上 下
101 / 102
エンディング

3

しおりを挟む

 「ミオも元気だったか?あれから腕もなんともないか?」

 「お気遣いありがとうございます、おかげさまでこの通りです!!」

 「おお、それなら大丈夫そうだな!!良かったぜ!!」

 「レッド王子、改めてその節ではお世話になりました、
  貴方がいなければ、今頃私は―――」

 「あぁ、気にすんな、俺は出来る事をやっただけだ、
  それに、ジニアの土地はバーベナにとっても重要な商業拠点だ、
  あれからも交易で良くしてもらってる、それで終わる話だろ?」

 「……レッド王子」

 「やめやめ、めでたい日にしけた話を掘り起こすものじゃねぇよ、
  それに、村を救った事でシルバ王女にアプローチするのは趣味じゃない」

 「そそ、その話なのですがっっ!!!
  レッド王子が剣術大会でプロポーズした話、本当ですかッ!?」

 「ん?そりゃ勿論!!剣を交えて確信したからな、
  こんなにも純粋で強い剣があるのか……ってな!!
  俺は迷わずに、あの時この想いを告げたって訳よ」

 「な、なな、なんと情熱的なッ!!!
  で、シルバ様的にはどうなんですッ!?アリなんですか!?」

 「………」


 どうしてこんな、周りの有力者たちが聞き耳を立てている場所で色恋を語るのか。

 彼と会う度、周囲の興味は私の婚約者の話で持ちきりとなり、その度にあの人がフォローして事なきを得ていた。


 「とりあえず、積もる話もありますが我々はこれで失礼しますね、
  レッド王子も今日の式典楽しんでご参加ください」

 「お、おう……」

 「ミオ、いつまで与太話をしているのです、行きますよ」

 「え、えぇー……でも」

 「穀物の収益……更に目標数値釣り上げようかなぁ……」

 「さ、早く奥へ行きましょう、レッド王子もまた後で」

 「あ、あぁ……」


 脅し代わりにパワーハラスメントを突き付け、シルバは事なきを得た。

 実際、シルバの婚約者候補は限られており、最も有力な候補にバーベナのレッド第二王子が上がっている。

 そのため、冗談でも彼との距離を縮めると両国への影響が出る。
 故に慎重に事を運び、レッドとはきちんとした距離感で接したかった。


 ―――だというのに。


 「頑張れよッ!!!王女様!!!」


 大声で檄を飛ばすレッド。

 それが許されるのは彼が王子という立場であり、紫電の英雄として呼ばれるため。
 
 気恥ずかしさに耐えて、シルバは部屋の奥へと姿を消した。


 「ふぅ……なんとも、疲れます」

 「けど、とても素敵な人ですよね、
 高貴な出自であるのに、私みたいな人にも対等に接してくれる」

 「―――そうですね、民との距離感が近いのでしょう、
 戦場で活躍していた人ですから、人の気持ちもよく理解している」

 「それでも、お気持ちははっきりしない感じですか?」

 「……どうでしょうか、そこに関しては私自身でもよくわかりません、
  ですが、絶対に嫌いでは無いですし、立場的な問題が無ければ
  もう少し近くに接したいと、そう、思っております」

 「むふ……今はまあ、それだけでお腹いっぱいです」

 「なんか誤解している気が……はぁ、いいですけど」


 あきらめ気味に肩を落とし、シルバは席に座る。
 式の発表まで時間もなく、したためた演説用の原文を読み込んで時間を使う。


 「シルバ様、私は衣装の確認と会場を見て来ます、
  しばらくここでお待ち下さい、一人で大丈夫ですよね?」

 「私は子供ですか……大丈夫ですから、気にせず行って下さい」

 「はーい、では」


 丸い眼鏡を揺らし、可愛らしい彼女は部屋を出る。

 急に一人になると、集中も切れて机に突っ伏す。


 「―――はぁ……」


 何度目かの溜息、理由はなんとなくわかる。

 支えが、精神的な拠り所が無いから。
 けどそれは甘えであり、頼り過ぎてもいけない。

 なのに、それなのに、彼の優しさを求めてしまう。


 「……ヒースぅ……」


 本当に小さく、誰にも聴こえない声で呟いた。

 会いたい。

 彼と話して、何気ない時間を共有したい。
 それだけで良かった、今の寂しさを補うのなら。


 「シルバ」


 不意に、呼ばれた私の名前。

 敬称も無く、ただその響きを呼ぶのは一人しかおらず、伏せていた顔を上げる。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

処理中です...