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迷いと、後悔

十話

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 不安も悲壮も和らいで、零した涙を彼は拭う。
 そして、お互いに少しだけ距離を離して目を合わせる。


 「少し、楽になりました、だから貴方はあなたしか出来ない責務を
  全うしてください、それが王女として、剣聖としての責任でしょう」

 「―――うん、分かってる、ごめん…ヒース」

 「いいんです、それに、本当に気分も良くなりました、
  不思議と体調も悪くありません、心配しないでください」

 「本当に……?」

 「ええ、本当です」


 不意に、髪を撫でられ優しく微笑む彼。

 それが嘘などと言えるはずも無く、私はヒースを信じて名残惜しくも席を立つ。
 すると、タイミングを見計らったように部屋へ訪れる足音。

 その騎士は苦笑いでドアを開けると、整然と挨拶をする。


 「失礼致します、シルバ王女様よろしいでしょうか?」

 「シュバルツさん……ジニア村に来ていたのですね、
  お迎えもせず申し訳ありません、今向かいます」

 「いえ、お気になさらず……それに、少々そちらの男にも用があります」

 「ヒースに、ですか……」

 「はい、用が済んだら後ほどお話があります、
  応接室でお待ち頂いてもよろしいでしょうか?」

 「……わかりました」


 銀の王女は二人の関係を思ってその場を外れ、部屋を後にする。

 しばらくして、騎士は一つ溜息をついて重い腰を下ろし、しばしの沈黙を交えた。


 「―――なんだ、用があったんじゃないのか?」

 「……いや、存外にしぶとい男だと呆れていたのだ、
  報告では村の襲撃の際、シルバ王女の一撃を受け止める為に黒鎧布
  を使用して対処したと聞いていたが―――」


 そこまで言って、シュバルツは言葉を詰まらせて呪詛に侵された身体を見る。

 目を疑いながらも、一拍間を置き、途切れた言葉を紡ぐ。


 「なぁ……ヒース、お前、何故“まだ”生きている」

 「………」

 「アリウム騎士団が秘匿していた禁術を、黒き刃に使わせていた噂は聞いている、
  加えて黒鎧布の使用に伴う副作用や術者に対しての呪いも知っていた、
  だからこそ、お前が黒鎧布を連続して使ったという事実が信じられない、
  ……が、その身体の呪詛を見ると、どうやら嘘じゃないらしいな」

 「後悔はしてないさ、俺はシルバを守るために力を使って死を覚悟したからな、
  しかし、剣術大会の時と同様、呪いは緩やかな速度で浸食している、
  あまつさせ、即死してもおかしくない呪詛に耐えきって、だ」

 「―――なぁ、ヒースよ、これは憶測でしかないが、
  しかし現状を打開できる一つの提案だ、聞いてくれないか?」

 「いいだろう、話してみろ」

 「もしかしたら、だが、シルバ王女には―――」


 そして二人は、可能性を模索するため話し合う。
 
 アリウムの未来とシルバの為に。

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