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束の間の安息と追憶
八話
しおりを挟む先ほどまで囚われていた馬車に戻ると、離れていた野盗が仲間を引き連れている。
彼らは捕らえていた子供を引きずり、刃物で切り付け一人一人殺していた。
「ふざけやがってッ!!なんだって別動隊の奴らが全滅してんだ!!
おまけに銀髪のガキが見当たらねぇ!!アイツに子守を任せたのが失敗だった!!」
「だからって攫ったガキ共を全員殺す必要あるか?流石にやりすぎじゃねえか?」
「馬鹿野郎ッ!!作戦は失敗して騎士団がもうそこまで来てんだよ!!
このままガキを乗せて逃げられねぇ!!だからって生かしておけば俺達の痕跡も
残るだろうがッ!!そんな事までわかんねぇのか!!」
「す、すまねぇ……」
なんとも身勝手な理由で殺戮を続ける彼らを、少女は虚ろな眼で捉えて堂々と姿を現す。
「―――なにを、しているのですか」
「あん?って……このガキっ…!?」
「コイツ、目的の銀髪の子供じゃないすか?」
「ッハ!!てっきりあの頭のイカれた野郎に玩具にされたと思っていたが、
これは丁度いい、おいお前ら!!さっさとそいつを捕まえて運び込め!!」
彼女が手に持つ大剣には目もくれず、野盗たちは武器を取り出し一斉に囲む。
が、何の脅威にもならぬその包囲を流し見て、構えすら取らずに少女は刃を振り切る。
―――鉄が風を穿つ。
透き通る残響が響き渡ると同時に、屍が積もった。
「え……な、なん……だ」
あまりにも神速、かつ刹那。
美しくも思えるその剣戟に野党の頭領は恐怖を忘れ、ただ、見惚れていた。
―――自身が死ぬと気付く直前まで。
「ぇ……え?」
「はあッ!!!」
首が飛び、血が噴き出す。
この惨劇を作り出した少女の顔は、僅かに笑みを浮かべて模られた。
「………殺さなきゃ」
正義を免罪符に、次の得物を求めて彷徨い歩く。
焼けた街を、鎖を引きずりただ歩いて。
熱さと、心苦しさと、罪悪感。
のしかかる負の感情と感覚に、死への渇望すら沸き立つ。
「あぁ……」
何人斬り殺したのか、何の為に殺したのか。
もはやそれすら定かでは無く、既に使えなくなった刃の欠けた大剣を放り投げ、火の海となった街に足を踏み入れて死に場所を求めた。
だが、ふと―――。
ここまで混濁した記憶のなかで、少女は自身の行動を疑問に思ってしまったのだ。
「……どうやって」
何で殺し、誰が殺したのか。
思い出せるが、実感は無い。
故に自問する、この事実が真実であるのか。
ありもしない希望に絶望し、焦点の合わない視線で突き刺さった剣を握る。
「―――あなたも、殺します」
場違いな程凛々しく、颯爽と現れたる剣聖。
彼は一呼吸、僅かに身構え剣を抜く。
「……なるほど、報告に上がっていた野盗を斬ったのは君か、
ならば俺が、責任を取ってこの場を収めよう、それが王の責任だ」
「あなたは、誰ですか」
「なに、偶然通りかかっただけの王様だ、
領民から助けを求める声があれば、それを果たすのが我が務め」
剣聖に呼応するが如く、後方から続く騎士たちが並んで隊列を成す。
「我が王よ、ここは我らに任せ御下がりください」
「愚か者が、目の前の子をしかと見よ、
あれの相手がお前らに務まると思うのか?」
「―――なにを」
「いいから下がれ、市民の救出と野盗の残党殲滅を優先しろ」
「……ッハ!!」
優しげに、だが構えた剣の圧だけは変わらない剣聖は徐々に距離を詰めて語る。
「今日はね、遠征から帰還する途中だったのだよ、
街道を駆けていると、大きく燃えている街が見えて急いで救援に向かった、
その際、一人の女性が助けを求めてきてね、私は……それに応えねばならない」
「その、人は……」
「彼女の言っていた通り、なるほど……確かに美しい銀の髪だ、
娘と慕う彼女の気持ちは、私が守り通そう」
「は、義母は……おかあ、さん、は……」
「―――すまない」
心から、申し訳なく首を横に振る王。
それを意味する事を察してしまい、抑えていた感情を爆発させてこの激戦が開かれた。
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