上 下
61 / 102
シルバ・アリウム、剣聖と成る

五十三話

しおりを挟む

 この戦いにおいて要であった魔法だが、シルバは魔法が得意ではなかった。
 それは魔法の適正が低く、才能が無いなどではなく、むしろ並みの魔術師以上の才を備えていた。

 だが、神域の剣技を兼ね備えたシルバにとって魔法は寄り道でしかなく、義父であったアリウム国王もそれを察して剣の修行を徹底した。

 それ故に、この戦いの決着も魔法を使わず、驚くほどあっけない終わり方を迎える。


 ヅガァンッ!!!


 剣戟が振りかざされ、その軌道は地を抉って崩壊する。
 そして、それに巻き込まれたレッドは必死の防御も虚しく、大剣を叩き割られながらもなんとか致命傷を逃れた。

 が、同時に勝負は付く。

 素手となったレッドは、最後の手段とばかりに紫電を行使する。
 しかし、シルバの情け容赦の無い蹴りがレッドに響き、この戦いに終止符を告げた。


 ドガッ……!!


 「かはっ……」


 ボロ雑巾のように転がるレッドは、地面に叩きつけられてそこで動かなくなる。
 会場もまさかの展開に息を呑み、その宣言を聞き入れた。


 『―――き、決まったぁぁぁ!!!!
  奇しくも王子対王女のとんでも試合になりましたが、
  我らのシルバ王女様が、紫電の英雄と呼ばれるレッド王子を降して勝利ッッ!!』


 惜しみない賞賛、向けられる羨望の眼差し。

 ここに、シルバ・アリウムの人物像を確立させるほどの勝利を掴み取った。


 (……まさか、隣国の王子が飛び込みで参加していたなんて予想出来ませんでしたが、
  結果的には名声を上げるのに役立ちましたね……、まぁ、今後の外交でどう影響するか
  少し不安ではありますが、悪い方向には進まないと願いたいです)


 少しだけ疲労感を覚え、一呼吸して息をつく。
 そして、私に向けられる声援の数々に出来るだけ応え、王女としての振る舞いで民衆に手を振り、笑顔で返す。

 ここまでが想定内。

 相手が誰であれ、危なげなく勝利し見てくださった民の期待に応えるまでが。


 「―――待て」


 しかし、ここからが想定外。


 私を呼び止めるその声は、勢い余って蹴り飛ばしてしまった第二王子であった。
 彼はよろめきながらも片膝をつき、私を真っ直ぐな目で見つめる。


 「レッド様……お気付きになられましたか……、
  先ほどはすみません、如何に試合とはいえ王子を足蹴にして勝利を収めるなど、
  大変失礼極まりない戦い方でした、ここに、非礼をお詫び致します」

 「……いい、そういうのはやめろ、お互い全力で臨んだ結果がこれだ、
  それを否定する発言はシルバ王女でも許さん、そうだろ?」

 「ふふっ……そう言って頂けると助かります、
  さぁ、立てますか?肩ぐらいであれば貸せますので」


 自然と、手を伸ばして彼に手を貸す。

 それが間違いだったか正しいかは分からない。
 少なくとも、事態が急変するこの一瞬までは、人として間違っていたつもりは無かった。


 差し伸べた手は、力強くも優しく握られ、レッドはそのまま私に―――跪いた。


 「―――ここに、誓わせてくれ、シルバ……いや、シルバ・アリウム王女殿下」


 …………………………は?


 「俺は……いや、バーベナ国第二王子、レッド・バーベナは貴方様に惚れたッッッ!!
  この身に誓って約束する!!俺はシルバ王女を幸せにするッ!!だからっ……!!」


 …………………………いや、待って、待って欲しい、それ以上は、マズい。


 「俺とッ……結婚してくれッッ!!」


 正体不明の仮面の剣士は、予想していた事態の斜め上どころか、急転直下の勢いで場を混乱に陥れ、私の頭を痛くして爽やかに婚約を申し込んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王都交通整理隊第19班~王城前の激混み大通りは、平民ばかりの“落ちこぼれ”第19班に任せろ!~

柳生潤兵衛
ファンタジー
ボウイング王国の王都エ―バスには、都内を守護する騎士の他に多くの衛視隊がいる。 騎士を含む彼らは、貴族平民問わず魔力の保有者の中から選抜され、その能力によって各隊に配属されていた。 王都交通整理隊は、都内の大通りの馬車や荷台の往来を担っているが、衛視の中では最下層の職種とされている。 その中でも最も立場が弱いのが、平民班長のマーティンが率いる第19班。班員も全員平民で個性もそれぞれ。 大きな待遇差もある。 ある日、そんな王都交通整理隊第19班に、国王主催の夜会の交通整理という大きな仕事が舞い込む。

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

処理中です...