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シルバ・アリウム、剣聖と成る

十二話

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 「ふむ……これは……」

 
 ペラペラと資料を眺めて調査すること二日、違和感を覚えていた交易履歴の正体を掴む。


 「小麦も穀物類も、通常の相場の半分以下で搬出されている……
  こんな価格取引では農作物を作るだけ損をする、
  なのに、六年もの間これを続けているのはなぜでしょうか」


 少しだけ虫の居所が悪くなり、読んだ資料を机に叩きつけてしまう。
 しかし、それだけこの事実は国に携わる者として容認出来るものではなく、この村の発展を妨げる大きな要因となっている。


 「しかもですよッ!?搬出リストに記載されている物品個数と、
  実際に積み込んだ数が全然合わないんですッ!!
  半値以下で売っているのにも関わらず、支払われている以上の個数を納品している、
  これは許されない事実ですよッ!!ねぇ!?」


 慣れ親しんだ魔力の感覚を影から感じており、誰もいない筈であるこの部屋で独り言を大きな声で呟くには訳がある。


 「そう思いますよねッ!?ヒースさんッ!!」

 「―――随分と荒れていますね、珍しい」


 静かに潜んでいたヒースは、何も言わずその言葉を聞いていた。
 名前を呼ばれて影から出ると、彼は主から辛辣な言葉を浴びせられる。


 「もーー!!ヒースさん言葉が堅いッ!!嫌いですッ!!」

 「え゛ぇぇッ!?」


 黒いアサシンは今にも泣きそうな顔で俯き、子犬の様になっていた。

 ちょっと八つ当たりのつもりで言ってしまったが、少し冗談が過ぎたみたいだったので反省、フォローしなければ。


 「っと……冗談ですよ、ヒースさん♪
  お兄ちゃんみたいで、ついからかっちゃうんです」

 「心臓に悪いです……シルバ…さん」

 「けど、口調が堅いのは本当ですからね?
  せめて呼び捨てで呼べるぐらいにはして欲しいですね、
  カズキさんなんてこの前、私の事を“お嬢ッ!”なんて呼んでましたよ?」


 カズキとは黒き刃の一人である少年。
 
 六人のアサシンで結成されていた黒き刃は、その一人一人が一級の魔術、体術、そして特殊な技能を持つ特異な集団。

 カズキもまたアサシンとして活動し、シルバ襲撃以降はヒースに付き添う形で協力している。
 ちなみに、シルバを襲った際に一番最初に気絶させられた少年でもあり、わりと気さくな性格でもある。


 「カズキのやつッ……我らが姫様をお嬢などとッ……!」

 「あはは……彼の明るさは他の皆様には無い明るさですよね、
  ―――さて、あれからフタバ伯爵の動向は?」

 「は、シルバさんの予想通り、ジニア村から搬出された積荷は街道を超えて
  フタバ伯爵の城に運び込まれておりました、それも大量に……です」

 「やはり、ですか……いっそ嘘であって欲しかったですね……」

 「……追い打ちをかける様で申し訳ありませんが、シルバ様これを」


 そう言って渡されたのは、積荷の納品リストであった。
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