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シルバ・アリウム、剣聖と成る
四十八話
しおりを挟む激戦の果てに勝者が出なかったBブロック準決勝は、その戦いで会場の防御結界を軋ませ、一旦の点検を挟んだ。
その際、意識の無いヒースとシュバルツは緊急搬送され治療を受け、彼らの様子を伺いにシルバは足を運んでいた。
「………」
二人のわだかまりは、きっと解決できた。
けど、まさか、こんな規模の戦闘を行うとは、予想出来なかったのだ。
―――私が、王女として、人として、彼らに無理を言ったから、かな。
剣術大会の舞台を利用して、剣を交えれば彼らの関係は改善すると考えていた。
予想は間違いではなかった、ただ、ここまで身命を賭して戦うなんて思わず、自分の浅はかな行動に後悔している。
「黒布の呪詛……これは、私の知り得る知識ではどうにもできません……
ヒース……そこまで……本気だったのですね……ほんと、に……」
命を削ってでも、私に見せてくれたその信念。
あれは、あまりにも真っ直ぐで、あまりにも眩しかった。
ヒースは自身の身に起きている災厄を知っているはずなのに、穏やかな寝息を立てて寝ている、私はつい、そんな彼の前髪に触れて顔を見る。
「いくら剣が振れると言っても、呪いに疎ければ何の役にも立ちませんね……
無能な主をお許しください、ヒース……」
黒鎧布が覆っていた身体の一部が、痛々しく黒く焼けている。
いかなる治癒魔法を使っても、それが癒されることは無く、ゆっくりと身体を蝕み、命を奪おうと浸食する。
だが、世界でも有数の限られた聖女であれば、この呪いも解けるかもしれない。
治癒術師はそう言って、諦めるように手を止めて私に説明した。
それが事実でも、彼の未来を閉ざす訳にはいかない、絶対に彼を見放したりするものか。
強く手を握って、彼の今後を案じるともう一つのベッドから物音が立つ。
「―――シルバ、王女様……大会はどうなりましたか……」
「シュバルツさん……」
酷い怪我と魔力の枯渇で意識を失っていた白騎士は、咳き込みながら身を起こして状況を聞く。
「……大会の方はお二人の引き分けで決着が着き、
現在は会場の防御結界を確認するため休止しております、
それより、お身体の方は大丈夫ですか?」
「ええ……、ヒースに比べれば私の方はなんとか……
一週間ほど安静にしていれば、生活に支障ない程には回復するはずです」
「そう、ですか……良かったです」
死神としてのヒースを知る彼は、戦いの中でもヒースの容態に気付いていたはず。
シュバルツも大怪我を負っているのに、自身よりも彼を心配するあたり黒鎧布による影響を知っているからだろう。
「ヒースの身体について、また日を改めて訊かせてもらってもいいですか?
今は体調を優先して、ご自身の快復に務めてください」
「ご配慮……痛み入ります……」
「それまで……私は目の前の事を全力で励みます、
シュバルツさんも、ヒースとの戦いお疲れ様でした……
今はゆっくりと、お休みください」
静かに、席を立ってこの場から去ろうとした時、駆け足でこちらに近付く足音。
パタパタとした軽い音は、だが慌てた姿で彼女が現れる。
「―――あら、ネネさん、シュバルツさんをお願い致しますね」
「はぁっ……はぁっ……!!し、シルバ王女様っ!?
これは、みっともない姿をお見せして大変失礼致しましたッ……!?」
「畏まらないでください、どうか、シュバルツさんを診てあげてください、
彼には、婚約者としての貴方が必要です、傍にいてください」
「は、はいっ……!!」
さて、これからだ。
わたしは、ただやるべき事をやるだけ、そのために剣を取り、剣術大会を優勝してこれからの基盤を作る。
それこそが、剣聖の、王女の、ヒースの主としての務めだから。
「―――やるかっ……!」
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