愛と詐欺師と騙しあい

作間 直矢 

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日常

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 「―――プレゼント、お願いしたら貰えますかね」

 「当り前だ、あいはめっちゃいい子だからなっ!!」

 「もうっ……子供扱いしないでください」


 少し照れたように顔を隠し、寒空で冷えた頬は熱を帯びる。

 こうして隣を一緒に歩く事に違和感が無くなり、二人は歩幅を合わせて白い雪道をゆっくりと歩んでいた。

 ―――すると、洋助のスマホが鳴る。

 突然の連絡に彼は顔を歪め、溜息を一つしてスマホの液晶を流し見た。


 「はぁ、織田の奴だ」

 「え?織田さん?なんでしょうか……」

 「わからん、どうせろくでもない仕事の依頼だろ」


 渋々画面をスワイプし、キツネ顔の声を聞く。


 『やあダーリン、お疲れ様』

 「次その呼び方したら切るからな、
  要件があるなら手短に頼むぞ、今あいとデート中だ」

 「なッ!?な、なに言ってるんですか、このバカ洋助はッ!?」

 『はははっ!!いや随分と仲が良さそうで安心したよ、
  やっぱりようくんとあいくんを一緒にさせたのは正しかったね』


 心底嬉しそうに話し、織田は無駄に爽やかな声で続ける。


 『あぁ、それでだけど、今日は仕事の話じゃないんだ』

 「はぁ?知ってるだろ、俺には仕事以外で電話するなって」

 『そう固い事言わないで、皆でクリスマス会でもしようと思うんだ、
  普段お世話になっている茜くんやヤク子くん、それにあいくんと
  一緒に僕の家で細やかながらパーティーでもどうかなって』

 「……なるほど?」

 『あと、迷惑じゃなければそのまま家に泊ってくれないかな?
  サプライズであいくんとうちの娘に、サンタさんを見せてあげたいんだ』

 「―――おぉ……!」

 『どうかな?今年のクリスマス、楽しくしないかい?』

 「お前にしては悪くないな、サンタは俺も見たい」

 『相変わらずサンタを信じてるんだね、可愛いね、ダーリンっ』

 「―――死ね」


 勢いで通話を切り、そのままスマホを投げ飛ばしそうになったが寸前で留まる。

 状況の掴めないあいは不思議そうな顔をして、俺を見上げて質問した。


 「織田さんはなんて?お仕事ですか?」

 「いいや、仕事じゃないから安心して」

 「べ、別に……不安になんか思ってないですよ」

 「残念だなぁ……」


 わざとらしく悲しい顔で落ち込み、あいの気を引いてポケットから手を出す。
 空に浮いた手を彼女の前に差し出し、自然な流れでそれを掴んでくれた。

 心の冷たい詐欺師は、手も冷たい。

 だが、小さい陽だまりの様な手に引かれ、彼の心は温まる。


 「なぁ、あい」

 「なんです?」

 「今年のクリスマスは、織田の家でパーティーしないか?」

 「織田……先生のとこで、ですか?」

 「ああ、茜やヤク子も呼んで、皆でお祝いしようって、
  ……もちろん、あいが嫌なら断っていいけど」

 「いいえ、嫌なんて事は無いですよ、喜んでお受けします」

 「なら良かった!!その日は織田の家に世話になるから、
  泊りの用意して行こうなっ!!サンタも来てくれるらしいぞっ!!」

 「えぇー?サンタさんが…?」

 「楽しみだなっ!あい!」


 毎年訪れる聖夜。

 変わらない一日であるはずなのに、なぜだか気分が浮足立つ。
 
 それと同時に、最後に誰かとクリスマスを祝うのはとても古い記憶だった事を思い出し、俺はあいとの思い出を刻もうとした―――

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