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迷いと、後悔

十二話

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 事の始まりは、シュバルツがヒースに打ち明けた話。

 その内容は、聖女としての素質を備えるシルバ王女への浄化の儀式依頼。
 限られた聖女のみが行えるその儀式に、彼女を巻き込む形で最低限の修練を行わせる事を話した。


 『お前を、ここで死なせる訳にいかない』

 『だが……』

 『分かっている、シルバ王女様には俺からお願いする、
  お前も理解しているだろう、ここで死ぬ事が彼女に為にならない事を』

 『しかし、儀式が失敗してしまったら……シルバは…』

 『仮に、シルバ王女様に聖女としての力が足りなくても問題ない、
  広い大陸だが聖女ぐらい見つかる、俺を信じろ―――友達、だろ?』


 共に学んだ少年時代。
 あの時と同じ距離で、シュバルツは説得した。

 それから、この僅かな期間でシルバは修練を積み、シュバルツは儀式の段取りを組んだ。

 ヒースの身体に呪詛が廻る前に、彼は奔走し、その準備が整った。


 「では、シルバ王女様こちらへ」

 「はい」


 村の役所で使用する広い部屋。
 そこを一時的な祭場として陣を展開し、シルバは神聖な衣を身に纏って現れた。


 「儀式は形式的な物ですが、所作などはあまり気にしなくて結構です、
  重要なのは祈りの質、ひいては王女様に宿る魔力をいかにヒースに通すか、
  ただひたすらに願いを、ヒースを想うことだけに集中してください」

 「―――心得ています、絶対に、貴方を救います」

 「シルバ……私は平気ですから、気負わずに無理だけはしないでください」

 「その減らず口が叩けるなら心配は要らんようだな、
  ヒース、お前には少し眠っていて貰う、そのまま横になっていろ」


 比較的顔色が良くなってきたヒースではあったが、依然として力の無い声で応える。
 シュバルツの言葉に口答えすらせず、彼は弱々しく目を閉じた。

 すると、シュバルツは得意とする光魔法を展開してヒースの意識を奪う。


 「いつでもいけます、王女様のタイミングで初めてください」

 「わかりました」


 中央の簡易的な祭壇まで近付くと、シルバは静かに寝息を立てるヒースを流し見る。

 そして、ヒースを支えていたシュバルツはゆっくりと彼を横たわらせ、その場から離れて銀の姫に後を託す。


 「―――っ……」


 陣の内側で術を展開すると、魔力を持っていかれる感覚に陥り一瞬表情が歪むシルバ。

 しかし、元々の高い素質もあり徐々に安定して儀式は行われる。
 付け焼刃ではあるが形に添った舞を奉納し、祈りを捧げる。

 それらを数分程度続けると、ヒースに変化が訪れた。


 「……こ、これはっ……呪詛の進行が、止まっている…!!」


 頬まで達していた呪詛が動きを止め、蠢いていた黒き呪いがはらはらと溶け落ちる。

 それが意味するは儀式が効果的に機能しており、このまま術の展開を維持すればいずれはヒースの呪いも治まる。

 確かに見えた希望。

 シュバルツも、シルバ自身もこの儀式の成功を信じて疑わなかった。
 そう、思った時である。

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