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変化と窮地
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しおりを挟む「はぁ……ねぇ、ようちゃん?」
「―――ん?」
「最近、暴力組織同士の抗争が頻発してるの、知ってる?」
「前におっさんからちらっと聞いたな、今回の依頼と関係あるのか」
「そう、今回調べて欲しいのは柴田組に雇われた所属不明の詐欺師、
通称“幻覚使い”と呼ばれる詐欺師について調査してほしいの」
「……幻覚、か」
「―――ぁ、んっ……」
仕事の話をしつつ、彼女の舌を味わう。
何度もしているはずなのに、茜とのキスは麻薬的な心地よさが残る。
舌伝いに唾液を流し込み、それを呑みこませて話を続けた。
「噂に聞いたことがあるな、過去に集団で幻視、幻覚の類で話題になった事件、
それに関与したのが一人の詐欺師であり、イカれた女ってだけ聞いてる」
「そう、何度か大きな事件を起こしても、その能力でしっぽを掴めずにいる……
今回、お偉いさん達は本気でその幻覚使いを潰そうと考えている、
だから、織田オーナーもようちゃんに頼んでいるわけ?わかった?」
「事情はな……けど、それって俺も危険じゃねぇか?」
「あ、分かっちゃった?」
「そりゃ嫌でも分かるだろ……どうせ、組織に潜入して探れって言うんだろ?」
「それもせいかーいっ!……ご褒美は、この続き?」
「……いや、今日はここまでだ、部屋ではしない事にした」
「えー!?ここまでしといて、本番はしないって生殺しだよぉ……」
「勘弁してくれ、前まではそこら辺にゴムもオモチャも置けたが、
今はちゃんとここで生活してあいもいる、わかるだろ?」
「―――ちぇ、あいちゃんの為なら仕方ないかぁ……」
渋々と距離を取り、最後に軽くキスをして離れると可愛らしく唇を尖らせる。
そして、茜は真面目な顔をして言い放った。
「ようちゃん、今回の依頼……いつもと同じと思わないで」
「あ?なんで?前に似たような仕事あったろ」
「……違うよ、今のようちゃんには守るべき人がいるでしょ?
もし、万が一、あいちゃんの命が天秤に掛けられたときに、
ようちゃんは冷静でいられないはずだから……だから、ね」
「―――あぁ……せいぜい、気を付けるさ」
なんだったか、胸の内に秘めた思い出。
その人は、俺のせいで争いに巻き込まれ、俺のせいで命を失った。
愚かすぎるほど優しく、愚かすぎるほど実直な愛を教えてくれた人。
母と慕った、過去、俺の力に影響されなかった家族。
あいもまた、同じ過ちを歩ませてしまう可能性があるのなら、俺はこれ以上誰も騙したくないと、そう思ってしまった。
「茜」
「なーに?ようちゃん」
「ありがと、な……」
詐欺師として、彼女と数年間共に仕事をしてきた洋助。
その彼が、初めて感謝の意を茜に示した。
あいのこと、仕事のこと、詐欺師のこと、そして自身を案じてくれた気持ちに対して。
ゆっくりだが、確実に人としての成長を遂げた詐欺師は温かく笑った―――
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