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シルバ・アリウム、剣聖と成る
三十七話
しおりを挟む一夜過ぎて快晴の今日、青々とした空がとても眩しく気分が良い。
腕を高く伸ばして身体をほぐすと、古より建てられた闘技場が視界に映る。
「んーーーっ……いい天気だな」
今日が剣術大会だと忘れてしまうぐらい、のんびりとした時間を過ごして闘技場周辺の賑わいを視察する。
変わらず姿見の魔法は完璧なようで、人が多くいても私の存在は気付かれずにいた。
が、ヒースが施してくれたこの魔法には少し問題があったようで、どうにも男性を惹き付けてしまう外見らしい。
「そこのお嬢さ~ん、君可愛いねーっ!!ちょっと一緒にこない?奢るからさ?」
辺りを散策している途中に何度も男性に声を掛けられ、その度にのらりくらりと躱してきたが、流石に限界のようだった。
道を塞がれる形で男三人に囲まれると、ほぼ強引に手を掴まれた。
「………えっと、すみません、ちょっと急いでましてー……」
「えぇっ!?それって冷たくなーい?いいの?俺達怒らせたら怖いよ~?」
どうにもお話が通じなく、どうしたものかと困っていると、
彼は―――現れた。
「――――おい、貴様ら………何を、している………?」
死神、いや鬼神、魔王。
どれをとっても遜色ない二つ名が似合う形相で近付くヒースは、誰にでもわかるぐらい怒っていた。
「っヒ……」
「さっさと消えろ、下種共が」
原初的恐怖を刻まれ、若い男三人は駆け足で消え去る。
掴まれていた手は投げる様に離され、ヒースは私を守りながら傍に付く。
「……ヒースさーん?助けて頂いた事は感謝しますが、
精神に感応して、恐怖を煽るような魔法を使いましたね?」
「ああいった手合いには丁度よい精神干渉魔法です、
万が一を考えたら、これぐらいでも生ぬるいですよ、まったく……」
「彼らは少しはしゃいでいただけかもしれませんし、
もうちょっと優しく追い払っても良い気がしますが……ダメですか?」
「はぁ……貴方と言う人は本当にお優しい、……次があれば考えますが、
二度目が無い様に今後は振る舞ってください」
いつもの調子で叱られて、買ってきてくれた飲み物を受け取る。
ひんやりとした、爽やかな口当たりのラムネが甘く、つい口元がにんまりとしてしまう。
その様子を見ていたヒースは、優しい目つきで本題となる報告をする。
「―――シルバ、予定通り招待したアリウム騎士団の有力騎士三名、
……それと、前回の大会優勝者であるゴッツ殿の大会参加はほぼ確定です、
ですので、最終戦はあの“剛槍使い”と呼ばれた彼との戦いになります」
闘技場周辺を視察している間、ヒースには独自に動いてもらい招待した騎士達が大会に来ているか確認してもらった。
その中の一人、ゴッツはアリウム騎士団の実技指南役であり、前大会の優勝者でもある。
この大会はトーナメント形式で勝ち上がり、最終的に勝ち残った人間が前大会優勝者と争い、その名誉の座を奪取する。
つまり、前大会優勝者は防衛回数が多ければ多いほど最強の名を欲しいがままとし、人々から尊敬の眼差しを向けられる。
特筆すべき点は“剛槍使い”が防衛回数を異例の三回として、堂々たる強さを誇って長年に渡り最強の座を誇っている事であった。
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