艱難辛苦の戦巫女~全てを撃滅せし無双の少年は、今大厄を討つ~

作間 直矢 

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最終決戦編

終幕

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 「――――」

 声が聴こえる、暖かく、とても落ち着く声。

 「――――っ」

 何度も呼ばれ、手を引かれる。
 柔らかくしっかりとした手つき、俺はこれを知っている。

 「――すけくんっ」

 そう、大切な人の手。
 その人の名前は――――。

 「洋助くんっ」
 「――――ぁあ……雪」

 本部内の会議室で起きる。
 雪の声で我に返り見回すと、苦笑する焔と怒り顔の灯、そして困った顔をする戦巫女の部隊長達。

 「お疲れのようですね?洋助さん?」
 「いや……すみません…ちょっとボーっとしてしまい…」

 新体制となった大厄対策本部、その現代表である水瀬焔は居眠りをした洋助を咎めず、心配そうに見つめる。

 「洋助くん…大丈夫?」
 「ああ、もちろん、雪もありがとう」

 そして粛々と再開される会議。
 それは二週間前の大規模戦闘による被害をまとめ、これからを話し合う場。

 「体調が悪ければ言ってね?」
 「本当に大丈夫だよ、雪こそ何かあれば言ってくれよ」

 心配する雪を他所に、資料に目を通す洋助。
 その姿を流し見て、雪も意識を切り替えて会議に向き合う。

 現状の確認と改善、そしてこれからの未来を話し合い、その時間は過ぎ去る。

 「―――んー…、問題は山積みだなぁ…」
 「お疲れさま雪ちゃん、今日は参加してくれてありがとうね」
 「灯さん…いえ、これからの事を決める大事な会議ですし、当然ですよ」

 温かいコーヒーを差し出して座る灯は、雪の経緯を想い言葉を掛ける。

 朧の消失後、狐は約束通り雪の魂を引き戻し、その身体と魂を引き戻して現世に還した。
 彼女の身体に異常は無いか、巫女関係者や医療関係者の様々な検査を経て今ここにおり、故に灯は気に掛ける。

 「まぁ、私達巫女にとっては雪ちゃんの存在は重要だし、意見だって貴重、本当にありがとうね、雪ちゃん」

 そして朧無き今、その統制を見直すため水瀬焔を代表として運営し、その補佐、軍事指揮官として灯は日々邁進する。

 「灯さん、こちらこそありがとうございます……ですが私よりも、もっと大変な人がいますよ?」
 「……そうね、ほんっとにあのバカは最後まで手のかかる奴よね…」

 頭を抱えて項垂れる灯は、洋助の存在を憂いては胃を痛める。
 
 それもそのはず、一度大厄となっては本部を強襲し、朧を討った張本人ともなれば快く思わぬ巫女もいる、逆賊はおろか、篝火以上のテロリストである。

 「けど、……経緯や事情をきちんと説明し、納得した方も多いです、巫女や神力の真実を国民に公表するかは再度議論するにしても、私達巫女の環境は確かに変わりつつあります」
 「それに関しては水島さんさまさまだよ、……巫女関係者、幹部連中、多方面に説明に回っては私達や洋助の事庇ってくれてるし」

 水島はその後、自身の立場や人脈を駆使して洋助の擁護に務めた。
 実際その影響は大きく、今回の会議に参加できる程までに組織内では信用を得ている。

 「灯さーん、資料の片づけと、意見のまとめは終わりましたー?」
 「あ、焔、―――ほい、これが組織内の新部隊案のまとめね」
 「ありがとうございます、……雪さんも今回の会議の出席ありがとうございます、あれからお身体は大丈夫ですか?」
 「はい、特に異常も無く、神力も問題なく行使できます」
 「――よかった、本当に」

 心から安堵する焔は、胸を撫で下ろしては微笑む。
 そして、雪の左腕の薬指を見つめて語る。

 「結婚式、楽しみにしております、私も灯さんもそれまでには組織内をまとめます」
 「えぇっと…はい、私達もこれが落ち着いたら、正式に招待させて頂きます…」
 「なーに照れてんのよ雪ちゃん、そんなんじゃあのバカの手綱握れないわよ?」
 「は、っはいっ!」

 肩を叩いて会議室を出る二人は、その間際に雪に伝える。

 「あ、洋助さんなら先に水島さんに会いに訓練場に向かっておりますから、そろそろ戻ると思いますよ?」
 「久しぶりに帰れるんでしょ?一緒に帰りなよ、雪ちゃん」

 元特殊遊撃部隊の二人は、ひらひらと手を振っては雪と洋助を祝福する。
 
 その優しさに感謝しつつも、上がる体温は雪の頬を赤く染める。
 そして大戦から二週間経ち、ようやく一区切りがつき実家に帰れる雪は洋助を待つ。

 ―――雪は想う、朧に突き貫かれて意識を失った後の世界を。

 暗く、冷たい世界にただ一つだけあった温もり、それは間違いなく彼の気持ちであり、それを頼りに彼女は現世に繋ぎ留まった。

 意識を取り戻して最初に見た物は、大粒の涙を流して子供の様な泣き姿の洋助。
 同時に、彼女もまた涙を流して再会を喜ぶ。

 そんな彼の姿を想うと、酷く胸はざわつき、愛おしくなる。

 「―――雪」

 ふと、部屋に彼の声が響く。

 「よう、すけくん…」
 「なんだ、待っていてくれたのか?」
 「――うん、今日は家に帰ろうと思ってたから、洋助くんも帰れそう?」

 隣まで近寄り、その腕に飛びつく雪は以前にも増して甘える。
 二度とこの手が離れぬよう、強く、強く抱きしめて。

 「俺も今日は家に帰って、楓さんと宗一郎さんに近況報告したいと思ってた、一緒に帰ろうか」
 「うんっ!」

 そのまま手を絡めて繋いでは、人の目すら気にせず施設内を歩く二人。
 外に出て街を歩くと、戦いの被害が物悲しく目に映る。

 「―――復興…どのぐらい時間がかかるだろうな……本当に俺は正しいのかな、間違った事をして間違った結果を残しただけなのかな…」
 「それは誰にもわからないよ、……けど、少なくとも朧さんの未来にはこうやって手を繋いで歩く未来は無かった、洋助くんはこれも間違いだと思う?」
 「思わないよ、……そう、だよな、俺はこの幸せを守るために戦ったんだ、ごめん…」

 弱気になる彼の手を強く握り返す雪は、その距離をさらに縮めて言う。

 「―――私は洋助くんが好き、本当に大好き、世界で一番すき」
 「いきなり照れるぞ、どうした」
 「~~~~だからっ……理由、戦う理由なんてそれで良かったんだよ、きっと」
 「……理由か、俺は雪が好きだ、世界で一番、だから、か…」

 納得する洋助は、その大切な存在を抱きしめ返す。

 「ああ……俺は雪がいるから生きれるし、戦える、それで充分か」
 「そ、……そんなしっかり言われると、照れる…」
 「雪が言い始めたんじゃないか、ったく…」

 歩みを進める二人は、冬の冷たい風を受けながら温め合って前に進む。
 そして、見慣れた家が見えてくると、その門前に楓と宗一郎が出迎える。

 「洋助さー-ん!雪ちゃーん!お帰りなさーい!」

 変わらぬ笑顔で手を振る楓は、二人の帰りを待ちわびて喜ぶ。
 宗一郎も穏やかな笑顔で二人を出迎え、洋助に返された紅葉を腰に下げる。

 手を繋ぐ洋助と雪は、帰りを待つ二人にしっかりと告げる。


 「「ただいま!母さんっ!」」


 二人の少年少女は、艱難辛苦を乗り越え成長し、共に家族として寄り添う。
 
 これからも抱える問題は数え切れぬが、それでもこの二人ならばきっと打破し、幸せになれる、なにせ艱難辛苦の戦巫女と、撃滅の兵である二人なのだから―――。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

たななか
2022.07.10 たななか

完結お疲れ様です

2022.07.10 作間 直矢 

ありがとうございます!今後もきちんと話を書けるように努力致します!!

解除

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