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束の間の安息と追憶
三話
しおりを挟むそれは、雪の良く降る冷えた夜。
街の教会にある女神像、そこへ長い時間祈りを捧げていた少女は、冷え切った手で真摯な願いを唱えていた。
「どうか、女神さまのご加護を」
幼少の頃より崇拝しているこの女神は、剣を司る守りの女神。
神話の時代、あらゆる災いから人を守護する伝説を持つ。
少女は、この伝説が大好きで何度もおとぎ話を読み直した。
決して人を傷つける事はせず、正しき道を導いて平和を謳うその姿が印象的で、幼き少女の夢を形成するには充分すぎる伽話であった。
「―――こんなとこにいた、冷えるから今日はもう戻りなさい」
「……義母さん、そうだね……」
「さ、戻りましょ、皆お腹すかして待ってるわよ」
さっきまで冷たかった手は、彼女の温かい手で握られ暖かさを持つ。
それは不安な心を拭い、少女は安堵して自然と口角があがる。
「あぁ、雪が……降っていたのですね」
「そうよ、まったく寒いったらありゃしないわよ」
「ふふっ、けど雪が綺麗ですよ?」
「そうねー……確かに幻想的で綺麗よねぇ、
貴方の髪色にもぴったり合うし、これはこれで良いわね」
変わらず美しい銀の髪は、ひらひらと舞い落ちる雪と見事な色彩で重なる。
真白が白銀となり、きらきらと髪をたなびかせて凍てつく風が弱く吹き込む。
誰もが息を呑む少女の姿に、世界が一瞬止まったかのような錯覚をした。
「私の髪は、そんなに綺麗なのでしょうか……」
ふと、紡いだ言葉は率直な疑問。
それを困った顔で、育ての母は言葉を返す。
「私は貴方の髪とっても大好きで、それにずっと見ていたくなるわ」
「……わたしを引き取ってくれると言う方々も、同じなのでしょうか…」
「うーん、どうだろうねぇ……物珍しいから、綺麗だから、
そんな、極々ありふれた理由の人も中にはいたはずよ」
「……そう、ですか」
自身の評価はこの髪を始めとした、別の物にあるのではないか。
そんな疑念を抱いてしまい、少女は孤児院に帰ることを後ろめたく感じ、いつもより長い時間祈りを捧げていた。
「貴方はいつも物事を深く考え過ぎなの、
養子を断っている事に罪悪感を覚えているのでしょう?」
「そんな事は……ない、とは言い切れませんが、
わたしは、少し自惚れているのではないのか、そう思ってしまう時はあります」
「それこそ考えるだけ無駄無駄っ!!
最初の話を断って以降、養子の話を持ち掛けてくる連中は
胡散臭い奴ばっかりだから、気にするだけ損よっ!」
元気付ける為に撫でてくれた彼女の手は、いつもの様に優しく温かい。
悩みは尽きないが、さっきまでの憂鬱とした気分は晴れてお腹が空く。
「さ、帰りましょう、家に」
「―――っはい!!」
手を繋ぎ、歩みを進める。
これからもずっと、こんな歩幅で歩いてゆけると、少女は信じていた。
―――だが、終わりは突然と訪れる。
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