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おトイレはどこですか
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僕は大倉 京介だった。十八才、男、ニート。
なお、現在女子小学生やってます。
「どうしてこうなった!」
「おにっ……りんちゃん、声野太いよ!」
「あっ」
通学路。慌てて僕は女声を出した。休日のうちに猛特訓してどうにか身に付けたスキルである。
色々あって小学六年生の「凛」という女の子として小学校に通わなくてはならなくなったのは、前回話した通り。いまは初登校の最中だった。
「もう、気を付けてよ。いまはまわりに誰もいなかったからいいけど……恥ずかしい思いをするのはりんちゃんなんだから」
「はーい……」
妹、だったはずの少女、蘭に叱られ、僕は少しうつむいた。
「でも、お兄ちゃんすっごくミニスカート似合ってるよね」
「……そう? こっちはすっごく恥ずかしいんだけど……」
足から股間にかけてスースーするし、ともすれば布面積の小さいショーツ、ひいてはムスコが露出してるみたいですごく恥ずかしい。
おそらく真っ赤になっているのであろう顔をみて、蘭はポツリと言葉を漏らす。
「お兄ちゃん、めっちゃかわいい……成人男性じゃないみたい……」
消えてしまいたくなった。
さて。
きんこんかんこんとチャイムが鳴る。
「大倉 凛……は今日も欠席か?」
「は、はい……います……」
朝の会。出欠確認。控えめに手を上げた僕に、教室にいるおよそ三十人の児童の視線が一挙に集まる。
「……あんまり注目してやるな。勇気を振り絞って登校してきてくれたんだ。それだけでもえらいぞ、大倉」
おもっきり上から目線で褒めてくる教師。どうやら僕は不登校だったことにされているらしい。
やいのやいのと騒ぐ子供たちに、黒板の前に立つその女性教師は「静かに。えーっと次は……」と出欠確認を続ける。
そして休み時間になると、女子が一斉に詰めかけてきた。
「りんちゃんかわいい! お姫様みたーい」
男ですが。
「すごーい。髪さらさら~。なんのシャンプー使ってるの?」
ウィッグですが。
「ぬいぐるみ持ってるんだー。超かわいいー」
教材とかをいれたバッグですが。なんでこれしかなかったかなぁ。
ぬいぐるみのようなバッグをぎゅっと抱き締める。抱き心地がよくてつい抱いてしまうのだ。……成人男性がやってると思うと非常に心苦しいものがあるが。
『キャーーーー!! かわいい!』
黄色い悲鳴が上がった。どうやら彼女らは僕を本当にかわいい女児だとしか思っていないらしい。僕はパンダか。
しかし、いくら褒め言葉が「かわいい」一辺倒であっても、褒められるというのは気分がいいものである。調子に乗って、ちょっと首をかしげてあざといポーズをとってみ……ようとしたところで、蘭と目があった。
……非常に複雑そうな感情を湛えた目で僕をみていた。具体的には、動物園で檻の中の不自由を謳歌する愛玩動物をみるような、可愛らしいがどこか可哀想なものをみるような生暖かい目である。
そういえば僕、男だ。それも成人男性だ。
おじさんのかわいくてあざといポーズと考えれば……背筋にサブイボが立ってきた。
「どうしたの、りんちゃん」
「なんでもない……あ、トイレ」
僕はそそくさと、逃げるように席を立った。
……ところで、僕は男性である。女子トイレに入る訳にはいかないし、本来なら男子トイレに入るべきである。
廊下。入り口が二つある。
右が男子トイレ。左が女子トイレ。
僕はナチュラルに右側に入ろうとした……が、しかし。
「そこは男子トイレだよ。女子トイレは左!」
「え」
何を言われたのか一瞬わからなかった。
