天下無双の剣聖王姫 ~辺境の村に追放された王女は剣聖と成る~

作間 直矢 

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シルバ・アリウム、剣聖と成る

ヒースとシュバルツ 2

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 「何が、あったのですか?訊いてもよろしいですか?」

 「……元々、私は名家の生まれであり、父が仕事の都合で屋敷を離れる際に
  繋がりのあったシュバルツ家へ私達兄弟は預けられました、
  しかし、父が請け負っていた仕事の途中、凶悪な犯罪集団による強襲により
  両親は殺害され、残された私と妹はそのままシュバルツ家に引き取られました」


 彼の妹が亡くなっていた事は既に聞いていたが、両親も手にかけられていたとは知らず悲しい気持ちになってしまう。
 
 そして段々と、ヒースの持つ黒い感情が見えてきて彼の姿が寂しく感じた。
 その寂しさに圧し潰されないよう、髪を梳かしてくれる彼の手に触れる。


 「私と……シュバルツ殿に決定的なわだかまりがあるとすれば、
  それは間違いなく妹の死が起因します、彼女の……シルヴィアの……」


 触れていた手は震え、後悔の混じる声を響かせて言い淀むヒース。
 
 無理に話して欲しい訳でもなく、話題を変えようと口を開きかけた時、シュバルツが怒りながら続きを語りだす。


 「―――両親を亡くした二人を引き取って間もない頃、当時のシュバルツ家当主であった
  父の不在時を狙いヒースの両親を襲った賊が我が屋敷に攻め入りました、
  屋敷には最低限の兵士しかおらず、救援がくるまで籠城戦となりました」

 「そんな……」

 「未熟であった我々は、屋敷の地下に逃げ込もうと必死に退路を駆けるなか、
  戦線を破って侵入した賊と対峙する事となり、私とヒースは応戦しました、
  ……結果は苦戦しながらもなんとか撃退し、地下に逃げ込めました」

 「シュバルツ……あれは…」

 「―――最善だったっ!!誰がなんと言おうと、未熟だった俺達がその場を離脱した、
  これを最善と言わず何になるッッ!?俺は絶対に認めないぞッッ!!」

 「違う……違う、私があの時、妹に助けられて、それでっ……
  シルヴィアが……斬られて……俺のせいで……」


 彼の手は、悲しいほど弱々しく私の手を握る。

 閉ざしていた心の奥底、それを吐露して泣きそうになりながらも、死神は妹のその最期を話しはじめた。


 「血が……止まらなかった…、なんとか、必死にっ……止めても、
  シルヴィアの傷は塞がらなくて……、俺の……せいでっ……!!」

 「いい加減にしろッ!!ジルヴィアの死は誰の責でもなく、お前が気負う事なんて
  何もないんだッ……なぜそれが分からない……!!」

 「―――ヒース、もう大丈夫ですよ、ありがとう」


 そう言って髪から手を放してもらい、ヒースと向き合う。

 二人の過去、そして妹であるシルヴィアの死を境にズレてしまった価値観。


 ―――その後のヒースの人生は、想像するに容易かった。


 孤独となってしまった彼はシュバルツ家を離れ、アリウム騎士団を頼るも利用されながら暗殺者として生きてしまったのだろう。

 この結末が、死神とまで恐れられる“黒き刃”の首魁であったとしても。


 「ヒース、つらいですよね……悲しいですよね……」

 「……いいえ、そんな事は、ありません」

 「貴方は、そう言って感情を閉ざし、何も感じない様にしているだけ、
  いいですかヒース、人は心があるから人なのです、だから―――」


 かつて、火の海で見た地獄の景色。

 あの時の私もそうだった、辛い事も、悲しい事も、何もかもを受け入れたくなくて、心を失くし、修羅になろうと。

 しかし、感情を失いかける直前、私を救ってくれたかの剣聖は私を抱きしめてくれた。

 ―――だから、今度は私の番なのだ。

 憧れた剣聖のように、大切な人を救うため、死神と呼ばれた彼の身体を―――


 「………ぁ」


 強く、強く抱き締めた。


 「だから……これからは私やミオ、そして黒き刃の皆様、
  それにジニア村の人達と、おまけにシュバルツだってここにいます、
  なので、安心してください……なんて言葉は傲慢かもしれませんが、
  何があっても大丈夫です、私が、私達がいますから」

 「―――シルバ……様…」


 妹を亡くして以来、感情を捨て死神となった男の目には涙が溢れる。

 彼の姿は、なきじゃくる唯の男の子であり、シルバは優しく頭を撫でた。


 「シュバルツ」

 「―――っは」

 「貴方も、過去のしがらみに囚われて結果や能力にばかりに傾倒しています、
  ……少しでよいのです、少しは感情的に物事と向き合い、貴方の婚約者と
  きちんとお話してあげてください、……彼女は、ネネはとても良い子です」

 「……善処、致します」


 敬服し、跪くシュバルツはシルバを敬う。
 それは王女としてではなく、かつての友人を救ってくれた想いからの敬服。

 ―――剣術大会前夜に話された二人の過去。

 未だすれ違う感情はあるものの、二人を別つ大きな壁は取り除かれて、大舞台の幕が上がろうとしていた―――。

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