、小三くらいまで毎日……夜のおむつもそのくらいまでだったな……。かたくなに教えてくれなかったけど、それからも度々シーツを洗濯機にかけてるのを見かけたような……」
「やめてよ! 恥ずかしいっ!」
「へぇ……じゃあこれも必然だったのね」
「んな訳ないもんっ! 最後にやったのは大体小六くらいだし……あっ」
ついうっかりというように慌てて口をふさぐ瑠璃。なにこれかわいい。
彼女はまた顔面を真っ赤にして、照れを隠すように叫んだ。
「お兄ちゃんもやってんでしょ! さっさとごろんしてよ!」
おむつを替え終わり、朝ごはん。
「ねぇね、朝はパンでよかった?」
「うん。美味しいわ。瑠璃ちゃん、お料理も得意なのね」
「お口にあったのなら嬉しいな」
和気藹々とした食事。何故だか少し騒がしくて……親がいた頃の食卓を思い出す。
あの頃は楽しかったな――「どうしたの、兄貴」
瑠璃が俺の顔を覗きこんで聞く。
「いや、なんでもないよ。ただ、こんな平和がちょっとだけ懐かしかっただけ」
「……そうだね。二人が三人になっただけで、こんなに騒がしくなって……」
向き直ったその横顔は儚げに、暗い瞳は遠くを見つめていた。
「こんな楽しい瞬間が、ずっと続けばいいのに」
少女の発したその呟き。少しだけ、胸が痛くなったような気がした。
「ちゃんと一人でお留守番、できる?」
「うん。大丈夫だよ」
こくりと頷くと、瑠璃は「そういえば」と前置きをしてたずねる。
「……おむつ、一人で替えられるようになったの?」
「バッチリ。ひすいお姉さん、ありがとう」
お礼をいったら、彼女は優しげに笑った。
――こんな日々が、ずっと続けばいいのに。
『じゃあ、行ってきます』
そう言って、二人は玄関を出た。
**********
さて、俺はこれから一人でお留守番だ。
どうしようかな。なにをしようかな。
楽しいこと、なにかないかな……。
……。
…………。
………………。
なにもねえ!
考えども考えどもなにも浮かばない。
暇潰しにアニメでも見ようかと思ったが、家にあるDVDは既にあらかた見ていた。どうしようか。
とりあえずテレビをつけて、適当にチャンネルを回していると、ふいに懐かしい音楽が。
「……これ、プニキュアの第一作じゃん」
ふたりはプニキュアという女児向けアニメ。小学生の頃、何度か再放送していたものを瑠璃が見てたっけ。
そういえば、これ俺が生まれた頃の作品なんだよな……。今でもやってるなんてすごいな……。
こうして巡り会えたのも何かの縁だ。ちょっと見てみよう。
数十分後。
「うおおっ……そこだっ! ああ……。……立ち上がった! いけ! ぷにきゅあがんばれーっ!」
そこには手に汗握る決戦に心を踊らせてテレビに声援を送る俺がいた。
女児向けと侮っていた俺が馬鹿だった。
圧倒的迫力で描かれるのはキラキラ輝く少女たちの激しい肉弾戦。美しく可憐でカッコいい戦い。
俺はいつしか見入っていた。そう、尿意さえも忘れて。
そして、エンディングの曲が流れる。
「お、面白かったぁ……」
深呼吸して、テレビのチャンネルをまた回してみると、今度は教育番組が映る。それも、幼児向けの。
人形や着ぐるみや子供たちが歌い踊る光景。それは妙に楽しそうに見え――それ以上に、ダンス……というか自由気ままに走り回ってる子供たちがすごいかわいい。そして、極めつけは、小学生の「おねえちゃん」……ッ!
よし、見よう。
数分後。
そこには、続いて始まった別の教育番組を見ながら、体操のお兄さんの動きに合わせてダンスをしている俺がいた。
あぁ……体力のない幼児のための体操……。
すげえ楽しい!
