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束の間の安息と追憶
五話
しおりを挟む下劣で、野蛮で、なんと愚かである事か。
彼らは民家に押し入り、住人を殺して盗みを働いていたのだ、到底許せる訳など無い。
けど、何より許せないのは恐怖で動けなくなっている自分自身。
悪いと思っているのなら、いますぐ彼らを止めなければいけない。
だが、複数人の大人を止める事など出来ず、ましてや逃げるなんてことも出来ない。
少女は見てしまったのだ、部屋の中で行われていた凄惨な死体の赤色を。
視界に映ったそれをみてから、足はすくみ、手は震え、声は上ずってうまく喋れない。
なんと情けないと、そう自己嫌悪に陥っては恐怖に駆られていた。
「こいつが言っていた銀色の嬢ちゃんか、確かに小奇麗だが金になんのか?」
「噂を聞きつけた変態の貴族が高値で買うって言っている、
さっさと周「辺の民家襲って奪うもん奪ったら、奴隷用のガキとそいつ
詰め込んでずらかるぞ、お前も殺しまくっている場合じゃねぇよ」
「俺は死んでる女じゃなきゃ興奮しねぇんだよ……へへっ…」
鎖を持って近付く血まみれの殺人者。
あまりに歪んだ狂気を見せつけられ、少女は声が漏れる。
「っひ……い、や……」
「ほぉ……いいね、少しいたぶるか」
「おいやめろ、そいつは傷付けずに引き渡す約束になっている、
やるなら後で適当なガキ攫ってそいつでやれ、手出したらぶっ殺すぞ」
「わかってる、冗談だっての……へへっ…」
何もできず、ただ、されるがまま手足に鎖を付けられ身動きが取れない。
物の様に担がれ荷馬車に積まれると、同じように捕まった子供たちが数名うずくまって横になっていた。
暴力を振るわれ、殴られた跡や魔法を行使された痕跡があり気を失っている。
そして、動き出した馬車から僅かに見えた景色を覗くと、生まれ育った町に火が放たれ燃えていた。
平穏で、何もない田舎町であった少女の故郷は地獄と化して焼け落ちる。
略奪と殺戮が平然と行われ、民家や建物は一変して戦火となって少女の目の前で姿を変えてゆく。
―――どうして、こうなってしまったのだろうか。
「わ、わたしの……せい、で……」
考えられる原因はそれしかない。
野盗たちは貴族に雇われ少女を攫いにここに来た。
そのついでか、はたまた証拠を町ごと消す為か。
住人を襲い、盗みを働き、火を放って生まれ故郷を混沌と変えたのだ。
いずれにせよ、発端は自分にあると悟った少女はただ涙を流して懺悔するしかない。
この祈りが、決して届かず無為であると知っていても。
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