愛と詐欺師と騙しあい

作間 直矢 

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日常

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 「おや?ようやく来たんだねようくんっ!いやぁ…待ちかねていたよ、
  あいくんもメリークリスマス!!あれから困った事はないかい?」

 「織田先生、今日はお呼び頂きありがとうございます、
  おかげさまで、洋助がちょっとダメダメなだけで変わりはないですよ」

 「あははっ!!それはなにより、ささっ、今日は楽しんでね」

 「―――おい、お前ら言いたい放題言いやがって、
  俺だって結構傷付くんだぞ?いいのか、俺が泣いたら面倒だぞ?」

 「ふぅん……僕は、ようくんが泣いた姿見てみたいな?」

 「―――宗一郎さん?少し、赤原さんに失礼ですよ?」

 「あぁ、ちょっと言い過ぎたね……ごめんねようくん、そうだ奏、
  あいくんとようくんに温かいものを振る舞ってくれないかい?」

 「あらいけない、いまお持ちします」


 柔らかい笑顔で奏さんはキッチンへ向かう。

 それを見て落ち着いて腰を下ろすと、織田と目が合いねっとりとした笑顔を向けられ、思わず中指を立てて返事をした。


 「―――そういえば、茜とヤク子は?先にあいつらが着いてると思ったが」

 「あの二人には少し買い出しに言って貰っているよ、
  誰かさんの到着が遅かったから、気を遣わせてしまったみたいだ」

 「あーはいはい、わりぃな」


 隣に座るあいがこちらを睨み、織田への口の利き方に楔を打たれる。


 「そうだ、あいくんはクリスマスプレゼントは決めたかい?
  今日はサンタさんが良い子にプレゼントを贈る特別な日だ、
  良かったら僕に欲しいものを聞かせてくれないかな?
  もし言いにくかったら、紙に書いて“これ”に入れてもいいよ」


 そういって取り出したのは、大きな赤い靴下。

 爽やかな笑顔であいを見つめ、にこにこと愛想の良い振る舞いをする。
 その胡散臭い顔が、狐が人を化かす様に見えて俺は好かない。


 「織田先生……別に、私は…プレゼントは…」

 「何言ってんだよ、せっかくサンタがくるんだ、
  欲しいもの好きなだけ頼めばいいんだよ、ほら、俺は決まったぞ」

 「なっ……!?洋助ッ!?貴方が書いてどうするんですかッ…!?」

 「ケチ臭いこと言うなよ、人生で一回も貰ったことないんだから、
  少しぐらいわがまま言っても罰は当たらねぇだろ?」

 「そ、それは……」

 「あははっ!!本当に君は飽きないねぇ、ようくん、
  構わないよ、あいくんもプレゼントが決まったら一緒に入れといてね」

 「―――はい……」


 洋助が語りたがらない自身の境遇を察して、子供じみたプレゼントへの憧れを容認して何も言わなかった。

 彼が何を願ったのか、何を欲しがったのか。

 少しだけその願いに興味を持ちながらも、彼女もありふれた願いを綴って靴下に想いを込めた。

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