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迷いと、後悔
二話
しおりを挟む「ん……なんだ、煙が……?」
徐々に見えてきた景色に映る異変。
林道を抜けた時、遠くから見える大きな煙。
それは何かが燃え、異様な情景を作っていた。
いや、少女にはその景色に見覚えがあり、村が近付くごとに表情は青ざめる。
「あの方向は村からですっ……一体なにがッ!?」
「―――嘘、なんで村が……」
「……シルバ、ジニア村で何かが起こっているのは間違いない、
私が様子を見て来ますのでここで待機を―――」
「ダメッッ!!!!」
その拒絶はあまりに稚拙で、悲痛。
一人残され彼がいなくなる恐怖よりも、危険を冒してでも彼を守りたい。
力の無かった自分に出来なかった後悔を、また犯す訳にはいかないから。
「……村で最悪の事態になっている可能性もあります、
それでも、いいのですか……見たくない物を見る事だって…」
「もう、守られるだけの存在じゃありません、
だからどうか、一緒に……ヒースと共にいさせてください……」
「わかりました……ですが、万が一の場合はシルバの身を優先させます」
静かに頷き、シルバは心にもない約束を交わす。
それは彼女の、身の危険を顧みない決意でもあり、必要とあらば剣を抜く事を意味した。
「戦闘になれば、私は怪我の影響もありお役に立てないかもしれません、
ですが、隠密系の能力には問題無いので、影に潜行して様子を伺いましょう」
「どうか、お気を付けてください……絶対に危険な事はしないでくださいね…」
「―――心得ています」
短く言って影に溶けるヒース。
影に潜んだ彼は、くぐもった声で話しかける。
『シルバ、このまま林道を脇から抜けて迂回して村へ向かいましょう、
そこまでの道は私が案内します、離れずに付いて来てください』
「お願いします、何かあればすぐに教えてください」
木々の合間を縫う様に歩き、気配を殺して村へ近付く。
すると、家屋が焼け落ち火が立ち昇る村が見え始め、シルバの過去が呼び起された。
「―――……」
記憶だけじゃない。
胸に秘めていた恐ろしい感情すら沸き起こり、どす黒いものが這い上がってくる。
『シルバ、大丈夫ですか』
彼女の異変を感じ取り、囁いて声を掛けるヒース。
額には冷や汗、呼吸には若干の乱れ、そして滲み出る殺意。
その姿はあまりにも銀の姫には似つかわしくなく、酷く憔悴していた。
「……だいじょうぶ、わたしは、大丈夫だから」
『―――分かりました、無理だけはせずに』
意識を切り替え、村の様子が分かる場所から動向を伺う。
すると、村周辺を囲んで警戒するアリウム騎士直属の兵士が隊列を成していた。
更に内部では戦闘の形跡もあり、その余波で村は荒れて火が拡がっている。
何故こんな事が起こっているのか。
シルバは現状の理解が出来ずに、ただ目の前の現実を焼き付けるしか出来ない。
「……ぁ…」
そして見てしまった、何の因果か血を流し倒れ伏す村の人を。
「―――ヒース、もう、耐えられません」
『……ですが』
「正面から向かいます、貴方は村人の救出を」
『恐らく、敵はアリウム騎士に与する者……
それもこの規模の兵を動かせるとなると、その人物は限られます、
加えて我々の帰還を狙った様な襲撃、これは間違いなく―――』
「分かっています、それでも、このまま時間を使う訳にはいきません」
『……御心のままに』
十中八九、シバ公爵による罠である事を理解した上で行動する。
人質をとられている可能性もある、不利な取引を持ち掛けられる可能性もある。
それら全てを分かっていても、これ以上罪の無い村人が傷つけられる事を見過ごすなんて出来なかった。
「では、頼みましたよヒース」
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