気のきく優しくて親切な男子が告げた言葉に、僕は一拍遅れて思い出す。
……僕は「女の子」ということになっているのだ。
社会的性別は女子。つまりは男子トイレに入ってはいけないというわけで。
僕は顔面を蒼白にした。
……トイレ、行けないじゃん。
授業開始のチャイムが鳴った。僕は慌てて教室に戻る。
一時間目、二時間目。
昼休み、三時間目、四時間目。
給食もなんとかして乗りきり。
五時間目。六時間目は今日はなかった。職員会議なんだとか。
尿意は時間経過で増していく。いくら水分をとらないようにしたって、喉は乾く。給食の牛乳も飲んだ。飲んだ分、尿意として僕を苦しめる。
……これで何時間耐えただろう。
帰り道、僕の呼吸は荒くなっていた。
「大丈夫?」
蘭が隣から問いかける。
「だいじょうぶ……」
「大丈夫じゃなさそうじゃん」
全く図星だった。
「どうしたの?」
と聞いてきたのでここまでの経緯をかいつまんで話すと。
「ばっかじゃないの……」
呆れられた。
「女子トイレ入ればよかったじゃない」
「ほら、体は男だから……」
「真面目か」
性別の垣根はそう簡単に踏み越えられるものでもないし、踏み越えちゃいけないと思う。
「お兄ちゃんかわいいからバレないって」
「それとこれとは話が別だよ……」
こうしている間にも尿は生成される。はち切れんばかりの膀胱に、耐えず液体は流れ込む。
「……ッ、もう……だめ……」
「お兄ちゃん! あとちょっとだから……」
そう、いつまでも我慢できるはずないのである。
「あっ……あっ、あ……だめ……」
短いホースの先から漏れ出た液体が、綿の女児ショーツを濡らし始める。
「やっ……だめ……とまって! ……とまってぇ!!」
流れ出す黄金水は、スカートを濡らし、足を濡らし、ロングソックスを濡らし、ローファーを濡らし……地面に到達し、小さな池を形作る。
「お兄ちゃん! ……どうしたら……っ」
焦燥。焦燥。焦燥。
あふれだす尿に、僕らはただ呆然自失とするしかなかった。
なお、現在女子小学生やってます。
「どうしてこうなった!」
「おにっ……りんちゃん、声野太いよ!」
「あっ」
通学路。慌てて僕は女声を出した。休日のうちに猛特訓してどうにか身に付けたスキルである。
色々あって小学六年生の「凛」という女の子として小学校に通わなくてはならなくなったのは、前回話した通り。いまは初登校の最中だった。
「もう、気を付けてよ。いまはまわりに誰もいなかったからいいけど……恥ずかしい思いをするのはりんちゃんなんだから」
「はーい……」
妹、だったはずの少女、蘭に叱られ、僕は少しうつむいた。
「でも、お兄ちゃんすっごくミニスカート似合ってるよね」
「……そう? こっちはすっごく恥ずかしいんだけど……」
足から股間にかけてスースーするし、ともすれば布面積の小さいショーツ、ひいてはムスコが露出してるみたいですごく恥ずかしい。
おそらく真っ赤になっているのであろう顔をみて、蘭はポツリと言葉を漏らす。
「お兄ちゃん、めっちゃかわいい……成人男性じゃないみたい……」
消えてしまいたくなった。
さて。
きんこんかんこんとチャイムが鳴る。
「大倉 凛……は今日も欠席か?」
「は、はい……います……」
朝の会。出欠確認。控えめに手を上げた僕に、教室にいるおよそ三十人の児童の視線が一挙に集まる。
「……あんまり注目してやるな。勇気を振り絞って登校してきてくれたんだ。それだけでもえらいぞ、大倉」
おもっきり上から目線で褒めてくる教師。どうやら僕は不登校だったことにされているらしい。
やいのやいのと騒ぐ子供たちに、黒板の前に立つその女性教師は「静かに。えーっと次は……」と出欠確認を続ける。
そして休み時間になると、女子が一斉に詰めかけてきた。
「りんちゃんかわいい! お姫様みたーい」
