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#11 魔法少女はどへんたい(3)

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「……メスイキさん」
「やはり女児に猥語を口走らせるのは最高だな」
 なにいってるの、このひと……。
 困惑しつつももう一回変身するためにペンダントを握りしめるわたしに、メスイキさんは無表情で告げた。
「今日は戦いに来たわけではない。安心しろ」
 数秒対峙する二人。しかし、メスイキさんはわたしを見定めるように――あるいは嘗め回すように全身を眺めてから。
「それにもう戦えそうもないだろう。その変態力では変身すらろくにできまい」
 俺は普通の人間を襲うような野蛮人ではない、と野蛮にしか見えない見た目でうそぶいた。
 けど、襲わないというのは本当のようで、彼はすぐ近くにあったベンチに腰掛け、隣をぽんぽんと叩く。
 ふっと息を吐いて彼の隣に一人分のスペースを開けて座ると、彼はおもむろに話し出した。
「俺の名前の語源を知っているか?」
「興味ないです」
「つれないな」
 本当に、一切興味はない。けど、彼は口角を上げながら話した。
「……メスイキというのは、男が女の子みたいに、気持ちよくなることだ」
 聞いてみると、案外興味深い話だった。
 男の人は、普通は白いおしっこ……せーえき? を出して気持ちよくなるらしい。対して、女の子はせーえきも出さず、男の人の何倍も気持ちよくなっちゃうのだとか。
 けど、男の人も女の人みたいに気持ちよくなる方法がある。男の人に愛されたり、女の子になり切ったりして、女の人みたいに気持ちよくなっちゃう。それが、メスイキ。
 その話を聞いて、わたしは不覚にもドキドキと心臓を高鳴らせた。

 ――朔先生を、メスイキさせたい。

 だって、先生かわいいんだもん。
 いつもは自分のこと否定しがちだけど、ときどき女の子みたいに可愛く見えてたまらないの。
 そんな先生をいじめ倒して、泣かせたい。女の子の格好をさせられて可愛くなった先生をメスイキさせて、気持ち良すぎておかしくなっちゃいそうな先生、いや朔ちゃんを見ながら男としての尊厳を徹底的に否定して、屈服させて――。

 先生のすべてを、支配したいな。

 ああ、考えただけでぞくぞくしてたまらない。ふふ、先生オンナノコ化計画、ここに始動セリ――。
 そんなことを考えてしめしめと口角をあげるわたしに、隣に座る海パン男が声を上げる。
「……ふふ、やはり君もド変態だったか」
「え?」
 またも、この人が何を言っているのか、理解できなかった。
 いや、理解を拒んでいただけだったのかもしれない。
「だってそうだろう。――常人であれば、メスイキという言葉に対してこれほど嬉しそうな反応をするはずがない」
 なにを思っているかまでは知らんがな、と前置きをしたうえで、さらに彼は続けたのである。

「……ただの女児が、これほどまでにサディスティックに笑うものか」

 ――きっと、いまのわたしはとても人には見せられないような顔をしていたのだろう。
 ターゲットをどう壊そうか。それだけを考える獰猛なケモノのような、狂気の笑みを浮かべていたことに、今更になって気付いたのである。
 血の気が引いた。
 おかしい。わたしは、おかしい。
 変態だ。わたしは、「異常者へんたい」なんだ……!
 いや、わたしはへんたいじゃない。変態は、もっと、もっと――。
 自分の中の自分が、したり顔で囁いた、気がした。
『カレン。あなたは、もうすでに変態なのよ』
 瞬間、『思い出した』。
 変身してる間の記憶。何度か飛んでいた、記憶の穴がふさがって。
 ――わたしは、人を傷つけるのが大好きな変態だった、ということがわかった。
 あんなに気持ちよくてうれしかったこと、今までなかった。壊れちゃいそうなくらい、魔獣を殺すのは楽しかった。
 その記憶の糸を手繰り寄せるたびに、快感と後悔とが同時に襲ってくる。
 そして、猜疑が証明されていく。
 いやだ。理解りたくない……!
『いい加減認めちゃったら? 自分が、ドSのヘンタイだって』
 もう一人の自分が耳元で囁く。
 いやだ!
 いやだいやだいやだいやだいやだ!!

「嫌ァァァァァァァァァ!!!」

 絶望の金切り声が、古墳の公園に響き渡った。

    *

「キューティ☆ドロップスター!」
 必殺の光線が、新しく出されたばかりの魔獣の鼻先を貫き。
 ――とんでもない性的快感が背筋を貫いて。
「んあっ……」
 びくりとして、喘ぎ声が漏れ。
 それをかき消すような爆風が吹き荒れた。魔獣が爆発したのだ。
 だめだ。これ以上は、もう――。
 花弁が散る。一気に身長が高くなる。
 そこにいるのは、肩で息をする青年と、対峙する裸白衣の老人。
 深呼吸をして心をなだめる僕に、ドクターちんちんが告げる。
「くっ。やりおったか……改良したとはいえ所詮はカマセイヌか」
 戦いを近くで見ていたらしい彼の言葉に、僕は喘ぎ声が漏れそうになるのを我慢しながら「カマセ……イヌ……?」と疑問を示す。
「あの犬の魔獣のことじゃ。即席で出来あがるから使い勝手がいい、わしの傑作の一つなのじゃよ」
 ああ、そう……。
 割とどうでもよかったけど、このことはあとでエミリーに報告しておこう。
 そう思案する僕を横目に、ジジイが不敵な笑みを浮かべた。
「では、そろそろ帰るかの」
 そう言って、ドクターちんちんは背を向ける。
「このまま……逃がすと、お思いで?」
 睨みつける僕に、彼は。
「どうせ捕まえられぬじゃろう」
 至極当然のことを言った。
 僕にはあまり体力がない。老人と徒競走をしたところであまりいい成績をとれるとも思えない。
 魔法少女に変身しても無駄だ。むしろこの状況では不利かもしれない。
 ――僕の魔法少女体はか弱いからだ。
 具体的には普通の小学生の女の子とどっこいどっこいの身体能力しかない。変身した状態でも、魔法少女ですらないユリちゃんより体力がないと思われる。魔法の威力と可愛さに全ステータスを振ったような身体だ。
 しかも、魔法を使いまくったばかりで体がひくひく痙攣している。疲労。ひどい倦怠感が体中を支配している。
 立っているのでやっとだ。走ることもままならない。変身なんてもってのほかだ。
 つまり、このジジイを捕まえることは叶わない、
「これから新しい仲間の歓迎会をやらねばならなくなったのじゃ」
 したり顔で告げる彼の意図はわからなかった。
 けれど、なんだか嫌な予感がする。

 ――それが予感だけで済めばよかった、としばらく経ってから思った。
 翌日、僕の前に現れたマイクロビキニ姿の女。それはかつて「ラブリィアクア」だったもの。

 ラブリィアクアが闇堕ちしたことを、いまのぼくはまだ知らなかった。
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