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シルバ・アリウム、剣聖と成る

四十三話

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 控室に戻ると、早足で駆け寄るヒースが慌てて近づいて来る。


 「―――シルバッ!?」

 「あ、ヒース、どうでした?私の初戦は―――」


 剣聖に恥じぬ戦いでありましたか。

 そう、質問する前に心配性な彼は私の肩を掴んだ。


 「なんて戦い方をしたんだッッ!?怪我は無いかッ!?気分は?どこか痛む箇所は!?」

 「……もーーー!!開口一番それですかヒースはっ!?
  もっと掛けるべき言葉があるでしょうっ?どれだけ心配性なんですかっ!!
  この通り私は無傷ですッ!!どこにも異常はありませんっ!!」

 「そうか……なら、良かった……だが本当に心配しましたよ、
  もし、御身に何かあれば私はあの戦いに飛び出ていました」


 胸を撫で下ろして安堵するヒースは、掴んでいた肩を優しく離して頭を軽く撫でた。

 ―――恐らく、彼自身も意識せずに行ったその行為は、妹であるシルヴィアにしていた自然なもの。

 心配だから怒るし、本気で叱ってくれる。
 けど、それ以上に優しくて妹に甘い、それがヒース・ライトと呼ばれるお兄ちゃん。


 彼のあまりにも取り乱すさまを見ていたシュバルツは、頭を痛くして語り掛ける。


 「―――おい、過保護なのは構わないが今は控えろ、これから王女様の忙しくなる
  時間だ、お前は自分の役割をこなすことに専念しろ」

 「シュバルツ……わかっている」

 「では、王女様……貴方の所在が知られた事で、大会を観覧しにきた騎士団の者、
  有力な貴族や権力者達がシルバ王女との謁見を望んでおられます、
  ここはどうか、彼らの為にお時間を割いて頂きたい」

 「無論です、そのために初戦で目立つ演出をしてまで勝ったのですから、
  ―――ヒース、少し外しますので、貴方も必ず勝ち進んでくださいね」

 「御意……、シュバルツ……シルバを、シルバ王女を頼んだぞ」


 最後まで不安げな顔をして、かつての死神は自らの主君を白き騎士に任せた。
 そして、ヒースは今大会の為に新しく調整した装備を整え、次なる試合に向けて準備を始める。


 「主に仕える身として……これ以上の誉は無いな…」


 今までの暗殺、隠密、諜報活動を目的とした装備ではなく、護衛を目的とした武器と武具。
 
 それらは薄暗い黒に染まってはいるが、今までの不気味な色合いから一新し、部分的に散りばめられた銀の意匠がシルバへの忠誠を示していた。


 『皆様っ!!お待たせ致しましたっ!!初戦から大規模な戦闘により闘技場の一部が
  破損しましたが……ご安心くださいっ!!一流の魔術師たちによる設備の補修を
  行いましたので、このまま大会は続行されますっ!!』


 実況が進行を続け、Bブロック初戦となる試合が始まる。


 『それではっ……バンバン試合を続けてまいりますッ!!
  第二試合となります、Bブロック……その先兵たるは、疾風のホックッ!!』


 突如、闘技場中央に降り立つは疾風。

 その異名を欲しいがままにする彼は、誰も追う事が叶わない疾風の使い手として、帝都で名を馳せている剣士であった。
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