魔法少女 マジカル☆ドヘンタイ

沼米 さくら

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#18 変態VS変態

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「――大の男のくせにかわいい女児服着て喜んで、挙句の果てに女の子に混じって遊んじゃうかわいいド変態クソ先生ッッ!!」

「ひゃああいっ!」

 変な声で答えたかわいいド変態クソ先生の魔法少女。
 その目にはハートが浮かんでいるような幻覚が、この光景を見守るドクターちんちんには見えた。
 二人の魔法少女は、最高に、悦んでいた。
「クク、成長したのぉ」
 ドクターちんちんは知っていた。魔法少女を始めたばかりの頃の朔を。
(あの頃は変態力も少なく、まだ男らしさが残っていた。戸惑い、自身の変態たることを必死に否定しながら魔法少女として戦う、弱々しい男だった)
 そんな半年前の彼と、現在目の前に立つ彼女を交互に思い返し。
(あれが、いまではこれほどの変態と化すとはのぅ)
 老人は笑った。
「これでこそ……狩りようがあるってものよッ!」
 笑いながら、小石を放った。

「あはっ! ぼくは……わたしは、変態なのっ!」
 増える魔獣を見据え、その少女は宣言する。
「男のクセに女の子のお洋服で興奮して、かわいくなっちゃうどへんたい!!」
 宣言しながら、バトンを構えて。
「だから……わたしは戦う! 戦えるっ!!」
 息を吸って、バトンの先に閃光。そして、放たれた。

「キューティ……シューティングスターッッ!!」

 それは、流星群だった。
 捕捉した魔獣全てを葬り去る、拡散する魔砲。
 閃光はビームのように放たれ、しかし先で無限に別れ、その細い一筋一筋が無数の魔獣を射抜く。
 音を立てて砕け散る大量の魔獣。しかし。
「そんな……ものかッ!」
 奥に見えたメスイキ、その両手から放り出された小石は新たな魔獣となって立ちはだかる。
「魔獣が壊されれば新たな魔獣を出せばよい」
 背後のドクターちんちん。
「その力、貰い受けようぞ」
 再度現れる膨大な魔獣たち。
 それらは――瞬時に切り伏せられた。

「ふふっ。はは、はははっ! あは、あははははっ!!」
 拳を構えるメスイキ。響く女の高笑い。
 メスイキの前に現れたのは、青い衣装の魔法少女、ラブリィアクア。
「楽しいっ! ああ、命奪うのって楽しいっ!」
 魔獣を切り伏せながら壊れたように瞳孔を開いて叫ぶ彼女に、メスイキはたじろぐ。
「お前は」
「黙れ、筋肉達磨」
 その語圧に、筋肉達磨、もといメスイキはびくりと黙らされ。
「ふふ、所詮その程度なのね。大したことないわ……ねッ!」
 魔法少女の武器の槍が、変形した。瞬時に鞭へと姿を変えた。
 変態的な欲望が染みついた鞭が、メスイキを責める。
「あはっ! 楽しい! その苦痛に歪んだ顔を見てるだけで……」
 責め立てる彼女の顔は――。
「あたしまで、頭がとろけちゃうわ」
 ――言葉通り、快楽にとろけていた。
 笑う少女に、メスイキも口を歪める。
「ああ、最高だ。……心地いい攻めだ」
「心地いいとか言わないで! ……もっと……苦しめッ!」
「それでいい! そうだ、殺す気で責めろ! 俺をゴミみたいに見て――」
「要求が多い!」
「アッフぅん!」
 喘ぎだすメスイキを無視しながら、魔法少女は背後を見た。背後に立つ、もう一人の魔法少女を。
 二人は視線を合わせ、それからそれぞれの目の前に立つ邪悪を一瞥する。
 その邪悪――メスイキとドクターちんちんは、それぞれ川のほうに向かう。
「なにをする気?」
 ミカの問いに、ドクターちんちんは「ククク……」という笑い声で答えた。
「メスイキ。秘蔵のアレを出すぞい」
 呼びかけられた彼は一瞬だけ驚いた顔をして。
「……ああ、わかった」
 とだけ呟き、海パンの前の部分から、一つの、包帯に包まれた小石を取り出す。
 包帯には黒い墨で呪文が描かれていて。
 魔法少女は肌で感じた。これから目の前に現れる存在の強さを。恐怖を。
「いでよ! 『クソでかい全裸のハゲでデブのイカれたオッサン』!!」
 叫ぶドクターちんちん。放り投げられた小石はぴたりと空中にとどまり。
 とんでもない気配が、魔法少女を襲った。
 みるみる巨大化する気配。影が、巨大な影が、あたりを包んで。
「なに、あれ」
 顕現した。

 フルチンでビール腹の、目が異様にキラキラした全裸の巨人が。

「……本当に、なんだあれ……」
 困惑する魔法少女たちに、ドクターちんちんが笑いながら説明した。
「わしの現時点二番目くらいの最高傑作。二人分の力を使って動かす、最強の魔獣ッ!」
 故に、魔法少女は勝てない。ドクターちんちんは信じていた。
 しかし、ミカは不敵に笑う。
「それがどうした。……二人なら、これくらいどうってことないさ」
 優しく微笑んで、告げる少女の声。

 そしてミカは、歌恋の手を握った。
 ――その笑顔に、そのぬくもりに、少女は頬を染めた。
 胸が高鳴る。顔が熱くなる。
(そうだった)
 忘れかけていた初心。姿の変わった目の前の人物。
(そうだ。わたし……この、変態が――)
 歌恋は思い出した。

