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邂逅
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しおりを挟む「ご挨拶を、あいちゃん」
「―――っ、あのッ……その、篠崎あい、です」
彼女は、一瞬何か言いかけた様子で自己紹介した。
「赤原洋助だ、よろしく」
「えっと……他には…?」
―――しまった。
今日ぐらい愛想よく振る舞おうと思ったが、どうやら面倒になって雑な挨拶をしたらしい、その証拠に管理者の方が困惑した様子でこちらを見ている。
「あぁ……すみません、彼女はこちらで責任を
持って引き取りますので、織田の方にも改めて伝えておきます」
「あ、はい!どうかあいちゃんをよろしくお願いしますね!」
「……」
それからほどなくして、形式的な手続きと準備を済ませて篠崎と呼ばれたこの子と俺は施設を出た。
最初の印象から感じていたが、無口なのか寡黙なのか全然言葉を発しない。
もしかしたら、第一印象が悪かったかもしれないな。
「―――あぁ、そうか」
はっ、となり気付く。
彼女には特異な体質が備わっているかもしれないのだ。
俺が感じた第一印象が悪いという感想も、ひとえにその体質故かもしれない。
「……あの、一ついいですか?」
「―――ん?」
「人がいたのできちんと聞けませんでしたが、今回の身元の引き受けは
とても急に思えます、貴方は詳しい事情を知っていますか?」
「お前はこの境遇に納得いってないのか」
「いいえ、私の処遇に関しては先生や織田さんからきちんと聞きましたので
不安はありません、ですが、直接の管理を担う貴方にはがっかりしました、
何故こんなだらしない大人が私の保護者なのでしょうか?」
「おいおい……初対面なのにボロクソ言われるなぁ…」
「―――初対面……ですかっ…そう、そうですね……」
やはりどこか歯切れの無い彼女は、気を取り直して続けた。
「そもそも、身だしなみもちゃんとしていない大人を信用できますか?
ほら、ネクタイをしっかり締めてください、それにここ、汚れてます」
「お、おう……」
まさか一回り以上も年下の女の子にネクタイを締め直されるとは思わず、言い返す余裕すら無くたじろいでしまう。
―――気恥ずかしさ、とも言うのか。
女性とは幾度となく乱れた関係を築けていても、何気ない行為には慣れていない事に気付かされる。
「……篠崎って何歳だっけ?しっかりしてるなぁ」
「あい、でいいですよ……それと、11歳です、来年で12、
これから預かる私の事ぐらいきちんと調べておいてくださいよ……まったく…」
「すまん、そうだよな……俺の事も洋助でいいから、
―――これからよろしく、あい」
怒り気味に手を離され、俺のネクタイはきっちりと結び直された。
首元がキツく感じ、若干の窮屈さを覚えながらもあいと目を合わせる。
「―――さ、帰ろうぜ」
「……か、える……帰る……?どこに…です、か…」
「何言ってんだよ、家にだよ、俺達の家に」
「―――ぁ」
「ほら、帰り道はこっちだ、覚えとけよ?」
「は、はいっ……」
自然と手を差し伸べ、あいはそれを握ってくれた。
―――小さくて暖かい、そして穢れを知らぬ綺麗な手。
それを大事に、大切に、だけど恐ろしく感じながら俺はしっかり握るのであった。
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