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変化と窮地
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しおりを挟む新年、それも過ぎて寒さが益々厳しくなる冬の景色。
相も変わらず仕事の無い私立探偵は暇を弄び、つまらない雑誌を投げ捨ててソファから起き上がる。
「腹減ったな……」
アホ面を引っ提げ、やる気のない表情で呟く。
と、少女が投げ捨てられた雑誌を拾ってその阿呆を叩いて喝を入れた。
「洋助、働かざる者食うべからず、ですよ」
「―――ほら、俺ってまだ子供だからさ、養ってもらわないとじゃん?」
「……うわぁ、よく恥ずかしげもなくそんな事言えますね、
胸に手を当ててちゃんと考えてください、本当にそれでいいんですか?」
「うーん、考えても俺は働かない事でしか上手く生きれ無さそう」
「はぁ……」
あいは落胆し、ゴミを見る目で俺を蔑む。
しかし、それも日常化しており心地よさすら覚えてにっこりと返しておく。
「―――ん?何してんのあい、ランドセルなんか持って」
「洋助……この前言ったじゃないですか、
間もなく冬休みも終わって新学期が始まるんです、
その準備をしてるのも分からないのですか?それとも、忘れてました?」
「ああ……あぁ!!そうだな、そうだったそうだった!!」
「もう、一応の保護者なんですからしっかりしてください」
必要な物をランドセルに詰め、手際よく進めていく。
ふと、彼女の身辺を何も知らない事実に焦りを感じ、素直に聞いた。
「―――あれ、あいって学校変わったよな?転校……でいいのか?」
「そうです、織田さんが一緒に学校への確認と手続きをしてくれました、
私の保護者は日中、ずっと寝ていて何もしてくれませんでしたから」
「ご、ごめんよ……あい」
「いいです、洋助には大人としての責任を期待しておりませんので」
実際に何もしていないので反論すらできず、困った顔で謝る。
「そうだっ、学校始まったら毎日お見送りと迎え行ってやるよ」
「えぇー……別に、集団での登下校なんで洋助は必要ないですよ」
「いやいや、ほらっ!なんか横断歩道で旗持ってる人いるじゃん?
あれやるよ、どうだ嬉しいだろ?なぁ、あい」
「あれは決まった人が役割を持ってやっているんですよ」
「あー、あれか、PTA的な人達?」
「うーん……多分、あとは地域のボランティアの人とか、かな」
「まぁ何でもいいや、とにかく、学校の登下校は行ける範囲で付き添うよ、
一応犯罪とかに巻き込まれたら大変だしな、それぐらいいいだろ?」
「ま、まぁ……出来る範囲でお願いします」
照れた顔を隠すあいは、それを彼に見られないように作業に戻る。
どうしようもなく、どうしようもない大人。
それでも、あの時、公園で同じ夕日を眺め、同じ時間を共有した酒に溺れた大人が見せた真剣な顔をあいは知っている。
―――彼が語った嘘、けれど、確かに洋助は涙を零した。
そこであいは、見抜いてしまったのだ。
天性の体質や、大人びた性格からではなく、ただ一人の人として。
『俺は……人を騙して生きているんだっ……』
流れた涙を見た時に、この人はどうしようもなく、どうもしない。
確信的な感情にうたれて、隣で黙って話を聞いていた。
だから、二度目となる邂逅の瞬間、素直に嬉しかった。
酒に酔った一時的な感情だったとしても、あいにとって最高の理解者。
全て嘘だったとしても、嘘すら虚であっても、それを覆して彼を理解する。
彼と一緒なら、なんだって出来ると信じているから。
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