79 / 102
迷いと、後悔
二話
しおりを挟む「ん……なんだ、煙が……?」
徐々に見えてきた景色に映る異変。
林道を抜けた時、遠くから見える大きな煙。
それは何かが燃え、異様な情景を作っていた。
いや、少女にはその景色に見覚えがあり、村が近付くごとに表情は青ざめる。
「あの方向は村からですっ……一体なにがッ!?」
「―――嘘、なんで村が……」
「……シルバ、ジニア村で何かが起こっているのは間違いない、
私が様子を見て来ますのでここで待機を―――」
「ダメッッ!!!!」
その拒絶はあまりに稚拙で、悲痛。
一人残され彼がいなくなる恐怖よりも、危険を冒してでも彼を守りたい。
力の無かった自分に出来なかった後悔を、また犯す訳にはいかないから。
「……村で最悪の事態になっている可能性もあります、
それでも、いいのですか……見たくない物を見る事だって…」
「もう、守られるだけの存在じゃありません、
だからどうか、一緒に……ヒースと共にいさせてください……」
「わかりました……ですが、万が一の場合はシルバの身を優先させます」
静かに頷き、シルバは心にもない約束を交わす。
それは彼女の、身の危険を顧みない決意でもあり、必要とあらば剣を抜く事を意味した。
「戦闘になれば、私は怪我の影響もありお役に立てないかもしれません、
ですが、隠密系の能力には問題無いので、影に潜行して様子を伺いましょう」
「どうか、お気を付けてください……絶対に危険な事はしないでくださいね…」
「―――心得ています」
短く言って影に溶けるヒース。
影に潜んだ彼は、くぐもった声で話しかける。
『シルバ、このまま林道を脇から抜けて迂回して村へ向かいましょう、
そこまでの道は私が案内します、離れずに付いて来てください』
「お願いします、何かあればすぐに教えてください」
木々の合間を縫う様に歩き、気配を殺して村へ近付く。
すると、家屋が焼け落ち火が立ち昇る村が見え始め、シルバの過去が呼び起された。
「―――……」
記憶だけじゃない。
胸に秘めていた恐ろしい感情すら沸き起こり、どす黒いものが這い上がってくる。
『シルバ、大丈夫ですか』
彼女の異変を感じ取り、囁いて声を掛けるヒース。
額には冷や汗、呼吸には若干の乱れ、そして滲み出る殺意。
その姿はあまりにも銀の姫には似つかわしくなく、酷く憔悴していた。
「……だいじょうぶ、わたしは、大丈夫だから」
『―――分かりました、無理だけはせずに』
意識を切り替え、村の様子が分かる場所から動向を伺う。
すると、村周辺を囲んで警戒するアリウム騎士直属の兵士が隊列を成していた。
更に内部では戦闘の形跡もあり、その余波で村は荒れて火が拡がっている。
何故こんな事が起こっているのか。
シルバは現状の理解が出来ずに、ただ目の前の現実を焼き付けるしか出来ない。
「……ぁ…」
そして見てしまった、何の因果か血を流し倒れ伏す村の人を。
「―――ヒース、もう、耐えられません」
『……ですが』
「正面から向かいます、貴方は村人の救出を」
『恐らく、敵はアリウム騎士に与する者……
それもこの規模の兵を動かせるとなると、その人物は限られます、
加えて我々の帰還を狙った様な襲撃、これは間違いなく―――』
「分かっています、それでも、このまま時間を使う訳にはいきません」
『……御心のままに』
十中八九、シバ公爵による罠である事を理解した上で行動する。
人質をとられている可能性もある、不利な取引を持ち掛けられる可能性もある。
それら全てを分かっていても、これ以上罪の無い村人が傷つけられる事を見過ごすなんて出来なかった。
「では、頼みましたよヒース」
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【短編】追放した仲間が行方不明!?
mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。
※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる