愛と詐欺師と騙しあい

作間 直矢 

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変化と窮地

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 静かで冷たい部屋、繁華街の一角にあるキャバクラ店の事務所。

 そこに洋助は礼儀正しく、ネクタイをしっかりと締めてスーツ姿で座っていた。


 「へー……!君、元々ホストやってたんだ、面白いね!!」

 「そーなんすよっ……色々あって、今はぷーでそろそろ働こうかなーって」

 「うちは全然歓迎だけど、君なら他所のお店でホストに戻った方が稼げるよ?」

 「いや俺もいい年なんで、そろそろ裏方でいいかなーって、あはは……」

 「なんだかもったいな、まぁ、うちも人手不足だから無理強いはしないけどさ」

 「助かりまっす、それで、今日から働けそうですか?」

 「全然いいよ!!むしろ助かっちゃうなー!!」


 このキャバクラ店の店長は上機嫌で俺を案内して歩く。
 簡単な仕事内容や店内を説明し、今日の夜から出勤となる。

 が、それは仮初の目的。

 このお店で働く理由は別にあり、柴田組によって運営されているこのキャバクラ店の内情を探る事で、最終的な目的である詐欺師の情報を得る。

 実際、織田の組織から提供された情報では、組の資金源となっているここで詐欺師が出入りしている、という噂があるらしい。

 確信の無い情報に頼るのは良くないが、一から何かを成す為にはしょうがない。
 気だるい気分を押し殺し、俺は真面目に仕事をする。

 そして、まだ日の光が出ない早朝。

 未だ闇が深い色で染まるこの時間に、一仕事を終えて俺は事務所に戻った。


 「……疲れたなぁ」


 裏方であるボーイの仕事。

 単純な作業や接客もあるが、嬢のメンタルケアが非常にしんどい。

 なんなら、俺が関わった一人に詐欺師がいるかもしれないのだ、最低限の注意を払った上で人と接していると、無神経であるはずの神経がすり減っていた。


 「―――ただいま……」


 流石に寝ているらしく、あいの気配は感じない。
 事前に遅くなると伝えているし、気にせず寝ていて欲しかったのだからこれでいい。

 それに、交わした約束を守る為にも、朝までには戻りたかった。


 ―――だが俺は、寂しさを感じた。


 おかえり、と言って欲しい。

 誰かに迎えられる事が、こんなにも有難いものだったと再認識してソファに腰掛ける。


 「はぁ……」


 思わずため息がこぼれ、虚無感と脱力が同時に襲って気力が削がれた。

 久しぶりの詐欺師としての依頼と、いつぶりかとなる真っ当な仕事。
 
 疲れて瞼は重くなり、腰掛けたソファと冷え切った部屋の中で俺はまどろみ、意識をおとして眠りについた。

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