適度な運動がこんなに楽しいことだとは思わなかった。今度から度々見るようにしよう。
そして、落ち着いて。
満足したので自分の部屋に向かおうとして、テレビを消して立ち上がる。
すると、妙に腰回りが重いことに気がついた。
「……やっちゃった」
スカートのなか、重く膨らんで少し垂れ下がっているおむつ。それは、失敗の証。それも、無意識の。
歩きにくいし、少し蒸れてる。じめじめする。
いつの間に……。
ため息をついて、俺は踵を返し、おむつが置いてある部屋へと向かった。
魂が無重力の宇宙へ浮かび上がり、形なき夢現へと誘われる。奇妙で不可思議で心地いい。
声を発することも、己の意思で動くことすらままならない闇のなか、幼女の声が、俺を呼んだような気がした。
――――蒼にぃ、起きる時間だよ。
夢見心地で上体を起こすと、聞こえたのは耳をつんざく悲鳴。
驚きに、一瞬ビクッとして目が冴える。ついでに少しだけ水分がおむつに吸収される感覚。
落ち着いてから、息を切らすその奇声の発生源に向かって、恐る恐る聞いてみる。
「……一体、どうしたんだ?」
すると、その少女――瑠璃は、涙目で虚空を見つめて告白した。
「…………おねしょ、しちゃった……」
「おむつしててよかったな」
「兄貴に言われたくない」
そんな掛け合いから、新しい朝が始まった。
「……瑠璃ちゃん、本格的に頭が赤ちゃんになっちゃったのね」
「やめてよねぇね……お姉ちゃ……お姉さんっ!」
「ねぇねでいいわよ、るりちゃん」
笑顔で語尾にハートがついたような語調で言う翡翠さんに、瑠璃は顔を真っ赤にして俯いた。
三人分の微かな芳香が部屋に充満していた。
「しかし、手際いいな。流石結構最近までおねしょしてただけあるよ」
「うるさいっ!」
自分のおむつをささっと脱いで股をしっかりと拭き、ショーツを穿く。
流れるようにその一連の作業を終えた瑠璃に、俺は九割の尊敬と一割のからかいを含めて言った。
「へぇ、瑠璃ちゃんどのくらいまでおねしょしてたの?」
それに首を突っ込んだ翡翠さんに、俺はニヤリとして。
「確か、小三くらいまで毎日……夜のおむつもそのくらいまでだったな……。かたくなに教えてくれなかったけど、それからも度々シーツを洗濯機にかけてるのを見かけたような……」
「やめてよ! 恥ずかしいっ!」
「へぇ……じゃあこれも必然だったのね」
「んな訳ないもんっ! 最後にやったのは大体小六くらいだし……あっ」
ついうっかりというように慌てて口をふさぐ瑠璃。なにこれかわいい。
彼女はまた顔面を真っ赤にして、照れを隠すように叫んだ。
「お兄ちゃんもやってんでしょ! さっさとごろんしてよ!」
おむつを替え終わり、朝ごはん。
「ねぇね、朝はパンでよかった?」
「うん。美味しいわ。瑠璃ちゃん、お料理も得意なのね」
「お口にあったのなら嬉しいな」
和気藹々とした食事。何故だか少し騒がしくて……親がいた頃の食卓を思い出す。
あの頃は楽しかったな――「どうしたの、兄貴」
瑠璃が俺の顔を覗きこんで聞く。
「いや、なんでもないよ。ただ、こんな平和がちょっとだけ懐かしかっただけ」
「……そうだね。二人が三人になっただけで、こんなに騒がしくなって……」
向き直ったその横顔は儚げに、暗い瞳は遠くを見つめていた。
「こんな楽しい瞬間が、ずっと続けばいいのに」
少女の発したその呟き。少しだけ、胸が痛くなったような気がした。
「ちゃんと一人でお留守番、できる?」
「うん。大丈夫だよ」
こくりと頷くと、瑠璃は「そういえば」と前置きをしてたずねる。
「……おむつ、一人で替えられるようになったの?」
「バッチリ。ひすいお姉さん、ありがとう」
お礼をいったら、彼女は優しげに笑った。
――こんな日々が、ずっと続けばいいのに。
『じゃあ、行ってきます』
そう言って、二人は玄関を出た。
**********
さて、俺はこれから一人でお留守番だ。
どうしようかな。なにをしようかな。
楽しいこと、なにかないかな……。
……。
…………。
………………。
なにもねえ!
考えども考えどもなにも浮かばない。
暇潰しにアニメでも見ようかと思ったが、家にあるDVDは既にあらかた見ていた。どうしようか。
とりあえずテレビをつけて、適当にチャンネルを回していると、ふいに懐かしい音楽が。
「……これ、プニキュアの第一作じゃん」
ふたりはプニキュアという女児向けアニメ。小学生の頃、何度か再放送していたものを瑠璃が見てたっけ。
そういえば、これ俺が生まれた頃の作品なんだよな……。今でもやってるなんてすごいな……。
こうして巡り会えたのも何かの縁だ。ちょっと見てみよう。
数十分後。
「うおおっ……そこだっ! ああ……。……立ち上がった! いけ! ぷにきゅあがんばれーっ!」
そこには手に汗握る決戦に心を踊らせてテレビに声援を送る俺がいた。
女児向けと侮っていた俺が馬鹿だった。
圧倒的迫力で描かれるのはキラキラ輝く少女たちの激しい肉弾戦。美しく可憐でカッコいい戦い。
俺はいつしか見入っていた。そう、尿意さえも忘れて。
そして、エンディングの曲が流れる。
「お、面白かったぁ……」
深呼吸して、テレビのチャンネルをまた回してみると、今度は教育番組が映る。それも、幼児向けの。
人形や着ぐるみや子供たちが歌い踊る光景。それは妙に楽しそうに見え――それ以上に、ダンス……というか自由気ままに走り回ってる子供たちがすごいかわいい。そして、極めつけは、小学生の「おねえちゃん」……ッ!
よし、見よう。
数分後。
そこには、続いて始まった別の教育番組を見ながら、体操のお兄さんの動きに合わせてダンスをしている俺がいた。
あぁ……体力のない幼児のための体操……。
すげえ楽しい!
適度な運動がこんなに楽しいことだとは思わなかった。今度から度々見るようにしよう。
そして、落ち着いて。
満足したので自分の部屋に向かおうとして、テレビを消して立ち上がる。
すると、妙に腰回りが重いことに気がついた。
「……やっちゃった」
スカートのなか、重く膨らんで少し垂れ下がっているおむつ。それは、失敗の証。それも、無意識の。
歩きにくいし、少し蒸れてる。じめじめする。
いつの間に……。
ため息をついて、俺は踵を返し、おむつが置いてある部屋へと向かった。
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