(好き、なんだ)

 魔力が、爆発した。
 歌恋の魔力は、朔のそばにいることで増加する。
 それは彼女の魔法の原動力が「恋」だから。ドSという変態性質はその副産物に過ぎない。
 さらに、魔力は「夢や希望」、そして「性癖」。「プラスの感情」や「欲望」と言い換えてもいい。恋心なんてまさにそれの代表格だ。
 つまるところ、活性化した恋愛感情が強い魔力となって、さらにミカの魔力と共鳴。結果、爆発的に増加したのである。
「呼吸を合わせて」
 ミカの言葉に、歌恋は何も言わずに従う。
 互いの呼吸の音が重なりあい、魔力はさらに高まりあう。
 ドクターちんちんは肌で感じ取る。
「……これは今までの何十倍も強い。メスイキ、踏ん張れッ!」
「了解したッ!」
 二人の一言ずつの会話を聞いてか聞かずか、魔法少女は武器を交え。
 魔力がその二つの武器に集約され。
 二つの武器の先端が巨人を捉えた時、魔力は指向性を帯びて武器の先端へと向かっていく。
「いくよ」
 歌恋はゆっくりと首を縦に振った。
 閃光が瞬いた。

『ファイナル☆ドロップスタァァァァァァッッ!!』

 口をついて出た二人の叫びと共に、指向性を持った魔力が巨大な光線となる。
 それはあたかも戦艦の主砲のような。それはあたかもミサイルのような。
 まさに必殺技以外の何物でもない、絶大な威力の魔力光線――魔力砲が、魔獣を襲った。

 魔獣はそれを正面から受け。
 受け止められるはずがなかった。
 弱点でもなんでもない、むしろ分厚いビール腹という装甲に覆われた正面。そこに直撃した無慈悲な全力攻撃。
 拮抗したのもわずかな時間のみ。次の瞬間には、その分厚い装甲は貫かれていて――。

 クソでかい全裸のハゲでデブのイカれたオッサンは、爆発四散した。

    *

 目がかすむ。息が切れる。
 苦しい喉に鞭を振るって呼吸をどうにか整えて、ブラックアウトしかける視界でかろうじて目を凝らす。
 ……逃げていく男二人を追う気力はもう残ってはいない。
 攻撃が終わって、もう戦わなくていいと思うと一気に気が緩んで。
 花弁が舞う。
「せん、せ」
 ふと微かに耳朶を打つのは、自分を呼ぶ、疲れ果てた教え子の声。
 高くなった視点で見下ろした彼女は、酷く汗まみれで。
 しかし、彼女を家に運んでやれるほどの体力も残ってはいなかった。
 性欲は使い果たした。もう一度変身する気力も体力もない。魔力も今度こそ底をついている。
 けど。
「ありがとう、ございます。わたしを……もとに、戻してくれて」
 カーディガンの袖で汗を拭って、緩慢に僕を見上げる彼女は、とても可愛らしくて。
 微笑む彼女の濡れた細い髪に。
 大人びた白いカーディガンに。
 その下に着た女児向けブランドのロゴ入りTシャツに。
 紺色のフレアスカートに。
 フリルソックスに。運動靴に。
 そしてその少しだけ背伸びした大人過ぎないコーデを着こなしている彼女に。
 僕はひどくときめいていた。
 ああ、最低だ。けど、僕は変態で間違いない。
「……いいんだ」
 ばつが悪そうな顔を彼女に見せない様に、軽くそっぽを向く。
 魔法は全部解けた。魔力が作ったロリータ服も、ただのパーカーに戻っていた。
 ただの醜い青年に戻っていた。
「もう、立ってられないや」
 足ががくがくと震えてきた。自身の体重すら支えられないほどに、疲労していたのだ。
 僕はよろよろと後退り、やがてぱたりと後ろに倒れ込む。
 砂利道から外れた場所は芝生になっていて、疲れ果てた僕を優しく包み込む。
 何も言わず、そばに横になる歌恋ちゃん。
 暗くなった空に風がそよぐ。
 少しの沈黙が、何故だか心地よく。
「ねぇ、せんせい」
 歌恋ちゃんが口を開いたことすら、一瞬気付かなかったほどだった。
「なんだい、歌恋ちゃん」
 わずかに遅れて答えたはいいが、舌が回っていたかどうかすら怪しい。いよいよ意識が飛び始めた。
「わた……せん……のこ……す…………」
 声すら途切れ始め――。

「わたし、せんせいのことがすき、です」
 ついにわたしは口にした。
 顔が熱い。心臓がバクバクとうなるように拍動する。
 返事は。声を聴きたくて、耳を澄まして。
 ――聞こえたのは、穏やかな呼吸音。
 ふと横を見ると、彼は目を閉じていて。
「寝てる……」
 わたしから出た言葉。
 沈黙。答えてくれる相手はいない。ただ寝息と風、草の擦れる音ばかりが響いて。
 力が抜けた。
 笑う気にはなれなかったけど。
 芝生に寝転がったまま深呼吸して、月がのぞく空を見上げる。
 ああ、眠くなってきたな。
 気持ちよさそうに寝息を立てる先生を見ると、わたしまで夢見心地になって――。

 二人はいつしか目をつぶっていた。
 幸せそうな顔で息をする二人。祝福の風が優しく二人を包む。

 意識が落ちる直前。
 わたしはこれから言おうとしてたことを思い、微かにほくそ笑んだのだった。
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