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シルバ・アリウム、剣聖と成る

二十話

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 「確かに彼は会議の中で私との婚約を反故にしました、ですがそれは、
  シュバルツ家を守る為の行動として見れば理に適っております、
  暗殺計画に関わる騎士は多少いると推測できますが、
  彼にはその計画は説明されていなかった、そんな気がするのです」

 「―――その根拠は?」

 「最初から私の暗殺を計画するのなら、わざわざ辺境の地に追放させなくても
  シュバルツ殿との婚約を済ました後にいくらでも出来たはずです、
  だがそうしなかったのは、シュバルツ殿が暗殺計画に加担していなかった
  からではないでしょうか?……それに、私と確執のあった派閥と、少数では
  ありますが擁護してくださった派閥、彼はその中立に位置する騎士でした」

 「……根拠としては弱いですが、確かに一理はありますね、
  ―――とは言っても、一理あるだけで我が姫をそんな男に近付ける
  理由にはならない、素直にシルバの提案を聞くわけにはいかない」


 珍しく否定的な意見を述べる彼に、その心中が気になり質問する。


 「ヒースさんがそんな風に人を言うの珍しいですね、彼と何かあったのですか?」

 「……家名や立場を守る為とはいえ、姫との婚約を破棄するなんて言語道断、
  シュバルツ侯爵は貴族としての在り方は立派かもしれませんが、
  騎士としての在り方は道を踏み外しております、故に信用出来ず、危険だと判断します」


 なるほど、私は騎士道がどんなものか分からないが、暗殺者だった彼がそう言うのならきっとそうなのだろう。


 ………
 ……
 …


 (いやいや、黒き刃として生きてきたヒースさんが騎士道ってちょっとおかしくない?)


 自問自答した思考に迷いが生じ、気になった答えは更なる好奇心を生む。
 こうなれば納得のいく言葉を聞くまで、彼の考えを探ってみなければ。


 「ヒースさんが思う騎士道ってなんです?
  シュバルツさんにはシュバルツさんなりの騎士道があったんじゃないですか?」

 「―――ふむ、難しい質問ですね……
  確かに彼の騎士道がどうであれ、芯を通したものであれば私の考えは
  歪であるかもしれません、しかし、私の騎士道に婚約者を見放す選択肢など
  あり得ません、ましてや国の姫など以てのほかです」

 「なら私が一国の姫ではなく、彼の恋人であったとしたらどうです?
  この場合の婚約破棄は騎士道に反しませんか?」

 「余計性質が悪いですよ、乙女の恋心を踏みにじって得る名誉など、
  私にとっては何の価値もありません、考えるまでもないです」

 「ふーん……騎士道って複雑ですね……」


 話を聞く限り、彼の騎士道は統一された規律とかでは無さそう。

 どちらかというと心構えみたいな、抽象的な物なんだろう。
 少なくともヒースさんの騎士道は好きな人を見放す事はしない、という事がわかった。


 「―――あれ?」


 私が辿り着いた答えと、彼の出した返答を照らし合わせると一つの疑問が生まれる。


 「どうかしました?シルバ?」

 「いや、ヒースさんって私の事好きなんですか?」

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