天下無双の剣聖王姫 ~辺境の村に追放された王女は剣聖と成る~

作間 直矢 

文字の大きさ
上 下
56 / 102
シルバ・アリウム、剣聖と成る

四十八話

しおりを挟む

 激戦の果てに勝者が出なかったBブロック準決勝は、その戦いで会場の防御結界を軋ませ、一旦の点検を挟んだ。
 
 その際、意識の無いヒースとシュバルツは緊急搬送され治療を受け、彼らの様子を伺いにシルバは足を運んでいた。


 「………」


 二人のわだかまりは、きっと解決できた。
 けど、まさか、こんな規模の戦闘を行うとは、予想出来なかったのだ。

 ―――私が、王女として、人として、彼らに無理を言ったから、かな。

 剣術大会の舞台を利用して、剣を交えれば彼らの関係は改善すると考えていた。
 予想は間違いではなかった、ただ、ここまで身命を賭して戦うなんて思わず、自分の浅はかな行動に後悔している。


 「黒布の呪詛……これは、私の知り得る知識ではどうにもできません……
  ヒース……そこまで……本気だったのですね……ほんと、に……」


 命を削ってでも、私に見せてくれたその信念。
 あれは、あまりにも真っ直ぐで、あまりにも眩しかった。
 
 ヒースは自身の身に起きている災厄を知っているはずなのに、穏やかな寝息を立てて寝ている、私はつい、そんな彼の前髪に触れて顔を見る。


 「いくら剣が振れると言っても、呪いに疎ければ何の役にも立ちませんね……
  無能な主をお許しください、ヒース……」


 黒鎧布が覆っていた身体の一部が、痛々しく黒く焼けている。
 いかなる治癒魔法を使っても、それが癒されることは無く、ゆっくりと身体を蝕み、命を奪おうと浸食する。

 だが、世界でも有数の限られた聖女であれば、この呪いも解けるかもしれない。

 治癒術師はそう言って、諦めるように手を止めて私に説明した。
 それが事実でも、彼の未来を閉ざす訳にはいかない、絶対に彼を見放したりするものか。

 強く手を握って、彼の今後を案じるともう一つのベッドから物音が立つ。


 「―――シルバ、王女様……大会はどうなりましたか……」

 「シュバルツさん……」


 酷い怪我と魔力の枯渇で意識を失っていた白騎士は、咳き込みながら身を起こして状況を聞く。


 「……大会の方はお二人の引き分けで決着が着き、
  現在は会場の防御結界を確認するため休止しております、
  それより、お身体の方は大丈夫ですか?」

 「ええ……、ヒースに比べれば私の方はなんとか……
  一週間ほど安静にしていれば、生活に支障ない程には回復するはずです」

 「そう、ですか……良かったです」


 死神としてのヒースを知る彼は、戦いの中でもヒースの容態に気付いていたはず。
 シュバルツも大怪我を負っているのに、自身よりも彼を心配するあたり黒鎧布による影響を知っているからだろう。


 「ヒースの身体について、また日を改めて訊かせてもらってもいいですか?
  今は体調を優先して、ご自身の快復に務めてください」

 「ご配慮……痛み入ります……」

 「それまで……私は目の前の事を全力で励みます、
  シュバルツさんも、ヒースとの戦いお疲れ様でした……
  今はゆっくりと、お休みください」


 静かに、席を立ってこの場から去ろうとした時、駆け足でこちらに近付く足音。
 パタパタとした軽い音は、だが慌てた姿で彼女が現れる。


 「―――あら、ネネさん、シュバルツさんをお願い致しますね」

 「はぁっ……はぁっ……!!し、シルバ王女様っ!?
  これは、みっともない姿をお見せして大変失礼致しましたッ……!?」

 「畏まらないでください、どうか、シュバルツさんを診てあげてください、
  彼には、婚約者としての貴方が必要です、傍にいてください」

 「は、はいっ……!!」


 さて、これからだ。

 わたしは、ただやるべき事をやるだけ、そのために剣を取り、剣術大会を優勝してこれからの基盤を作る。
 
 それこそが、剣聖の、王女の、ヒースの主としての務めだから。


 「―――やるかっ……!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...