愛と詐欺師と騙しあい

作間 直矢 

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邂逅

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 『よぉぉしッ!!今タクシー呼んだからなっ!!
  これで駅まで帰れるぞ!!良かったなっ!?嬉しいかっ!?』

 『……あの、嬉しいのですが、手持ちが無くて……交通費が……』

 『なに言ってんだよッッ!!!そんなん気にするなッ!!
  ほらッ、これ持ってろ!!タクシー代ぐらいは入ってるから遠慮なく使え!!』

 『で、ですが……』

 『大丈夫だからっ!!俺は恋人が迎えにくる、気にすんな!!』


 あまりの勢いに断れず、少女は財布のような袋を強引に手渡された。

 流石にそのまま受け取る訳にもいかず、一度返そうとするがリュックにそれを詰められてしまう。

 少女にとって、これほどまでに無茶苦茶な大人は知らず、ほんの少しだけ元気が出た。


 『おっ……タクシー来たみたいだな、気を付けて帰れよ』

 『あ、っはい……お兄さんも、お酒飲み過ぎない方がいいですよ』

 『俺は大丈夫っ!!酔ってねぇから!!!!』


 そう言って手を振る詐欺師は、ゴミ箱を大事そうに抱えて横になり寝ている。
 とても虚しい気持になりながらも、少女はどこか心の奥底が軽くなっていた。

 その帰路につく車内。

 バックミラーに映る酔っ払いは、警察に囲まれているのであった―――


 「懐かしいな、あの時に会っていたのか」


 断片的ではあるが、過去のあいとの出会いを辿る。

 数年前だろうか、今と容姿も雰囲気も変わっていて気付けずにいた。


 「そうですよ、あの後大変だったんですから……
  洋助が渡してくれたお財布、あれ、お金がたくさん入っていたんですよ?」

 「え?そうだっけ?」

 「把握してなかったんですか……確か、二百万円ぐらい入ってました、
  すぐに施設の先生に預かってもらって、警察の方へ届け出たんです」

 「ほーん……」

 「けど、洋助が全然取りに来ないから施設の方で拾得することになって、
  施設の運営に宛てられました……それは、感謝してますけど……」

 「なら良かった、無駄にならずに済んだな」


 多少勿体ない気もするが、財布を無くすことなんてよくある。

 むしろ、その行方が分かって正しいお金の使い方をされたのだ。
 俺が持っているよりも良かったと、心からそう思えた。


 「それで……あの時お財布に入っていた物を預かっていて、
  いつか出会った際、お返しできるようにと……」

 「なんだ、財布に何か入れてったけ?」

 「はい、これを……」


 あいは大事そうにしまっている手帳から、一枚の写真を取り出す。
 それはくしゃくしゃになっており、雑に折られて擦れていた。

 しかし、あいの性格からか写真はきちんと手入れしてあり、丁寧に取り出された。

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