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迷いと、後悔
七話
しおりを挟む「私は……貴方の行いを許す事はできません、
―――ですが、その本意が国の為に尽くしていてくれたことは、
なんとなく……いえ、はっきりと理解できたと断言できます」
「貴様に何が理解できると言うのだッ!!
王と駆けた戦場!!国の繁栄!!それを貴様は理解すら出来ていない!!」
「そう、私は義父が築いてくださったこの国の成り立ちも、
アリウムが持つ名の意味さえ分からぬまま今を過ごしてしまった、
だからこそ、貴方の真意が見えてくるのです」
「……なんだとッ…?」
「思い返せば少し不思議な事もあったんです、フタバ伯爵を極刑に処した出来事、
あれは私に対する策略の一つでもあったのでしょう、ですが、それは彼がこの国を
貶した事実に対する怒りだったのではないのですか?」
ジニア村での穀物輸出不正。
それを隠蔽して利益を得ていたフタバ伯爵はシルバによって帝都に送還され、シバの裁決によって死に至った。
「それだけではありません、私を排斥する動きをみせつつも、
騎士団内での派閥もまとめて武闘派であるゴッツさんまで従えさせました、
……これは、私を追放させる為だけにやった事ですか?違いますよね?」
「すべて、必要な事だった!!それ以外何も―――」
「いえ、嘘です、貴方は私のいないアリウム騎士団のその後、
ひいては王女不在である国内の統治をきちんと考えていたはずです、
そうでなかったら、貴方の義父に対しての気持ちまで嘘になってしまいます……」
「………」
押し黙る彼は、戦意を失くして剣を放す。
乾いた鉄の音が鳴ると、銀の姫は更に一歩近づいて王道を導く。
かつて、黒き影にそうしたように、道を外れた騎士に手を差し伸べる。
「シバさん……本当に、今までご迷惑を掛けました、
未熟な私はそれすら自覚せず、義父の……剣聖の愛に甘えて過ごしてきました、
故にもう迷いません、この剣は民を、国を、そして天下泰平のために捧げます、
ですからどうかッ……!!どうかっ……この場を、収めてはくれませんか」
深く、深く頭を下げて銀の髪を揺らす。
民からの名声を得て、剣聖と謳われる程の腕前を披露しても、彼女には経験と実績が未だ足りない。
これは贖罪と懇願。
今までの己の無知を詫び、そしてこれからのアリウムを変わらず支えてもらいたい。
そんな願いを込めた意図を汲んでかどうか、シバは深く、深く溜息をついて項垂れた。
「―――その銀月は、王女殿に、応えたのだったな……」
「え……」
「それは代々伝わる宝刀、つまり長い歴史であり、血より重い枷だ、
……今一度誓ってくれ王女殿下、その剣で、我々アリウムの民を導くと」
「誓いましょう、銀月とこの名にかけて」
「そうか、それは……上々だ」
満足した顔でシバは苦笑し、騎士団が持つアリウムの褒章を外す。
そして、狼狽する兵達に向け告げた。
「すまなかったな、君達……急いで村の消火活動と怪我人の搬送を頼む、
―――それと、私を拘束し捕らえるんだ、できるな?」
「シバ様……なにを、言って…」
「なに、君達を騙し本物のシルバ王女を襲ったのだ、それだけだ」
「っ……!!そんな、それでは、まさかあの方は……」
「そうだ、君達の視界に映るあの御方こそが、我々の王女、
―――“天下無双の剣聖王姫”シルバ・アリウムその人だ」
最後に公爵は役目を果たし、この歪な価値観の違いに終止符を打った。
ほどなくして火が消えると、村は元の牧歌的な風景に戻る。
被害もあるが致命的なわけでもなく、村の機能を回復させるのに時間は掛からない。
今回の事件の首謀者であるシバ公爵は自ら自首し、シルバ王女暗殺計画の全容を自供して、帝都にて然るべき裁きを受ける事となった。
それが彼の選択であり、国の為を想った最善の行動であるが故に。
こうして、シルバは安寧の日常を取り戻すはずだった。
―――ただ一つ、死の呪いを受けるヒースの身を除いて。
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