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シルバ・アリウム、剣聖と成る
三十五話
しおりを挟む「シルバ王女のジニア村赴任の際、その襲撃を計画した首謀者は我が父、シバです、
それ事態は既にお気付きかもしれませんが、問題はその後にありました」
「……問題?」
「はい、事の始まりは私とシュバルツ様の婚約ですが、それはお互いの家名と
立場を利用した政略的な物です、シルバ王女襲撃計画が成功した際に、
シバ家とシュバルツ家の繋がりを強くすることが目的の……」
「しかし、その計画は失敗し、私はジニア村にて立場を固めている……と」
「そうです、その現状を危惧している父は、王女様がシュバルツ家に取引を
持ち掛ける事を予想し、何か変化があれば私に探りを入れて報告しろと、
―――そう、父に命じられております」
つまるところ、彼女が話す内容が嘘偽りの無いものであれば、目の前のネネはシバの内通者であり、シュバルツとの密約も筒抜けとなる。
そうなると非常にマズい、時間と労力をかけて組んでいる剣術大会にも支障をきたす可能性があるし、ジニア村の問題を悟られ手を打たれる事も考えられる。
一瞬だけ、僅かにだが、私の中に存在する悪しき心が震える。
―――斬り捨てる。
なんて、良からぬ考えが脳裏をよぎり、天を仰いで目を閉じた。
「―――ネネ」
「は、はい……」
「そこまでの内情を敵である私に話すのは、何か大きな事情があるのですね」
「大きな事情……では、ないかもしれません、ですが、私にとっては重要なことです」
その言葉を聞き、ゆっくりと瞼を開けて彼女の瞳を見据える。
「父は……必要とあらばシュバルツ様でさえ利用して、帝都を、この大陸を
手中に治めようと躍起になっております、私にはそれが耐えられないのです」
「―――それは、いったい何故?」
「……私は、彼を、シュバルツ様を愛しておりますッ……、
言葉だけと思われるかもしれませんっ、ですが、婚約前からずっとお慕いしており、
経緯はどうあれ、婚約のお話が私に舞い込んだ時には本当に嬉しかった……
王女様に悪いと理解していても、感情だけは押さえきれなかったのですっ……!」
堪えていたであろう涙が溢れ、ネネは呼吸を乱しながらもなんとか言葉を続ける。
その姿が嘘を付く者の姿に見えるはずも無く、シルバは自身のハンカチを彼女の頬に当て、その涙を拭ってあげる。
「もうっ……、何も知らない彼にこれ以上の嘘はつけませんっ……
例えシバ家を裏切る形になろうと、私はシュバルツ様と添い遂げたい、
だからこそ、シルバ様に今回の事をお話したかったのですっ……」
「……そのご決断が、その勇気が、愛する人を守り、
未来が決して暗い物にならぬように約束致しましょう」
「―――シルバ様っ……こんな私を許してくださり、本当に……
感謝の言葉もありません……何卒っ…シュバルツ様をお願い致します」
香りのよい紅茶が妙に冷静さを保持させ、この場で聞いた話の内容を整理する。
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