男ですが。
「すごーい。髪さらさら~。なんのシャンプー使ってるの?」
ウィッグですが。
「ぬいぐるみ持ってるんだー。超かわいいー」
教材とかをいれたバッグですが。なんでこれしかなかったかなぁ。
ぬいぐるみのようなバッグをぎゅっと抱き締める。抱き心地がよくてつい抱いてしまうのだ。……成人男性がやってると思うと非常に心苦しいものがあるが。
『キャーーーー!! かわいい!』
黄色い悲鳴が上がった。どうやら彼女らは僕を本当にかわいい女児だとしか思っていないらしい。僕はパンダか。
しかし、いくら褒め言葉が「かわいい」一辺倒であっても、褒められるというのは気分がいいものである。調子に乗って、ちょっと首をかしげてあざといポーズをとってみ……ようとしたところで、蘭と目があった。
……非常に複雑そうな感情を湛えた目で僕をみていた。具体的には、動物園で檻の中の不自由を謳歌する愛玩動物をみるような、可愛らしいがどこか可哀想なものをみるような生暖かい目である。
そういえば僕、男だ。それも成人男性だ。
おじさんのかわいくてあざといポーズと考えれば……背筋にサブイボが立ってきた。
「どうしたの、りんちゃん」
「なんでもない……あ、トイレ」
僕はそそくさと、逃げるように席を立った。
……ところで、僕は男性である。女子トイレに入る訳にはいかないし、本来なら男子トイレに入るべきである。
廊下。入り口が二つある。
右が男子トイレ。左が女子トイレ。
僕はナチュラルに右側に入ろうとした……が、しかし。
「そこは男子トイレだよ。女子トイレは左!」
「え」
何を言われたのか一瞬わからなかった。
気のきく優しくて親切な男子が告げた言葉に、僕は一拍遅れて思い出す。
……僕は「女の子」ということになっているのだ。
社会的性別は女子。つまりは男子トイレに入ってはいけないというわけで。
僕は顔面を蒼白にした。
……トイレ、行けないじゃん。
授業開始のチャイムが鳴った。僕は慌てて教室に戻る。
一時間目、二時間目。
昼休み、三時間目、四時間目。
給食もなんとかして乗りきり。
五時間目。六時間目は今日はなかった。職員会議なんだとか。
尿意は時間経過で増していく。いくら水分をとらないようにしたって、喉は乾く。給食の牛乳も飲んだ。飲んだ分、尿意として僕を苦しめる。
……これで何時間耐えただろう。
帰り道、僕の呼吸は荒くなっていた。
「大丈夫?」
蘭が隣から問いかける。
「だいじょうぶ……」
「大丈夫じゃなさそうじゃん」
全く図星だった。
「どうしたの?」
と聞いてきたのでここまでの経緯をかいつまんで話すと。
「ばっかじゃないの……」
呆れられた。
「女子トイレ入ればよかったじゃない」
「ほら、体は男だから……」
「真面目か」
性別の垣根はそう簡単に踏み越えられるものでもないし、踏み越えちゃいけないと思う。
「お兄ちゃんかわいいからバレないって」
「それとこれとは話が別だよ……」
こうしている間にも尿は生成される。はち切れんばかりの膀胱に、耐えず液体は流れ込む。
「……ッ、もう……だめ……」
「お兄ちゃん! あとちょっとだから……」
そう、いつまでも我慢できるはずないのである。
「あっ……あっ、あ……だめ……」
短いホースの先から漏れ出た液体が、綿の女児ショーツを濡らし始める。
「やっ……だめ……とまって! ……とまってぇ!!」
流れ出す黄金水は、スカートを濡らし、足を濡らし、ロングソックスを濡らし、ローファーを濡らし……地面に到達し、小さな池を形作る。
「お兄ちゃん! ……どうしたら……っ」
焦燥。焦燥。焦燥。
あふれだす尿に、僕らはただ呆然自失とするしかなかった。
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