67 / 102
シルバ・アリウム、剣聖と成る
そして剣聖へ
しおりを挟む『もはや言葉は要りません、両者、存分に武を奮ってください』
告げられた開始宣言、僅かに聴こえた呼吸音。
熟達の老騎士が握る大槍がゆっくりと矛先をこちらへ向け、息を吸い込んで距離が縮まり始める。
じりじりと詰まる間合いは、彼にとって最良となる槍特有の間合いになってゆく。
それでいい。
全てを乗り越えた先にのみ、剣聖と謳われる道があるのだから。
「―――往きますぞぉぉぉお!!!!」
歳を感じさせない勢いと疾さ、大柄な体格を思わせない軽さで攻めるゴッツは鬼神の如き気迫であった。
「……」
集中を切らさず全神経を銀月に注ぐ。
世界が急激にスローモーションに映り、槍の軌道ですら遅く感じる。
―――私の戦いは、己自身にあり。
剣と、魔力と、身体を同調させるイメージを保ち、眼前の武を打ち払う。
「……っ」
流れる血液が熱くなる感覚を押し殺し、感情は冷静に冷たく澄んでゆく。
もはや振りかざされる槍は壁にもならず、僅かな回避行動で悉くをいなす。
「おおっ……!!おおぉぉッ……!!
その輝きはっ……!!月の灯が如き輝きはっ……!!!」
老騎士は手を緩めることなく猛攻を仕掛ける。
が、大槍は一切当たる気配が無く躱され、シルバの持つ銀月に輝きが灯ると老騎士は間合いを仕切り、震撼した。
「銀月、貴方の銘をお借りします」
刀身に浮かぶ波紋が光輝き、それは幻想的な灯を迸らせ剣筋に沿って写る。
歴代の宝刀使用者とは異なる色で、その銀月は王姫の力に応じた。
暗銀の月光、纏うは星明り。
彼女は、剣聖として真に覚醒したのだ。
「―――これこそッ!!かつて仰ぎ見た王の光ぞッ!!!
おおぉ……!!儂はなんたる愚かであったかッ!!
かの剣聖が見込んだ姫を疑うとは、一生の不覚であったわッ!!」
歓喜と、後悔と、そして武者震い。
憧れて、目指した武の頂きは先に逝った。
だが、彼の残した娘は後を継ぐように剣聖として君臨している。
老騎士は、悦びに震える手で構え直し、全力でシルバを迎え撃つ。
「殿下ッ!!我が“豪槍烈覇”を以て、貴方様の全力を受け止めようぞッ!!」
「―――参ります」
ゴッツは全身の力を溜め、大きく跳躍して上空へ舞った。
前大会でダガーンとの激戦を制した際、この技によって勝敗を決した必殺の一撃。
―――ドガァァァァン!!!!!!!
それは魔力を込めた大槍の投擲。
爆撃と化した槍はゴッツによって打ち出され、全てを破壊する威力を誇って迫る。
「さあッ!!誇示して下され、その月光をッ!!」
流星めいた軌道で急降下する大槍が、シルバに向かって飛んで行く。
だが、焦るどころか涼しい顔で彼女は剣を振り上げ、その銀の魔力を解放する。
「アリウムの名のもとに、月明かりを」
眩い威光は、月光となって闘技場を包む。
宝剣から放たれる魔力の渦は、投擲された大槍を撃ち落として空を穿った。
神話の再臨、それを皆は目の当たりとする。
もはや斬撃は剣にあらず、空気を、雲を、星を断ち切って宙に消え入った。
儚い銀の残滓が漂い、きらきらと星の粒子が目に映って闘技場を彩る。
銀の一閃は全てを覆す程の威力を以てこの大会に終止符を打ち、シルバ・アリウムの大会優勝という結果を残して大きな幕を閉じたのであった―――。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
世界最強の剣聖~追放された俺は、幼馴染みと共に英雄になる~
ユズキ
ファンタジー
有名パーティー【光輝ある剣】の雑用担当であるシスンは、自分の真の実力を知らないリーダーたちによって不遇な扱いを受けていた。
そんな折、リーダーに呼び出されたシスンは、貢献度不足という名目でパーティーからの追放を宣告される。
生活に困って祖父の住む故郷に帰ってきたが、そこは野盗に襲われていた。
野盗を撃退するため、幼馴染みの美少女アーシェと共に、シスンは本来の実力を発揮する。それは元剣聖の祖父から鍛えられた超絶剣技だった。
シスンは真の実力を遺憾なく発揮して、野盗の撃退に成功する。
これはシスンがアーシェと共に旅立ち、英雄の階段を駆け上がる物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??
シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。
何とかお姉様を救わなくては!
日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする!
小説家になろうで日間総合1位を取れました~
転載防止のためにこちらでも投稿します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔力ゼロの忌み子に転生してしまった最強の元剣聖は実家を追放されたのち、魔法の杖を「改造」して成り上がります
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
小説家になろうでジャンル別日間ランキング入り!
世界最強の剣聖――エルフォ・エルドエルは戦場で死に、なんと赤子に転生してしまう。
美少女のように見える少年――アル・バーナモントに転生した彼の身体には、一切の魔力が宿っていなかった。
忌み子として家族からも見捨てられ、地元の有力貴族へ売られるアル。
そこでひどい仕打ちを受けることになる。
しかし自力で貴族の屋敷を脱出し、なんとか森へ逃れることに成功する。
魔力ゼロのアルであったが、剣聖として磨いた剣の腕だけは、転生しても健在であった。
彼はその剣の技術を駆使して、ゴブリンや盗賊を次々にやっつけ、とある村を救うことになる。
感謝されたアルは、ミュレットという少女とその母ミレーユと共に、新たな生活を手に入れる。
深く愛され、本当の家族を知ることになるのだ。
一方で、アルを追いだした実家の面々は、だんだんと歯車が狂い始める。
さらに、アルを捕えていた貴族、カイベルヘルト家も例外ではなかった。
彼らはどん底へと沈んでいく……。
フルタイトル《文字数の関係でアルファポリスでは略してます》
魔力ゼロの忌み子に転生してしまった最強の元剣聖は実家を追放されたのち、魔法の杖を「改造」して成り上がります~父が老弱して家が潰れそうなので戻ってこいと言われてももう遅い~新しい家族と幸せに暮らしてます
こちらの作品は「小説家になろう」にて先行して公開された内容を転載したものです。
こちらの作品は「小説家になろう」さま「カクヨム」さま「アルファポリス」さまに同時掲載させていただいております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【短編】追放した仲間が行方不明!?
mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。
※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる