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最終決戦編

十一話

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 睨み合う原初の巫女と撃滅の兵。

 攻撃手段が無くなり、戦いの疲弊が顔に出る朧は体術を構える。

 「決着を、着けましょう…」
 「望むところだ洋助、刀が無くとも儂は戦えるぞ」

 刀を構える洋助は、丸腰の朧に襲い掛かる。
 無慈悲な斬撃を振り放つと、舞うような軽さで朧は消える。

 今や絢爛な着物は切り裂かれ、柔肌を晒しては艶めかしい身体を動かし打撃を叩き込む。
 大きく開いた足元は、片足を覗かして蹴りを放つ。

 「はぁッ!!」

 心臓を貫く程の蹴りは、悠々と躱されて洋助は間合いを保つ。

 「終わりだぁぁぁぁッ!!!」

 逆に朧の心臓を目掛け神速の突きを繰り出す。

 ―――街を破壊し、多くの巫女を巻き込み、大厄の侵攻を許したこの決戦は、朧の心の臓を貫く形で幕を閉じる。

 「――――……がはっ…」

 血を吐く朧は、ゆっくりと崩れ落ちると洋助にしがみつき、優しく抱き着く。

 「―――まこと…、まさか儂を討つとはな…洋助…」
 「お、ぼろ……さん?」
 「いいじゃろう……お主が望んだ世界、儂の命と引き換えに果たしてやろう、……あの狐に唆された事を含めても、お主には、…洋助ならば見届けられよう…」

 血が纏わりつく手を、洋助の頬に当てると軽く叩いて小さく笑う。

 「―――お主は儂に似ておる、馬鹿で阿呆、どうしようもないな…」

 神力が小さく光ると、その光は洋助に注ぎ込まれる様に流れる。
 すると、浸食していた大厄の呪いが弱まり、纏っていた武具甲冑も朽ちては落ちる。
流していた蒼炎は、熱を取り戻して赤き血に変わっていき、人の姿を取り戻していく。

 「貴方は……いったい…何を…」
 「――これは罰じゃ、そして義務でもある、儂を超えたからにはその責務を果たす為に生きよ、生きてお主が望む世界を見届け、責任を持て」

 朧の力が注ぎ込まれると、糸の切れた人形の様に倒れる。
 敵である朧だったが、その行為に思考は追い付かず、洋助はただ彼女に寄り添う。

 「朧……さん」
 「お主は本当に馬鹿じゃな…なにゆえそんな顔をする…?」
 「それ、は…」
 「ふふっ……まあ良い、……洋助」

 不意に呼ぶその声は、叱るような、激励の様な声色で紡がれる。

 「―――励めよ」

 目を閉じ、力無く呼吸が止まると、その身体は神力が霧散するように煌めく。

 きらきら輝く光の粒が漂い、朧は還る。
 それはきっと呪われたあの日、初めて巫女となった生贄の日に。

 呆然と見つめる洋助は、自身に滾る血潮の感覚を懐かしみ、手のひらを握る。
 開いて、閉じて、また開く、その感触を忘れぬ為に。

 「約束を、果たしてくれたのじゃな、お前さん―――」

 音も無く近寄るその姿は狐。
 獣の狐耳を上下させて語る彼女は、涙を目に溜めて話す。

 「雪は……戻れそうですか…」
 「無論、余が責任を持って還す、そのために挨拶に来たのじゃ」
 「それは…」
 「永劫の呪いから朧ちゃんを解き放ち、新しき世を切り開いたお前さんには感謝してもし足りん、改めて礼を言わせてくれ……洋助」

 狐耳をだらんと下げ、大きくお辞儀する狐は続ける。

 「儂の命を懸けて雪を連れ戻し、お前さん達に報いよう、それが儂ら大昔に生きた人間の務めじゃろう」
 「貴方は……いったい…」
 「なに、ただの朧ちゃんの友人じゃ」

 そういって振り向く狐は、向こう側へ繋がる鳥居を潜る。
 その最期、彼女は笑顔を向ける。

 「ありがとうな、洋助」

 年相応の笑顔、幼子の様な純粋さで向けられたそれは、まごう事無き少女であった。


 ―――かくして、大きな戦場となった東京は、朧の死をきっかけに大厄も消失。


 武装組織篝火と大厄対策本部の混戦も、水島務を中心に統制され落ち着き、戦禍を逃れてまとまっては、互いに大厄掃討に尽力した。
 歴史的、経済的、そして人類史に残る戦いは、洋助の想いもあり死傷者は少なく終わる。

 ―――朧を失い、新体制となる大厄対策本部は、新しき人員で今動き出す。
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