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エンディング

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 「―――っふぇ!?ヒースッ…!?」

 「はい、ヒース・ライト、ここに」

 「ど、どうしてここに……!?いや、どうやって部屋にっ!?」

 「どうしてと言われても……ミオさんと入れ替わりで部屋に入りましたが、
  もしかして、気付いていなかったのですか?」

 「も、もぉー!!!ヒースさんは気配を消すのが上手すぎるんですッ!!」


 あれから、ヒースは黒鎧布の呪いを克服した。
 黒き刃の全員に罹っていた呪詛を解呪し、事実上、暗殺部隊は解散となった。

 その際、ヒースは引き続き私に付き従ってくれると約束し、新生アリウム騎士団の副団長としてこれから活躍する。

 ほか四人もジニアでの活動を中心とし、ミオの仕事を手伝っている。

 禁術であった黒布は、私が力を使い果たし焼き切った。
 もう誰も、影に消え入る必要はないのだ。


 「気配を消したつもりは無かったのですが、
  職業病みたいな物です、許してください」

 「本当に気を付けてくださいねっ!!貴方は暗殺者ではなく、騎士なんですから!!」

 「おかげさまで、どこにいてもシュバルツに雑用を押し付けられますよ」

 「あー……あの人も人遣い荒いですからねぇ」


 文句を言いながらも、どこか楽しげな彼の顔を見て安心する。

 すると、にっこりと微笑む彼が私の後ろに回った。


 「これから大事な演説です、良かったら髪を梳きましょうか」

 「―――是非、お願いします」


 手慣れた様子で櫛を取り出し、彼は優しく髪を梳いてくれる。

 随分と久しぶりに感じるこの感覚に、この後の仕事をつい忘れてしまう。


 「髪も、あの頃に比べると伸びましたね」

 「あぁ……そんな事もありましたね、ヒースは短い方が好きですか?」

 「―――どうでしょう、あまり気にした事はありませんね」


 一瞬だけ手が止まり、気にしない素振りで続ける彼にちょっとだけ不満を覚えた。

 少しぐらい私に対しての素直な気持ちを話して貰いたいのに、頑なに何も言わないスタンスにもやもやし、つい意地悪な質問を仕掛けてみる。


 「……そういえば、先程レッド王子にお会いしました、
  変わらず元気そうで、激励のお言葉も頂きましたよ」

 「バーベナの王子ですか、また何か困った事を言われませんでしたか?」

 「いつも通りでしたよ、ミオもその場にいましたので、
私の色恋の話を目立ちながら話していただけですが……」

 「はぁ……まったく、毎度の事ながら頭が痛くなりますね…」

 「いっその事、一度くらい公式な場を設けてみて、
  レッド様と縁談の話をしてみた方がよいのでしょうか?」


 非常に遠回しながら、ヒースの心情を揺さぶる作戦を決行。

 内心ドキドキしながら、彼の困った顔を見たくて目線を移してみる。


 「―――……」


 と、髪を梳いてくれているヒースの表情は険しかった。


 「ヒース?」

 「あぁ、いえ、すみません……
  そうですね、シルバの婚姻の話ですよね」

 「端的に言えば、はい」

 「それに関してですが、一つ、私から進言しても良いですか?」


 私の長くなった髪を綺麗にまとめながら、続けて話す。


 「今後、シルバの判断で婚約者を決める際、
  その者と一戦交えさせて頂きたいのです」

 「……なるほど?」

 「理由はいくつかありますが、最大の目的は剣聖に寄り添うに値するかどうか、
  私自身の目でそれを確かめたいですし、シルバに釣り合う技量を持つかも重要です」

 「本音は?」

 「―――私より、弱い奴にシルバは任せられない」


 そこまで言って、二人は可笑しくて笑う。

 とても真剣に話した内容の裏が、とてつもない私情であるのが面白い。
 私は髪を梳かしてくれた彼に向き直り、ゆるんだ頬を締め直して告げた。


 「それ、面白くていいですねっ!!採用です!!」

 「っはは……自分で言うのも恥ずかしいですが、本当に心配なんです」

 「分かっていますよ、なら……今回の演説でこの事も付け加えましょうか」

 「―――正気ですか」

 「ヒースが言ったんじゃないですかっ、今更弱気にならないでくださいッ!!」


 そう、決めた。

 ヒースより弱い相手とは結婚しない。
 ならば今日、皆に告げる話は帝都の未来と騎士団の未来。

 そして、私自身の事。


 「わたくしシルバは、アリウム騎士団副団長を打ち負かした者と結婚します、
  ―――こんな内容で皆に話せば、レッド王子との変な噂も消える事でしょう」

 「それは……いや、そうですね、素晴らしいと思いますよ」

 「簡単に、負けないでくださいよ?」

 「元黒き刃の死神にして騎士団の副長ですから、お任せください」


 にこりと微笑むヒースの笑顔。

 それだけで満ち足りて、活力が沸き、希望が見えた。
 自然と撫でてくれた髪に心地よさを感じて、私も彼に微笑む。

 そして彼の手を取って先へ進む。


 「そろそろ時間ですね、行きましょうかヒース」

 「はい、今日の活躍を期待しております」

 「レッド王子といきなり剣を交えるかもしれないのに?」

 「その時は……まぁ、それでも負けませんよ」

 「絶対に絶対ですよ?」


 握った手をわざと緩めると、ヒースは力強く返してくれた。

 そんな些細な事で嬉しくなるこの感情を入れ替え、気持ちを切り替えて大舞台へ足を踏み入れる。


 「さぁ、巷で剣聖王姫と呼ばれているシルバの姿を見せに行ってください、
  民が、兵が、騎士が、そして私も待っております」


 銀の髪をなびかせ、シルバは凛と前を見た。

 美しく、可憐で、そして誰よりも強い彼女の覇道は突き進む。


 「―――では、いってきますっ!!」


 無双の剣聖は、全てを救って皆を導く。
 心中に眠る女神との約束を果たす為、義父との誓いを守る為。

 彼女の物語は、淡い銀の月明かりによって照らされ続けるであろう。

 それはきっと、幸せで、かけがえのない、剣の物語なのだから―――

                         完
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